メディアグランプリ

そして、私は繰り返される


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記事:コバヤシミズキ(チーム天狼院)
 
 
画面の向こうから呼ばれたとき、私は話し方を忘れてしまった。
「どうやって喋ってたかなあ」
バイトの同僚から、中学時代の友人が動画配信をしていると聞いたのは、運が悪かった。
……チャット形式だったのは、運が良かった。
とりあえず『やっほー』と打ち込んで、退室。
逃げるが勝ちだと言い訳をしてみる。
だって、中学時代の友人と言っても、ほんの少し関わりがある程度。
知人以上、友人未満。
……そんなもんだから、律儀にも私のあだ名を覚えていた友人に、ちょっとビビってしまった。
「ほんと、どうやって喋ってたっけ」
天井を見上げても、答えは書いてない。
だからといって、卒業アルバムなんて見返したいものでも無い。
「喋り方なんて、とっくの昔に忘れたわ」
多分、これから先も思い出せないだろう。
「だって、今の私の方が断然イイし」
劣化した私など、思い出すだけ無駄だから。
 
私はいわゆる“○○デビュー”を繰り返してきた人間だ。
高校デビュー、大学デビューに飽き足らず、新しい環境になる度、“○○デビュー”を繰り返してきた。
アルバイトも、面接も、新しい友人と話すときでさえ、小さな変化を繰り返しては『コバヤシ』というキャラクターを増やしていったのだ。
「ほんとは、そんな必要ないって分かってる」
でも、成長するにつれて、私は味を占めてしまったのだ。
「他人の思うように動くのが、なんか面白い」
相手のニーズに合わせてキャラクターを作る。
そうすれば、相手は絶対に乗ってくる。多少の不都合は気にしなくなってしまう。
それが、死ぬほど面白かった。
だって、相手にとって、私は都合のいい手駒なのだ。
それが実際は、全て私の手中だなんて!
「まるで、神さまにでもなった気分だ」
 
でも、現実はそううまくいかない。
現に私は、私の生み出したキャラクターたちに押しつぶされている。
それを必死にかき分けて、かき分けて、それでも見つからない。
「なんで、なんで思うようにいかないの!」
私なのに、私じゃ無い。
どんなにキャラクターを作り替えようとも、私は私であるはずなのに。
「確かに『コバヤシ』は居たはずなのに!」
中学時代の友人と、ただ話すためだけの『コバヤシ』はどこだ。
……たった一言を交わすためだけの、相手が一番好きな私でありたい。
本当は、ただそれだけなのだ。
 
必死に取り繕おうすればするほどボロがでる。
キャラクターを増やす度に、1つ1つの『コバヤシ』が劣化しているのは気づいていた。
それでも見て見ぬふりをしていたのは、手駒を演じるのが楽しかったから。
「違うね、ほんとは安心したかったんだ」
私が『コバヤシ』である限り、その責任は私には無いのだ。
例え何か失敗して、相手に嫌われても、私の心は痛まない。
「だって、そしたらまた新しい『コバヤシ』を生めばいい」
好かれるために、嫌われても良いように、キャラクターを生み出す。
私の悪いように、ことが進まないように。
「大丈夫、きっと次はうまくいくよ」
そういって、失敗作は私の手で壊すのだ。
何度だって、うまくいくまで“改善”しよう。
そうすれば、いつかきっと相手に好きになってもらえるはずだから。
 
しかし、実際は、スクラップアンドビルドされた兵器と何ら変わらなかった。
私が“改善”と呼んだ“キャラクターの量産”は、結局何も利益を出さなかったのだ。
「そんなところにいたんだ」
キャラクターたちをかき分けた先には、幼い頃、初めて絶望を知った自分がいた。
自分が、思ったより可愛くないことに気づいてしまった自分だ。
……思えば、全ての始まりはここだったのだ。
周りと比べられていることに気がついて、必死になって欠落部分を埋めようとした。
かわいくないから、愛嬌を。運動が出来ないから、せめて口達者に。
そうやって埋める分なら、まだ“改善”だったのかもしれない。
「良いところを増やそう!」
それがいつの間にか“作業”になったとき、私は“兵器”になってしまったのだ。
「悪いところを潰そう」
壊して、それを材料にして作り直す。
溶かして、こねて、形成する。
絶望を主原料に出来上がっては壊され、また再生する。
「そりゃ、根本的解決にはならないわ」
私は、私を繰り返しているに過ぎない。
だって、この“絶望”は、ずっとここにいたのだ。
 
「やっしゅだ、やっほ〜」
画面の向こうの友人が話しかけている相手は、本当に私だろうか。
あれからちょっと時間をおいて訪れた友人の配信は、最初の頃より随分人が増えていた。
それでもなお、見つけては名前を呼んでくれる友人に、見合う自分でありたい。
「やめようか」
自分の欠落部分を埋めるために繰り返されたスクラップアンドビルドは、もう止められない。
それでも兵器の金属のように、基礎である絶望部分だけは変わらず。
根本的な部分は何も変わらないまま、劣化していくのだ。
その欠落を埋めるように繰り返されるスクラップアンドビルドに終止符を打ちたい。
「だったら、逆に利用してやろう」
欠落をハリボテで埋めよう。
最後には、勝手に壊れて丸裸になった私を、笑いとばしてやりたい。
「今度こそ、私が喋るから」
その日を迎えるべく、劣化よすすめ。
そして、私は繰り返される。

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2018-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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