メディアグランプリ

非日常はグレープフルーツよりも甘くみずみずしく


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ユリ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
ずっしりと重い大きな段ボール箱を開けると、黄色くて丸くて大きな物体が何個も見えた。
 
「これ、グレープフルーツではないよね」
 
グレープフルーツよりは大きく、かといって晩白柚よりも小さい。
 
「写真届きました。わざわざ送ってくれてありがとう」
 
手紙とともに「サワーポメロの食べ方」という、ペラ一枚の説明書きが入っていた。
私も父も母も、初めて目にする果物だった。
 
 
会社のリフレッシュ休暇を使って一人で鹿児島へ旅したのは、その段ボール箱が届く約一ヶ月前。急に休みたい欲求と旅したい気持ちが高まり、思いついた旅先は一度行ってみたかった鹿児島だった。仕事の忙しさを二の次にして、休暇届の申請ボタンをクリックした。
 
旅の目的地は、知覧と鹿児島市内と桜島。どれも以前本で読んでからずっと気になっていた場所ばかりだ。2泊3日の行程のうち、初日と2日目に知覧と鹿児島市内の観光を済ませ、最終日に桜島へと向かった。
 
一人旅には決まっていつも、バックパックとごつい一眼レフカメラを持って出掛ける。「できるだけ荷物はコンパクトに」を旅のモットーにしているのに、重いし大きいし時折邪魔になるミラーレスではない一眼レフカメラは、身軽とは真逆の持ち物だけれど、きれいな写真が撮れるだけでなく、旅先での会話のネタになる。過去に行った旅先でも、カメラのおかげで地元の方との楽しい会話ができたことが、数えきれない。
 
桜島観光を終え帰りのフェリーが来るまでの間、乗り場の付近を散策していたところ、一人のおじいさんから急に声をかけられた。作業着からのぞく腕や顔は真っ黒に日焼けし、一見怖そうに見える。
 
「立派なカメラを持っているなら、俺を撮ってくれ」
「ちょうど海と船が写るところがいいなあ」
 
鹿児島弁混ざりの口調が、さらに怖さを増す。
その後も何かを言っていたが、鹿児島弁で話し続けるおじいさんの勢いにすっかり圧倒され、有無を言えないまま写真を撮ることになった。
 
「じゃあ撮りますよ」
 
ファインダー越しの表情が、少しゆるまった。
 
出来上がった写真はおじいさんの言う通りに桜島観光協会へと送り、私の生活はすっかり普段通りへと戻った。段ボール箱が届いたのは、そんなときだった。
 
 
 
初めて手にしたサワーポメロは、グレープフルーツによく似ているものの、それよりも若干大きい。皮が厚く包丁で切ってみると、甘くてさわやかな香りがした。口にしてみると、グレープフルーツよりもサクサクとした食感であるものの、みずみずしく、酸味が薄くて甘さが濃い。今まで味わったことのないおいしさだった。
 
 
「元気にしているか」
「次はいつ桜島に来るのか」
 
他愛のないやりとりを手紙や電話を通して何回かしていたけれど、いつの間にか自然消滅をしてしまい、今ではまったく連絡を取り合っていない。ただ、今でもおじいさんの表情とサワーポメロのおいしさは、私の記憶に残っている。そして、それらの記憶が、今の私を作り上げている一要素になっている。
 
 
日常だけでは得られないことが、非日常にはたくさんある。おじいさんの優しさも、サワーポメロのおいしさも、旅という非日常のことをしなかったら、知ることができなかった。
非日常は旅だけとは限らない。いつも乗っている電車を一本ずらしてみたり、いつもとは違うスーパーで買い物をしてみたり。日常的なことから一歩外に出るだけで、いつもとは違った何かに出会える確率が一気に高まる。けれどどうしても、臆病になる。非日常はたいてい新しいことであるからだ。非日常をしたからといって、良いことがあるとは限らないからだ。
 
迷うかもしれない。回り道をするかもしれない。意地悪なおじいさんに出会うかもしれないし、すっぱくてまずい、サワーポメロを食べることになるかもしれない。
けれど、そんな失敗と思えるようなことも、自分を作り上げる一要素にはなってくれる。必ず何かにつながってくれる。
 
 
当時関東の実家暮らしであった私は、結婚をし、今では夫の仕事の都合で九州に住んでいる。鹿児島までの距離も一気に縮まった。ゆくゆくは、私にとっての「日常」である、関東での生活に戻っていく。その前に、おじいさんを一度訪ねてみようと思う。そして、「おじいさんと連絡を取り合う」を日常化できればと思っている。
 
グレープフルーツよりも甘くみずみずしい、今まで味わったことのなかったサワーポメロのようなおいしさを、またどこかで味わいたい。

 
 
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2018-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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