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一人ライザップの悲劇


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:飯沼かおり(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「うそでしょ……」
高校3年の春だった。久々に体重計に乗った私は、いきなり鉄パイプで頭を思い切り殴られた様なショックでしばらく言葉を失った。
体重計の針は、生まれて初めて、60キロオーバーを指していた。
 
60キロオーバーというと、母親が「パンを習い始めたから太っちゃったのよ~」と、ジーンズにお尻を詰め込みながら、太ったことを正当化している図が思い浮かんだ。
いや、母親はいいと思う。結婚も出来たし、子供だって二人授かっているし、子供たちに美味しいパンを作ってくれる50代主婦……。それなら多少太ったっていいじゃないか。
 
しかし、私は違う。これからストレスのかかる大学受験を控える高校生。気になる男子だっている。その子たちと夏休みに塾で切磋琢磨、花の受験生活を送ろうと思っていたのに……。その子にデブだと思われたら……。とにかく、今、60キロオーバーになっている場合じゃない! 言い様のない焦りがやってきた。
 
確かに高校に入ってから太り始めた様な気がするけど、中学の頃は50キロ代に入っても「太っちゃった~」なんて思っていたはずなのに。
どうして? いつのまに? その年代での痩せからデブへの急な変貌は人生がガラリと変わってしまうほど、辛い現実を引き起こす様な気がした。信じられない現実にしばらく呆然とし、抜け殻の様な時間を過ごした。
 
あの時、チョコドーナツとアイスばかり食べなければ……。などと後悔しても、言い訳しても、誰かが代わってくれるわけでもない。自分の人生だ。現状は何も変わらないのだ。でもどうしてもこの現実が受け入れられなかった。
 
そこで私は決意した。夏休みに入る前までに、一か月で8キロ痩せる! と。誰にも話さず、ひそかに結果にコミットした。夏休みに入ると、毎日の様に塾や予備校に行くことになるので、昼食が外食になったり、コンビニのものになったりしそうだったから、お昼にお弁当を持っていける1学期のうちがチャンスだと思ったのだ。
 
そして、気になっていたダイエットプログラムを購入した。正確には、アメリカ人の書いたダイエット本であった。実は、以前からその本の広告を見る度わくわくしていた。それは、ライザップのCMの、女優さんのビフォーアフターの映像の様に、アメリカ人女性のビフォーアフターの写真が載っていたからだ。太っている女性の笑顔は、何だか卑屈そうに見えて、痩せた後の女性の笑顔はキラキラ輝いていた。
この本の通り実行したら私もキラキラ輝けるんじゃないか? そんな思いに駆られ、早速その1万円くらいの本を購入した。
 
その本は300ページ以上あったが、簡単に言うと、「炭水化物を食べてはいけない」ということだった。主に、果物、野菜、肉、魚を食べて、水をたくさん飲む。運動はとくにしない。今でいう糖質制限のダイエットに近いものだった。
 
なぜか一人でコミットしたので、周りの人にダイエットしていることがばれない様にしていた。お弁当は、食べていい食材を使ったおかずに、こんにゃくご飯などを入れて白米に見せかけて持参していた。毎日、そのダイエット方法を忠実に実行した。2週間くらい経つとふらふらになって来ていた。しかし結果、1カ月で8キロ痩せて目標を達成することができた。
 
悲劇はそこからだった。
8キロ痩せた当初は、達成感もあった。水着姿で体重計に乗ることが嬉しかったし、何よりきつくなったジーパンがゆるゆると穿ける様になったことが嬉しかった。
ここからキラキラ輝きながら、気になる男子との花の受験生活が待っていると思っていた。
 
しかし……。集中的な減量は、思っている以上に心も身体も蝕んでしまっていた。
キラキラした笑顔どころか、常に無気力になり、顔も青ざめている。立ち上がることもしんどい。髪まで抜け始める始末だった。
ダイエット前、私は、炭水化物が好きであった。逆に、肉や魚が好きではなかった為、ダイエットメニューは必然的に果物と野菜が中心になっていた。
ダイエット中のたんぱく質が足りなかったのかもしれない。炭水化物とお菓子を我慢することも大きなストレスになっていた様だ。
 
本来目標を達成したら、体重のコントロールができる様になるまで、それを維持しなければならない。しかし私は、誰にもダイエット宣言していなかったこともあり、緊張感がなくなってしまった。夏休みに入り、何かのたがが外れたかの様に、毎日の様に今まで我慢していたパンやアイス、スナック菓子などをむさぼるかの様に食べてしまったのだ。勉強も全力になれないし、恋心なんてすっかり忘れてしまい、意識のほとんど全てが食べ物にいってしまった様な状態だった。
 
そして、夏休みが終わった9月。10キロ以上リバウンドしていた。
 
この二カ月、強いストレスを感じ、無気力になって、ふらふらになって、髪も結構抜けて、成績も低迷して、恋心も失って、8キロ痩せたことは誰にも気づかれず、ただ、前よりも太っただけという。将来を決める大切な時期に一体何ていう無意味なことをやってしまったのか。
 
それから、勢いづいた私はさらに70キロ近くまで太り続けた。キラキラ輝きたい気持ちを失いかけた頃、幸いなことに、自分に合ったダイエット法に出会えた。普通に食事をしながら10キロ以上体重を落とすことができた。
何よりも、自分で自分のことをコントロールできる様になったのだ。どう生きていきたいか? その為に今、どうするか? そんな基準で考えられる様になったので、急に太るという恐れもない。人生という船の舵を自分で取っている様な、とても自由な感覚になった。
 
あれから20年以上経ち、今は、「経験に無駄なことはない」と思っている。そう思うと、この出来事も大切な経験である。当時の私は、自分で自分のことが見えていなかった。「こういう人生を歩みたい。その為に受験やダイエットをする」そういう視点が一切欠けていた。ただ、「キラキラしたい」「前に戻りたい」そんな考えだった様に思う。誰にも話していなかったのも、「リバウンドしたら恥ずかしい」とリバウンドへの保険をかける気持ちがあったのかもしれない。
 
あの経験があったからこそ、「自分の人生に責任を持つことの大切さ」「独りよがりな思い込みで判断することのリスク」について気づけたのかもしれない。今思うと、もっと自分自身の気持ちを見つめてみたり、誰かに相談したり、もっと人に頼ってみてもよかったんじゃないかと思う。そうすれば、もっと早く「自分に一番合ったダイエット方法がある」ということにも気づけたかもしれない。
 
無理なダイエットをしようとしている方は、どうしてなのか? 流行りのダイエットに飛びつく前に、まずはじっくり自分自身と向き合って考えてみて欲しい。

 
 
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2018-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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