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「もしかしたらそれは自分だったかもしれない」-アスペルガー障害の姉を持ってみて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鹿熊健(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私にはアスペルガー症候群を抱えている3つ年上の姉がいる。アスペルガー障害というのは発達障害に分類される自閉症スペクトラム障害の一種だ。知能に問題はないが、人の感情を読み取ったり物事の行間を読み取ることを苦手とするため、人とのコミュニケーションに困難をともなう。また特定の分野への強いこだわりを示すことがある。最近は「アスペ」という言葉で、耳にしたことがある人も多いと思う。
 
小学校低学年の頃だろうか。私の姉の同級生何人かに囲まれて「お前の姉ちゃん、なんか変だな」と言われ、胸が締め付けられるようにぐっと苦しくなった感覚をうっすら記憶している。おそらくその頃の私はすでに姉が周囲の人と少し違っていることに気付き始めていたに違いない。だからこそ「そうかもしれない」という可能性にとどまっていたことが、皆にも認められた事実であることを突き付けられてショックを受けたのだろう。
 
私自身小さいころから図体はでかいのに気が小さくて、いつも母親のかげに隠れているようなこどもだった。幼稚園や小学生の低学年の頃は学校を休みがちで、本を読んだりアニメを見たりと内に閉じこもることが多かった。幼稚園の年少クラスで不登校になり、そのまま退園してしまったこともある(その後、引越した先の幼稚園で入り直しなんとか卒園はしたが)。そんな臆病で糞ナイーブな私だったのでなおさら姉の同級生の言葉は心に深く刺さったのだろう。生来自信に欠ける私はこうして先の出来事をきっかけにさらに自信あるいは自己肯定感といったものを失ったのだった。
 
しかしその後さいわいにも友人や先生との出会いに恵まれたこともあって、何とか29歳の今日までやってくることができた。それはきっと中学高校の運動部でのハードな練習、大学時代にはアメリカへの交換留学、会社に勤めてからはインドへの駐在などを経て、少しずつ自信を積み上げていくことができたからだと思う。それとともにずっと漠然と抱いてきた他人や社会に対する恐怖も薄れてきた。20代の後半になったいま、ようやく肩の力が抜けてきたように感じる。
 
私は今の今まで自分のことばかりに必死だった。それは今も大して変わらないのだけれど、これまで100%自分にだけ向けてきた注意のうち、10%分くらいは周囲に対して向けることが出来るようになってきた。それと同時に自覚するようになったのは「もしかしたら障害を抱えて生まれてくるのは、姉ではなく自分だったかもしれない」ということだ。同じ親を持つ姉弟、生まれる順番が逆だったら、あるいはDNAの配列が少し異なっていたら……と考える。このことに気がつくと、色々なことが今までと違って見えてきた。私にとっての姉はアスペルガーというもう一方の可能性を引き受けてくれたもう一人の自分なのである。誰が決めたわけでもなく、それがたまたま姉であって、私でなかっただけなのだ。
 
私はいつも「どうしておれの姉はアイツなんだ」とばかり考えていた。例えば友人と兄弟の話をしているとき、家族で外食に行くとき、デパートに行くとき、彼女を家に連れてくるとき、親戚が集まる法事のとき、いつだって姉のことを誰かに知られたくない、見せたくない、恥ずかしい、という思いでいっぱいだった。
 
しかしそれは自分だったかもしれないだ。私が大学に行き、恋人ができ、留学に行き、就職し、好きなものを買い、飲み会に行き、友達と旅行にいっている間、姉はいつも埼玉の実家にいた。そしていまも自分の将来に不安を抱えながら、母と定年を迎えた父と三人で暮らしている。
 
いま私はようやくアスペルガーの姉を持つことをオープンに話せるようになった。こうして文章にできるようになった。アスペルガーという障害に興味を持ち、調べるようになった。彼女のことを考えることはできるようになった。彼女は絵を描くことが好きなので好きな画材を買ってきたり、好きなゲーム(ポケモン)の新作が出てきたら買ってきたりするようになった。これからはもっと話す時間を作ろうと思う。いまは実家を離れて一人暮らしをしていてほとんど実家には帰っていないが、意識して時間を作ってもっと家に帰ろう。だってずっと家にいるのはもしかしたら私の方だったのかもしれないのだから。
 
アスペルガーの姉を持ったことで私は大切なことに気づくことが出来た。いまの自分が享受しているものは、ある意味では私の努力を超えて偶然に授かったものだということを。そして、姉と私の関係をもう少し広い視点で見れば、日本や世界で社会・経済的に弱い立場にいる人もまた本人の意思ではコントロールできないところで、その環境にいることを強いられている。彼らもまた私にとってはその可能性を引き受けてくれたもう一人の私なのだ。

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2018-06-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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