メディアグランプリ

野球を一度も観たことのなかった私が、一瞬でカープおばさんに変貌をとげた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:飯沼かおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「抑えは、この選手じゃないでしょ~!」
数年前まで、野球を観たことなんて一度もなかった私が、テレビに向かってわかった風なことを呟いている。
いつの間にかこんなに野球観戦にハマっている私に、周囲も驚いている。
 
新婚の時、3年ほど広島に住んでいたことがある。
まず、広島駅に着いた途端、あまりの数の「赤い人たち」に圧倒された。
 
「なんなんだろう、これは……」
広島という街は、「広島カープ」のユニフォームを着て街を歩くことが、あまりにも当たり前のこととして存在しており、カルチャーショックを受けたのを覚えている。
 
私の住んでいたマンションが、たまたま広島カープのホーム球場であるマツダスタジアムの近くであったこともあり、試合のある日は、マンションの前を大勢の赤いユニフォームを着た人たちが行列で歩いていた。以前サッカーのサポーターをしていた私の感覚では、ユニフォームには、球場で着替えるものだと思っていた。その為、家からユニフォームを着て行くことが当たり前になっている文化に慣れることに少し時間がかかった。また、試合のある日はまだ分かるが、試合のない日でもおじさんやおばさんなどは私服として、ユニフォームやカープTシャツを着ている人も結構いた。最初はいちいち「うそでしょ?」と驚いていたが、近い将来、私もそういうおばさんになるとは、その時の私には微塵も想像できなかった。
 
私は、結婚するまでずっと東京の実家に住んでいた。中学から短大まで、サッカー部のマネージャーをやるほどサッカーが好きであった。しかし、Jリーグ開幕当初、東京のチームがなかったこともあって、地域一体となって一つのチームを応援していく風土というのは経験したこともなければ、その感覚がわからなかった。野球では、読売ジャイアンツやヤクルトスワローズもあったが、東京は人口が多すぎるせいか、地域一丸となって応援しているというのとはまた違う感覚であった。
 
そもそも野球のルールが全く分からなかった。かろうじて、ピッチャーとキャッチャーは分かるが、言い間違えて逆に言ってしまうこともあった。外野、内野の違いも分からなかったし、何回までやるかも知らなかった。
「野球って何人でやるものなの?」
なんていう質問をして、夫を激怒させたこともあった。それほど、野球オンチであった。
 
朝の情報番組をつけると、冒頭の5~10分くらいは広島カープの話題であった。司会者の人たちまでユニフォームを着て、前日の試合の振り返りをして何やら嬉しそうに盛り上がったり、残念がったりしていた。当初、野球にも広島カープにも全く興味のなかった私は、「一体なんなんだろう……」と、違和感と、ついていけない戸惑いで、ある意味冷めた目でそれを観ていた。
 
しかし、その感情はある日を境に逆転することになった。きっかけは、「黒田投手」がメジャーリーグから戻って来るというニュースだった。広島県全域が歓喜し、大騒ぎになっていた。一緒に歓喜している夫に、「そんなにスゴい選手なの?」と、聞かずにはいられなかった。
 
黒田投手は、復帰当時の8年前までカープで投手として大活躍していたスター選手だった。8年前。自身の成長の為にメジャーリーグに移籍することになった時、「カープに育ててもらった恩をいつか返したい」と語っていたそうだ。
しかし、8年経ち、本当にメジャーでも必要不可欠な存在となった黒田投手が本当にカープに戻って来るとは誰もが思っていなかった。しかし彼は、メジャーリーグの球団から、21億円とも言われる年俸を提示されていたにも関わらず、年俸4億円でカープに戻ることを決めた。
 
「カネよりも、恩義を返すことを優先する」
そんな彼を、「男気」という代名詞でみんなは呼んだ。そのまっすぐな心に、私の心も動いた。テレビに映ったおじいさんも、黒田投手のまさかの帰還に、泣いて喜んでいた。野球選手の選手生命は長くない。たいがいの人はお金の方を取るのではないだろうか。しかし黒田投手は、お世話になったカープに恩義を返す為、優勝させる為に戻ってきた。その筋の通ったまっすぐな心に、私の心まで正してもらった様な気がした。
 
そこからだった。おじいさんも泣いて喜ぶ様な存在、「黒田投手」の出る試合を観たい!と思う様になった。そして、毎日釘付けになった様にテレビで野球の試合を観た。ルールは全く分からなかったが、目的があると、それに向かって一つ一つ進んでいく過程がとても楽しかった。録画して、夫に聞いたりしながら、毎日観ている内に、だんだんルールも分かる様になっていった。
 
何カ月かの予習期間を経て、ついに黒田投手の出ている試合を観戦しにいくことができた。黒田投手の登場した瞬間のオーラ、存在感はすごかった。そして、外野席から観ていても、一球、一球に込める気持ちの強さが伝わってきて思わず胸に熱いものを感じた。
選手一人ひとりの応援歌も覚えて、一生懸命応援した。球場の観客はほぼ全員がユニフォームを着ていた。攻撃の時は、隣の人と交互に、立ったり座ったりしながら応援するカープ伝統の「スクワット応援」というのをしながら全力で応援歌を歌う。私もユニフォームを着て、スクワット応援をした。夏だったので、夜とはいえとても暑かったし、スクワットの繰り返しによって、普段使わない太ももの筋肉がプルプルと痛くなってきた。しかし球場での熱気と一体感は今まで体感したことのないものがあった。
「野球の応援てこんなに楽しかったんだ」と思った。
そしていつの間にか私は、すっかりカープ女子(実際にはカープおばさん)になっていた。
 
その後黒田投手は復帰後2年目に広島カープを25年ぶりのリーグ優勝へと導き、潔く引退した。黒田投手の生き方からは本当にいろいろなことを教えてもらった。
私には彼の様な素晴らしい実績はないけれど、一瞬で人の気持ちを動かしてしまう「自分に嘘をつかない生き方」に感銘を受けた者の一人として、自分に嘘をつかない生き方をしていきたいと心から思う。

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2018-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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