メディアグランプリ

バブリーダンスと笑えない私


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡辺ことり(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
若い子たちの間で、バブル期をモチーフにした芸術が受けているらしい。
特に、登美丘高校ダンス部のバブルダンスが人気だそうだ。
 
バブル期の派手さや能天気に浮かれたところ、肩パットの入った、ワンレングスのトサカヘアーという、ツッコミどころ満載のファッションなどが、ちょっとした異世界っぽくって、今の子たちには新鮮なのかもしれない。
 
1966年3月生まれの私は、正真正銘、バブルの女だ。
キョンキョンと同い年の52歳である。
 
私にとってバブル期は、とても生きづらい時代だった。
女性に笑顔を強要する時代だったからだ。
 
「あなたには肝心なものが足りないよ。それは笑顔だ」
 
職場で、飲みの席で、古い知り合いや初めて出会った人など、人を変え場所を変え、何度、そう言われたことだろう。
 
この台詞を聞くたびに、役立たずと言われたようで、肩身が狭かった。
 
その後に「仕事はできるんだけどね」とか、「いい人なんだけどね」など、付け足しの言葉が続くものの、全然慰めにならなかった。
 
斜に構えていたつもりはなく、私は単純に笑うのが下手なのだ。
 
面白いことや、おかしなことがあれば、もちろん笑うが、それ以外は表情筋の動きが悪く、仏頂面に見えるらしい。
元々コミュ障気味な上に、不器用な性格なのだ。
誰かと話をする時には、相当なエネルギーと集中力を要する。
 
仕事をしている時もそうだった。
給料計算をしている私の肩をポンポンと叩き、「スマイル、スマイル」と、上司たちが声をかけてくる。
そんな時、私はいつも、顔の筋肉をこわばらせ、一瞬だけ笑顔のようなものを浮かべた。
しかしそれは長持ちせず、私の口は引力に負け、ずるずるとヘの字に下がっていく。
するとまた、顔が怖いよ、たしなめられた。
 
こういうことが続くと、本当に気分が消耗してしまう。
 
今、ちゃんと笑えているだろうか。
誰かを不快にしていないだろうか。
 
私は、常に人の顔色をうかがいながら、20代を過ごした。
 
私と同年代の女性たちは、笑顔の素敵な人が多かった。
上司から名前を呼ばれると、目を大きく見開き、満面の笑顔で「はい」と答えていたし、そもそも黙っていても、常に口角が上がっていた。
 
私は彼女たちに憧れた。
上司たちの意を汲み、期待に応えている姿を尊敬し、なんとか真似しようとした。
 
上司の中には「女に必要なのは愛嬌だよ」と教育的指導を仕掛けてくる人もいたが、絶対音感が3歳までと言われているように、20歳を過ぎた笑顔教育は実らず、私は結局口角を上げることができなかった。
 
周囲の期待に応えられない自分は、女性としても社会人としても失格だと、ずっと思い込んでいた。
笑顔のない貧相な自分がフロアの隅っこにいることで、みんなに迷惑をかけている。
そんなふうに思い詰めるようになっていた。
 
だから友人に勧められて登美丘高校ダンス部バブリーダンスの動画を見始めたとき、私は正直冷めていた。
きっと、笑顔の女性がたくさん出てくるんだろうな。
 
バブルに笑顔は欠かせない。
フロアの隅っこで息をひそめていた、若かりし日を思い出し、なんとなく、胸がざらっとする。
 
ところが。
バブリーダンスの若いダンサーたちは、誰一人ピクリとも笑わなかった。
どんなに頑張っても笑えなかった、かつての私以上に、顔の筋肉が動かない。
仏頂面である。
 
バブルをモチーフにしているのに、笑顔を封印したのはなぜだろう。
バブル期に活躍した女優が、時々「バブルの演技を引きずっている」と揶揄されているが、理由は笑顔だと思っている。現代女性の笑顔より、明らかに大げさで、笑顔を浮かべる回数も多いのだ。
それくらい、バブルの女と笑顔は切り離せない、セットな存在なはず。
制作意図はわからない。
ただ一つ確実なのは、笑わないことで、ダンサーは踊りに集中できている。
 
そして私は気がついた。
 
強要された笑顔は、究極のマルチタスクだ、と。
 
脳科学によると、人間の脳にマルチタスクは不向きらしい。
どんな時でも笑顔でいることを求められていたバブル期の女性は、脳に相当な負担を強いられていた。
仕事に集中している時に笑顔になれない、声をかけられてすぐには口角が上がらない。
そんなの当たり前だった。無理な笑顔はノイズとなり、集中力の邪魔をしていたはずだから。
 
私は、登美丘高校ダンス部のダンサーたちみたいに、凛として踊っていればよかったのだ。
仕事中に笑顔なんて、必要ない。
仕事ができて、いい人なら、それで十分じゃないか。
私はあの頃の自分を、全力で肯定する事ができた。
登美丘高校ダンス部の、笑わないダンサーたちのおかげである。
 
バブルは遠い過去になり、52の私は超高齢社会を生きていく。
恐れることは何もない。
私らしい表情で人生のお立ち台に立ち、ゆったりとした気分で扇子を振ろう。
 
お仕着せの笑顔を捨て、ありのままの自分でいる。
それが平成のバブリースタイルなのだ。
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2018-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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