メディアグランプリ

届けたい、「この味」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【6月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田順一(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「お財布にやさしくて、昭和酒場で。その日の疲れを癒せる
カッコ悪いお店。そんなお店をやりたいと思ったんです」
 
一息置いて、その店主は続けました。
 
「カッコ悪いお店、っていうのが大事なんですよね」
そう言って笑う笑顔は、どこまでも優しさにあふれていました。
 
札幌市の中心にある大通公園から歩いてすぐ、
表通りから一本入った路地裏に、真っ赤な暖簾を掲げる
一軒のお店があります。
 
暖簾をくぐり、アルミサッシの一枚扉を開けると、
そこはもう店内。
 
「いらっしゃいませ~!」
元気のいい掛け声とともに迎えられ、
手際よく席に案内されます。
 
シャアァ~、ジュ、ジュー。
席に座ると、肉や野菜を炒める音と香ばしい香りが漂ってきます。
ここは、鉄板焼きのお店。それも様々な部位のホルモンを
鉄板焼きスタイルで気軽に味わえる、札幌で唯一のお店です。
 
「全くお客様の顔を見ない厨房仕事はフラストレーションが
凄くて。やっぱり、お客様の顔を見て仕事がしたいんです」
 
そう語る店主は、実は元寿司職人。札幌では名店と呼ばれる店で
修業を重ねた20代を経て、料理人として腕を振るいながらも
様々な飲食店の立ち上げやメニュー開発にも携わってきました。
 
「やっぱりお客様の顔や反応、食べている姿を見ながら料理する。
その間にある、駆け引きやスリル。これを一度経験しちゃうと、
お客様の顔が見れないのはつまらないですよ」
 
そのこだわりから生まれたのが、大きな鉄板の
前に並ぶカウンター席。目の前で作られた出来立ての
鉄板焼を味わえるその席は、常連客も競うように座る人気の
場所。そして店主にとっても、仕事のやりがいとも言うべき
お客の反応を直に味わえる、絶好のステージです。
 
これは札幌には無い。寿司屋にも近いし、
独立して自分一人でもできるかも。
自らのお店をオープンする前、本州の様々な飲食店を
見て歩き、店主が閃いたのがこの鉄板焼スタイルでした。
 
こんなお店もいいなあ。
同じ頃、ある雑誌で目に留まったのが、地元客で
いつも混み合うという広島のホルモン焼のお店の記事。
店主夫婦が営むその店のメニューは、ホルモンと
漬物のみというシンプルさ。
 
ホルモンと鉄板焼き。その組み合わせなら、高級店しか無い
鉄板焼をカジュアルに楽しんでもらえるんじゃないか?
 
そう思い立ち、魚から今度は肉の世界へ飛び込んだ店主。
焼肉・ステーキに始まり、鉄板焼き、手ごねハンバーグと
様々な肉料理やメニュー開発を手掛けて15年。
肉のエキスパートになればなるほど、ますます
その魅力の虜になりました。
 
肉って面白い。突き詰めれば、絶対に喜ばれるはず。
 
そう感じさせたのも、やっぱりホルモンでした。
脾臓(チレ)や腎臓、直腸(てっぽう)や胃袋(かつ)、
乳房(おっぱい)と、その種類の豊富さと
味わいの違いに驚くばかり。
 
でも、鉄板焼ホルモンの実現は簡単ではありません
でした。なんといっても、肝心のホルモンが手に
入らないのです。
 
「北海道じゃ、全部捨てていたんです。もったいないですよね」
 
北海道と言えば、乳牛(ホルスタイン)の多い土地。その乳牛の
ホルモンは硬くて独特の臭みもあり、焼肉でもとても食べられません。
そのため、肉を加工する屠畜場でもホルモンは全て廃棄されていました。
 
「でも、下処理をしっかりすれば、あっさりとして
美味しい風味があるんですよ」
 
そう思う店主が、店で提供するお通しメニューは
乳牛のホルモンをじっくり煮込んだモツ煮込み。
優しい味わいの出し汁でたっぷり煮込まれた
その柔らかいモツは、食べても食べても思わず
おかわりが欲しくなる、このお店の看板メニュー
の一つです。
 
北海道のホルモン廃棄をゼロに。
この美味しさを、一人でも多くの人に伝えたい。
 
自らの足で北海道の肉屋という肉屋を当たり、
ホルモン集めに奔走した店主の元には、その独自のルート
を通していつでも新鮮で良質な素材が集まってきます。
 
部位の一つ一つをぬめりが無くなるまで何度も洗浄し
大きな鍋で時間を掛けて煮込む。
毎日のように繰り返されるその仕込みは、
今、店主の中に新たな想いを生み出しています。
 
このお店の中だけじゃなく、家庭の食卓にも、
この美味しさを届けたい。
例えどんな状況でも、美味しく味わえる形にしたい。
そしていつか、世界の果てまで、この味を届けたい
 
「世界の中には、美味しい物を食べずに亡くなる子供も
いるじゃないですか。とても全員には届けきれないし、
命まで助けられるわけじゃない。それは分かってますけど、
一口でも「美味しいなあ」という感覚を体験してもらって
人間として生まれてきたからこそ感じる幸せを一度でも
感じてもらえれば。それが出来るのは、きちんと味付けされた
料理だけだと思うんですよね」
 
これから、やりたいことは何ですか?
ある日、開店前の店を訪ね、私が店主にした質問でした。
 
返ってきた答えは、
「2時間ぐらい、時間もらえますか?」
そうして、このお店名物のモツ煮込みに秘められた
想いを聞くことができました。
 
店主が語るこれからの夢とともに、店内を流れるBGM。
それは2001年にウルフルズがカバーした『明日があるさ』
でした。
 
上司がフランス人になったり、会社を辞めて起業する
友人が気になったりと、歌詞は原曲から書き換えられても
変わらないのは、そのメロディーの響き。
 
その独特のメロディーが、なぜか、この鉄板焼きホルモンの
お店が出すモツ煮込みと同じ味わいがあるように思いました。
 
一歩を踏み出そうか、踏み出すまいかと悩みながらも
明日に向かって生きようとする、
そんな人の背中をそっと押す人情と優しさ。
 
それが、店主が伝えたい「この味」。
そう思いながら口にするモツ煮込みは
口の中だけでなく、心にも染みる味でした。
***

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2018-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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