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大阪・黒門市場の盛況に“秘策”や“奇策”は何ひとつなかった!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:楠瀬 航(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
 大阪観光局の調査によると、2017年の訪日外国人客(インバウンド)数は過去最高の2,869万人、その中でも大阪には全体の4割近い1,111万人が訪れたという。東日本大震災が発生した2011年、大阪を訪れた訪日外国人客はわずか158万人であったことを考えるとその伸びは驚異的だが、そんな彼らの人気を集めるスポットのひとつが、大阪・ミナミの黒門市場商店街だ。
 
 ミナミの中心・難波から地下鉄で一駅(徒歩でも10分程度)、日本橋駅前の南側約350メートルにわたって広がる黒門市場は、鮮魚・精肉・野菜・果物など生鮮食品の専門店を中心に約180店舗が軒を連ねる。関西では年末になると、買物客でごった返すその風景がマスメディアで盛んに報じられるので、足を運んだことがなくても名前だけは知っているという人も多いだろう。
 黒門市場は古くから地元住民の買物の場として、また周辺の飲食店主や料理人らが食材の仕入にも訪れるなど、都心の中の庶民的な商店街として長年親しまれてきた。しかし1990年代以降のバブル崩壊後、都心部の人口減少や近隣での食品スーパー出店といった環境の変化もあり空き店舗が増加。地方都市の商店街でよくある、いわゆる「シャッター通り」のような状態にまでは衰退しなかったものの、防戦一方の時期が長年続いていた。
 そんな状況に変化が訪れたのは、東日本大震災の影響が一段落した2012年。とある鮮魚店が店内にイートインスペースを開設し、店頭で販売する刺身や寿司のパックをその場で食べられるようにしたところ、中国・香港・台湾など東アジア圏の観光客を中心に好評を博し、周辺の店舗も追随。空き店舗にも同様のスタイルでの新規出店が相次ぎ、海外でのブログやSNSでの拡散効果も手伝って、現在はそれら「食べ歩き」型店舗がすっかり商店街の主役となり、外国人観光客を中心に連日大盛況となっている。
 食べ歩きというとチープな印象もあるが、元々はプロの料理人の目利きにも耐えうる専門店の集合体。鮮魚専門店ではマグロの大トロやてっさ(フグの刺身)、カニ、ウニ、大粒の生ガキ、精肉店では神戸牛のステーキ、果物店ではメロン一玉をくり抜いて丸ごと絞った生ジュースといった多彩かつ豪華なメニューが並び、フグやカニ、神戸牛などでは一皿数千円の商品も飛ぶように売れていく。生魚が苦手なら、天ぷらや惣菜を楽しんでみるのもいいだろう。その光景は、商店街全体が巨大なフードコートになったようでもある。
 
 さて、そういった一種の「インバウンド・バブル」も手伝って我が世の春を謳歌している黒門市場だが、そこに至るまでのプロセスを考えてみると、実は案外単純な要素の積み重ねではないのか? というのが、十数年前より黒門市場のすぐ近くで仕事を始め、現在まで商店街を定点観察している私の見立てである。その要素とは、以下の3点である。
 
1.それまでの商売をベースにしながら、商品の“ユーザビリティ”を改善させたこと
 ここ数年の間に新規出店した店舗は別だが、それ以前から出店していた店舗の多くは、扱う商品を大幅に変えたわけではない。鮮魚専門店であっても、精肉専門店であっても、あるいは野菜や果物の専門店であっても、それまで扱っていた商品の「見せ方」や「売り方」をお客さんの立場になって大胆に変えることで、売上を伸ばすことに成功している。この、商品自体の “ユーザビリティ”を改善したという部分は高く評価してよいのではないだろうか。
 なお、このような個々の店舗による取り組みを土台にした上で、それらを後押しする商店街全体での動きとして、共同で設置した無料休憩所の充実や、外国人観光客への接客に対応するためのワンポイント会話の勉強会といった接客・サービス面での地道な取り組みも並行して行っていることは付記しておきたい。
 
2.通常時の商売そのものを“最強の集客コンテンツ”にできたこと
 客足の落ちた商店街でよくありがちな活性化策に、イベントの開催による集客がある。ところが、イベント開催当日には大きな集客効果があったとしても、多くの商店街では最終的に「イベントは成功したが、通常時の集客には効果がなかった」という結果に終わることが少なくない。
 これに対し黒門市場では、特定のイベントのような販促活動に依存するのではなく、店舗の営業時間内で普通に提供されている商品の集合体によって集客を実現している。言い換えれば、通常時の商売こそが“最強の集客コンテンツ”となっているのである。
 ある日のある時間帯にしか提供されないコンテンツと、毎日絶え間なく提供されるコンテンツ。一瞬だけを切り取った爆発力では前者に軍配が上がるだろうが、長期的かつ安定的に集客でき、稼げるコンテンツとなるのは後者であることは言うまでもないだろう。
 
3.“現有戦力”でやれることを徹底してやり尽くしたこと
 イベント開催もそうだが、空き店舗への新規テナント誘致活動も、客足の落ちた商店街でよくありがちな活性化策のひとつである。しかし、その場合往々にして「賃料を大幅に引き下げる」「行政からの補助金や支援策をあてにする」など、どちらかといえば前向きではない策に頼ることとなり、新規出店希望者に対して、その場所で新たに商売を始めることの可能性をプレゼンテーションすることが後手に回る(あるいはほとんど行わない)ことが少なくない。
 これに対し黒門市場では、既存の商店主らが自らの商売で「これだけ売れるんや」ということを示し、その結果として「あのお店でもあれだけ繁盛してるのなら、我々もやってみようじゃないか」と思わせることで新規出店者を呼び込み、空き店舗問題を解決へと導いた。そう、それは不確実な外部要因に頼らず、“現有勢力”でやれることを徹底的にやり切って結果を出すという、商売人として極めて真っ当なやり方に他ならない。
 
 ……と、ここまでいいことずくめのようなことばかりを書いてきたものの、実際には盛況の陰で、一部の新規出店者があからさまに通常相場とかけ離れた価格で販売する、いや、もっとストレートに言えば「ぼったくり」商売を行う店が徐々に目立ちつつあるなど、外国人観光客の購買力に過度に依存した戦略の負の側面が顕在化しているのは気になるところ。また、今後世界経済の急変などで外国人観光客そのものが激減するような事態に陥った時にはどう対処するのか。それらのリスクも、今後は無視できないだろう。
 しかし、そういった表面的な現象ばかりに注目するのではなく、現在の盛況に至るまでの「プロセス」や「仕組み」を少しだけ掘り下げて考えてみると、全国各地の他の商店街にとっても、あるいは他のビジネスにおいても応用できるさまざまなヒントが得られるのではないだろうか。

 
 
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2018-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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