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ボーカルのないインストバンドは、プレイヤー全員がボーカルなのである


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記事:宮﨑聡史(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
静岡県の浜松にある浜名湖に向かうツアーバス。
そのツアーバスの席で、「まさか、浜名湖に遠征するまでハマるとはねえ」と僕は一人呆れていた。
バスの目的地は浜名湖ガーデンパーク。
そこで、記念すべき第一回目の音楽フェスが開催される。
その音楽フェスに参加すべく、前日までに仕事を気合いで終わらせ、早朝5時に目覚ましをかけて飛び起き、7時半新宿発のバスに乗り込んだのだった。
音楽フェスの名前は「INST-ALL FESTIVAL」
ボーカルの無いイントゥルメンタル、通称インストという音楽ジャンルのバンドのみが出演するフェスだ。
 
僕はカラオケが苦手だ。
歌うのが嫌いというわけではない。
理由は単純にカラオケに入っている歌を知らないからで、歌える歌がないのである。
じゃあ、音楽を聴かないのかというと、まったく逆で、音楽が無いと生きていけないとさえ思っている。
ただし、ボーカルの入っていない音楽が9割を占めていて、いわゆる歌モノをほとんど聴かないのだ。
 
好きなジャンルは? と訊かれると、とりあえずジャズ、またはジャズロックと答えるのだが、普通は理解されない。
どうやら「ジャズ」と聞いてイメージされるのが、古めの正統派ジャズか、カフェで流れるオシャレ系のBGMか、ボサノバ的なものだったりするらしい。
それじゃあと、ボーカルの入っていない楽器だけのバンドが好きで……と説明しようとすると、今度は少し前に流行った「イマージュ」とか、葉加瀬太郎とか、ニューエイジ系を想像されてしまったりする。
 
そうじゃないんだよな……ともどかしい思いを抱えつつ、たいていは説明を諦める。
 
自分の好きなものについて語っても理解してもらえないオタクの気持ちってこんなものかもしれない。
いや、つまり、自分もオタクってことじゃないかと自嘲気味に思いなおす。
そうやって、好きなものを知ってもらうことを諦めて、ファン同士で仲間内で楽しんでいればいいじゃないかと思っていたのだ。
 
そうしたら、インストバンドだけが集まるお祭り、インストフェスの開催される前日。
フェスの主催者がFacebookにこう書き込んでいた。
 
『「まずは知ってもらうこと」
知られなければ興味も持たれないし、興味がなければ好きにもならない。
知られてなくてもいいや、の未来には分岐点は少ない。
知ってもらいたい、とは形を変えた自己顕示欲なのかもしれませんがそれでも良いんです。』
 
たしかにその通りだ。
自分の好きなものを知ってもらいたい、というのは、自分を知ってもらいたいということなのだろう。
でも、良いものは良くて、自己顕示欲とは別に、良いものを知ってもらいたいという気持ちは悪いものではないはずで、知らなければ興味を持ってもらえないなら、諦めずに知ってもらうことから始めるべきだ。
 
僕が主に聴いているジャンルは、基本的にジャズをベースにしていて、ジャズのエッセンスをベースにロックやファンク、クラブなど他の多様なジャンルを取り込んでいる。
最近TVドラマの劇中音楽を担当したりして盛り上がりを見せているので、都心のCDショップのジャズコーナーに行けば、コーナーができているはずだ。
基本的な編成はトリオで、キーボード、ベース、ドラムの3人編成が最小ということになるが、そこに、サックスやトランペットなどの管楽器が加わったり、ギターやパーカッションが入ることで、その編成自体がバンドの個性になってくる。
 
歌が無い音楽というと、本当に映画やドラマのサントラとか、カフェBGMとかしかイメージが無いようで、そんなのずっと聴いていて楽しいの? と言われるのだが、まったくそんなことはない。
なにしろ、歌モノでは男性か女性が同じ歌詞を同じメロディーで歌うだけだが、インストでは様々な楽器がそれぞれの音色とリズムと旋律で歌うのだから。
歌モノでは陰で支えているだけのベースやドラムでさえ歌い出すのだ。
ジャズでは各楽器が順番にソロを取ることがあるので、まずそこではソロを取った楽器が主役になってメインボーカルになるというのがわかりやすい。
さらにCDを聴き込んでいってみると、メロディーラインを奏でるピアノやサックス、トランペットなどの演奏に呼応して、ギターやベースやドラムが演奏を合わせて変えていっているのがわかる。
プレイヤー同士が演奏しながら言葉を介さずに即興で会話している様子がわかってきて、聴き込めば聴き込むほどに解像度が上がり、新たな発見があるので飽きないし、楽しくて仕方がなくなるのである。
それに、通常歌モノでは4拍子しかないが、5拍子や7拍子などの変拍子があったり、転調や繰り返しや複雑なキメ、超絶技巧など聴きどころが満載なのだ。
もう、こうなると悪いけど歌詞の意味など邪魔だ! と言いたくなってしまう。
しかも、ライブともなればCDの通りには絶対に演奏されないから、その場で生み出される即興とグルーブ感が快感と興奮になって襲ってくるのだからたまらない。
 
歌詞の意味を理解して、その内容に共感して、その歌を好きになるのもいいが、もっと直感的に右脳的に気持ちよくなれる麻薬的な音楽がここにある。

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2018-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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