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私語禁止がルールです


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:森脇 千晴(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「おはようございます!」「今日も一日よろしくお願いします!!」
シャウトに近いような大きな声が響き渡る。
毎朝行われる朝礼だ。
この後、先ほどとは対照的な「静寂」が私を襲う。
この職場は「私語禁止」なのだ。
この静けさは毎日私を息苦しくさせる。
「職場というのは入ってみないと分からないことが沢山ある」とは本当だと思う。
求人広告に「アットホームな職場です」と書いてある会社は見たことがあるが「私語禁止」というのは見たことがない。
働き始めてみて、正直困った。
元々静かな雰囲気が苦手だ。
パソコンのキーボードをたたく音だけが響き渡る、そんな「シーン」とした雰囲気に耐えられない。
……それに、私のお腹はよく鳴る。
あの静けさの中、自分のお腹の音が大きく鳴り響く……そんな想像をするだけで苦しくなった。
悩んでいるのは私だけではなかった。
お土産でもらった煎餅を食べようと口に入れた後、ボリボリと噛む勇気がなく口の中に長時間煎餅を入れ続けていたという同僚もいた。
 
働く者同士の仲は悪くなかった。
上の人間が過激な発言をすればするほど、下の結束力は強くなる。
定期的に秘密の飲み会が開催された。
しかし、いくら愚痴を言い合ったところで、あの静けさからは解放されない。
ルールは変わらないのだ。
 
決して「喋るな」と言われていた訳ではない。
報告・連絡・相談の「報・連・相」は徹底されていた。
要するに「私語」が駄目なのである。
そもそも何故こんなルールが存在するのだ? 私は考えてみた。
私語とは雑談のことである。
たしかに仕事において「雑談」は必要ないのかもしれない。
「報・連・相」を徹底しておけば仕事はまわる。
むしろ私語をしない分、効率良く片付いていくのかもしれない。
だけど、ついついそこに「情」を注入したがる自分がいる。
仕事の効率は大事だが殺伐とした人間関係は、なんだか寂しいのだ。
これまで経験してきた職場では沢山の雑談をしてきた。
くだらない話をしてゲラゲラ笑うことで、仕事を頑張れていた部分もあったと思う。
私はいつだって「コミュニケーション」に救われてきたのだ。
 
「私語禁止ルール」を作った人物のことを想像した。
あくまで想像なので真意は分からない。
もちろん本人に直接尋ねてみたこともない。
想像力を巡らせる。
 
もしかしたらコミュニケーションに対する恐れから出来上がったルールなのでは?
本当は和気あいあいと雑談したいけど、それが上手くやれないタイプ??
自分は会話に入れず、周りが盛り上がっていることが耐えられない……???
よく観察してみると彼女はいつも下を向いて歩いている。
もしかして「コミュ障」??
 
なんだか、彼女のことが可愛らしく思えてきた。
決めた。
彼女とのコミュニケーションに風を吹かせてみよう。
全体のルールを変えることはハードルが高い。
しかし、彼女との関係を円滑にしておくことは私にとっても不利なことではない。
まずは「本当はみんなとお喋りしたいけど、それが出来ない可哀想な人」と勝手に認定させていただいた。
2人きりで話すことはほとんどなかったが、時々トイレで一緒になることがあった。
彼女は基本下を向いて歩いているので、すれ違いざまに、ぶつかりそうになる。
そのときには、すかさず「おーっとっと」とおどけてみせた。
年上の彼女の前で「おばちゃんキャラ」を演じ、安心させ、心を開かせる作戦だ。
「おばちゃん」である以上、若い子のようにオドオドしてはいけない。
彼女の前だけではなく、職場内での呼びかけに対する返事は「はい」ではなく「はあ~い」 
もうちょっといけそうなら「ほお~い」と返事した。
そんな、ささやかな「おふざけ」を盛り込んでいく中で、私自身も少しずつ気持ちが軽くなっていくのを感じていた。
夏季休暇に入る前だったと思う。
彼女に呼び出された。
ついに2人きりで話す面談の機会が訪れたのである。
私は身構えた。
ひるんではいけない。
彼女の前で私はいつだって「おばちゃん」でいなければならないのだ。
面談中、私はいつも以上におばちゃんキャラを爆発させた。
大げさに驚き、大きな声で笑った。
すると、どうだろう。
私のおばちゃんキャラに乗っかるかのように、彼女は仕事とはあまり関係ない話を始めてきた。
昔の内緒話まで飛び出してくる。
驚くほどの饒舌!
これは、紛れもない「雑談」「私語」だ!! 
……この瞬間、私は「勝った!」と思った。
 
それ以降も私はこのコミュニケーションスタイルを崩さずにいた。
彼女は「この職場に長く居て欲しいから」と私の要望を聞いてくれたり、体調面を気遣ってくれるようになった。
ルールは変わらなかったが彼女の態度は変わったのである。
 
私はこの職場をたったの数年で離れたが、ここでの実験は宝物であり私の自信である。
相手によって演じる私を変えるコミュニケーション術を習得した。
コミュニケーションは深い。
最悪だと思っていた職場環境で私は大きな学びを得た。

 
 
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2018-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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