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彼女が葬儀会社で働き始めた本当の理由


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記事:ユリ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「どうしても最後のお別れは何回立ち会っても慣れないし、油断したら泣きそうになる」
 
葬儀会社で働き始めて約半年の友人は、そうつぶやいた。
 
「年齢・性別不問、未経験者歓迎、安定収入」
40歳目前、何か秀でた知識も無ければ経験も無い。その上、貯金も大して無い。
その仕事を選んだ理由は、一見ごく単純そうにみえた。
 
けれど私は、彼女が優しすぎるため、その仕事を長続きすることはできないだろうと思った。
けれど私は、彼女のように優しすぎる人こそが、この仕事を長く続けるべきだろうと、同時に思った。
葬儀会社の仕事は、優しさだけでは成り立たない。きれいごとでは済まされない。
けれど、人の痛みが分からないとできない、最高のサービス業だと思うからだ。
 
 
彼女が働く葬儀会社は、10人ほどのスタッフが在籍する小さな会社であり、発生した葬儀の規模によって、その都度スタッフが割り当てられる。葬儀の依頼は月平均15件前後。そこまで多くない件数とのことだが、忙しい月もあれば暇な月もあり、いつ葬儀が入るか分からないため、なかなか自分の予定が立てられない。
 
彼女は葬儀の式進行から参列者および遺族、僧侶の対応、葬儀後の式場や控え室の後片付け、日々のメンテナンスなど、幅広く仕事をこなす。任される仕事も少しずつ増えてきたという。
 
 
彼女と私は学生時代からの付き合いで、今でもこまめに連絡を取り合う。時間が合えば会うこともあるが、最近はもっぱら電話やメールでのやりとりが多い。
昔から彼女は、真面目で几帳面で潔癖で、負けず嫌いなくせに優しくて、恋愛にせよ仕事にせよ対人にせよ、それらの性格が災いしてなのか、色んなことでうまくいかないことが多い。彼女はとても難しい。けれど私は彼女のことが大好きで、どうしても放っておけない。ある意味、腐れ縁とも言える。
 
そんな彼女が葬儀会社で働き始めたことを知った時は、正直驚いた。そして、彼女の過去を思い出した。高校時代に幼馴染を失くし、その時から彼女は「自分がこの世で生きる意味」を問い続けてきている。
本当は彼女は葬儀の仕事を通し、死を間近に感じることで、自分の生きる意味を見付けたいのかもしれない。実はそれが本当の、この仕事を選んだ理由なのかもしれない。そんな風に私は思った。
 
 
葬儀会社の仕事は、良いことよりも嫌なことのほうが正直多い。一筋縄ではいかないことも多く、特に「お金」に関わることに、自分の中でなかなか整理がつかないという。
 
「その人が生きてきた価値は、お金では表せない。盛大に式を挙げたとしても、質素に挙げたとしても、その人が誰かの大切な人であり、誰かを大切にしてきたことに変わりはない。けれど、葬儀会社に勤めてる人だって、生活しなきゃいけない。会社も経営しなきゃいけない。きれいごとじゃダメだっていうことぐらい分かっているけど……」
 
盛大な葬儀を執り行ってもらえばもらうほど、葬儀会社にお金が入る。「会社の売り上げ」として考えれば当たり前のことかもしれないけれど、金額が悲しみの度合いであり、その人が大切にされていた度合いであるかのように捉われがちだ。そして、葬儀会社のスタッフたちの心の持ちようも、金額に左右されがちだという。
 
「働いてる人たちはみんな、色んな意味でよく慣れてる。自分もいつかそうなるのか、そうならなければこの仕事が続けられないのかと思うと、正直よく分からなくなる」
 
けれど先輩スタッフたちは、与えられた仕事をきちんとこなす。頭の中ではネガティブなことを考えているかもしれないけれど、そんな素振りを一切見せないで、絶対にミスは許されないぶっつけ本番の場面を完璧にこなす。誰かが必ずやらなければいけない忌み嫌われがちな仕事を、淡々とこなす。いわば、プロだ。
 
「葬儀に立ち会うと、その人がいたからこそ周りの人もいるんだなっていうことが、よく分かるんだよね。参列者の人数が多ければっていう意味ではないから一概には言えないけれど、その人の生きてきた証が参列者が示すっていうか、リレーがこれからも続いていくっていうか……」
 
彼女の言葉に一筋の光が見えた気がした。彼女はまだ、この仕事を続けられそうだ。
 
 
「発生しました、だって」
 
また誰かにとっての大切な人の一生が終えたことを、彼女の仕事のグループラインが知らせる。
 
「仕事には慣れろ、悲しみには慣れるな」
 
ある人が言っていた言葉を拠り所に、彼女は今日も葬儀に立ち会う。
 
 
この世に生まれた生き物全てが共通する、行き着く先。
「いつかは必ず死が訪れる」
けれど、未曾有の災害や、突然の事件や事故に巻き込まれて一生を終える人、急な病に倒れる人、自ら死を選ぶ人……。今を生き残っている人と生き残れなかった人との違いは、一体何なんだろう。
 
答えは分からない。それでも明日を生きていかなければならない。答えも意味も見付からなくとも、それぞれの終わりの日が来るまで、生き続けなければいけない。
 
生きることを「リレー」だとするならば、残された人は亡くなった人からのバトンを手に、自らの生きる意味を探しながら、走り続けなければいけないのだろう。
 
彼女はこれからも、走り続ける。
私もこれからも、走り続ける。

 
 
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2018-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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