メディアグランプリ

茶の湯が描き出した心模様 茶道教室はおデブの心のオアシスだった


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記事:布村さわ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
ブチっ! にぶい音がした。制服のスカートのホックがちぎれた音。高校の頃、毎週土曜に通っていた茶道教室での出来事だった。やばい、正座の前にホックをはずし忘れた! 気が付いた時は、あとの祭り。一緒にお稽古をしていたお姉さん方が笑いをかみ殺しているのが分かる。
 
あーあ。いつもこんな感じ。出来るだけ、おしとやかに、そつなく稽古をこなそうと努力はしているのに、何か失敗してしまう……。それでも、私は、茶室で過ごす数時間が大好きだった。
 
茶道などとは、全く無縁だった私が、茶道教室に通えるようになったのには、訳がある。中学の頃、父親が叔父の借金の連帯保証人になり、叔父は夜逃げ。残された父が借金返済のために少しでも給料が高い仕事を求めて、家族で引っ越した。その地で、茶道教室を開いていたのが祖母だった。といっても、血のつながりはない。父の育ての親。父が中学に入る頃、事情があって祖父とは離婚。引っ越すまで、私はほとんど会った事がない遠い存在だった。
 
お金のない貧乏な生活の中で、お茶の稽古に通えたのは、ただで習う事が出来たから。月謝を無料にしてくれる事が、私達家族への同情だったのか、親戚付き合いだったのかは分からない。そのお礼として、昔、お茶を習っていた母は茶道教室の手伝いをしていた。いつもは、借金返済のため、化粧もせず、カーテンの縫製の内職を必死でやっていた母。ところが、茶道教室に行く時だけは、着物を着こなし、凛とする。それが、母のプライドだったらしい。
 
私にとって、その茶道教室は人間模様がうずまく場所だった。複雑な親戚関係や家族問題をはらんだ場所。秘密めいた親戚のうわさ話はそこでしか聞けない。そこでの母との会話で、
私は少し大人になって行った。
 
茶室の中では、静寂と作法に沿った無駄のない動きが求められる。竹林に吹く風のような茶釜から出る湯気の音。室内には、かけ軸と茶花。季節を堪能できる。亭主と呼ばれるお茶をたててくれる人は、あくまで、優雅にお茶をふるまう。そこで使われる茶道具や茶碗も、水差しも選び抜かれた品々。随所におもてなしの心遣いを感じられた。
 
そこに足を踏み入れると異次元の世界に入り込んだような気分になる。まるでプラネタリウム。周りの人はいるけれど、自分だけの世界に入れる独特の空間。日常の雑事を忘れ、深い意識の底につながっていくような特別な時間。そんな時間が持てる茶室は、その当時の私にとって、無くてはならない場所だった。
 
その頃通っていた進学校は、毎日8時間授業。絶え間ない小テスト。山のような宿題。受験勉強に明け暮れる私にとって、土曜という時間は特別だった。翌日は休み。ゆっくり出来る! しかも、その茶道教室に高校生は私だけ。いろんな人にかわいがってもらった。
 
しかし、お茶の時間の終わりには、いつも大きな関門が待ち受けていた。立てない! 足がしびれて動けないのだ。受験のストレスで食べ過ぎ、身長160㎝、70㎏とデブだった私は正座が大の苦手。一度など、無理に立とうとして、転んでしまった事もあった!
  
関門を抜けると、その後はおしゃべりタイム。一緒に茶室に入って練習した人達が、稽古で使ったお茶碗などの道具を片付ける時間だ。水屋と呼ばれる茶室の台所みたいな場所で、作法に従って、使ったものをしまっていく。この時に交わされる話が盛りだくさん。
 
妙齢の若い女性ばかりの会話はテーマに事欠かない。恋愛、お化粧、職場の噂話、家族の悩み……。高校生の私には未経験の話ばかり。その頃の私にとっては、リアルな社会を垣間見る事が出来る貴重な時間だった。
 
高校を卒業し、しばらくお茶の世界から遠ざかっていた私に、お茶の面白さを再発見させてくれたのは、外国から来た1人の高校生。家庭科の講師をしている学校に短期留学で来た外国人に調理実習をする事になった時のメンバーだ。
 
「なぜ、菓子を先に食べるの?」「飲む時に茶碗を回すのはどうして?」「その動作をする意味は?」料理を作り終わった後に、サービスでふるまった抹茶。料理を作っている時は、無表情だった彼が、急に目を輝かし、次々と質問してきた。驚いた。そうか、外国人にとって、茶道ってそんなに面白いものなんだ! 日本の文化って、やっぱりすごいものなんだ!
 
今、茶道は海外でも、瞑想やマインドフルネスのための空間や時間として注目されている。
いつも何かに追われるように働きづめの日本人こそ、一服のお茶で心を整える時間が必要なのかもしれない。そう、一日の終わりに星空を眺め、ほっと一息つくように……。
 
お茶の世界は特別な人達の集まりではなく、身近に楽しめるもの。家庭で手軽に抹茶をいただく。茶室で、気軽に文化や一緒に集う人々とのコミュニケーションを楽しむ。そんな輪が広がっていけば、きっと、日本の社会は、ゆとりのある暮らしやすい世界に変わっていくに違いない。
 
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2018-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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