fbpx
メディアグランプリ

人が不貞をはたらく時


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:くまはら ひろみ(ライティング・ゼミ日曜コース) 

 
  
ついに、私も不貞をはたらいてしまった。昼顔の仲間入りだ。
ただ、相手は人間ではない。スマホだ。D社からS社に乗り換えたのだ。
浮気がばれた女性の言い訳のひとつとして「どうかしてた」という言葉があるそうだ。
まさにそんな気分だ。なぜ私は長年連れ添った夫を捨ててしまったのだろうか?
 
その日、私はヤマダ電機にいた。
スマホが寿命間近で調子が悪いため、機種変更の下見に行ったのだ。
携帯フロアには、携帯会社各社が一堂に揃っており、週末ということもありとても賑わっていた。
今回もいつものようにドコモで機種変更をしようとしていたのだが、金額を見るとやはり高い。
大金を払ってもどうせ2年で寿命か、儚いななどと考えていたところに、運命のS社が現れたのだ。
 
D社しか知らない箱入りな私に、彼は乗り換えについて詳しく教えてくれた。
新機種が大幅に割引される上、なんと50,000円のキャッシュバックがあるという。
おまけに今よりも月々の料金が安くなり、キャンペーンの一環として大量のポイントも付けてくれるそうだ。
私のためを思って考えてくれるのはありがたいが、正直引いた。
契約のためなら手段を選ばないその感じ。あんなに愛くるしい白い犬を広告塔に使っているくせに、
D社にはないえげつなさである。
私は今までD社に対して、特に不満を感じたことはなかった。
月々の料金はちょっと高いなと思うことはあったが、パソコンと兼用と考えるとまあ納得はできた。
おまけに20年以上も使っているのだ。乗り換えなんて考えたことがなかったので、突然の出来事になかなか踏ん切りがつかなかった。が、そんな私の心を見透かしたように彼はこうささやいたのである。
 
「迷われる気持ちはわかります。でも、長年D社を使い続けてきて何かメリットはありましたか?」
 
メリット。言われてみたら、ない。なぜだ、長年使っているのに特に思い浮かばない。
強いて言えば、ネームバリューか? 携帯を始めた元祖の会社なので、安心感はある。
が、月々の料金や機種変更時に得したことはない。
もしかして私、ネームバリューに惑わされてお高い料金を払っていたのか?
そこからは早かった。あんなに迷っていたのに、まるで憑き物が落ちたようにあっさりと解約してしまった。
おまけに、キャッシュバックの50,000円でパソコンまで買ってしまった。
下見だけのつもりだったのに、来た時には手ぶらだったのに。
帰る時にはスマホにパソコン、自宅用WiFiと大荷物だ。まさかこんなことになるなんて!
 
帰り道、私は罪悪感を感じていた。まるで不貞をはたらいた妻のような気分になったのだ。
学生時代からの付き合っている夫は、エリートサラリーマンで優しく真面目。
この先もずっと一緒に生きていくはずだった。少々退屈だけど、穏やかな日々。
が、ある日優しく真面目な夫とは正反対な彼が現れるのだ。
夫とは違い、彼はとにかくサービス精神旺盛で情熱的だ。
白い犬を始め、様々な企業とコラボしたオリジナリティーあふれるグッズ、何かにつけてプレゼントされる
ポイントにクーポン。とにかく至れり尽くせりで、自分と付き合うメリットを熱く語ってくれた。
最初は警戒していたけど、だんだんとその勢いに惹かれていく私。
でも、長年連れ添ってきた夫のことを思うと踏ん切りがつかない。
だって、これまでずっとうまくやってきたんだもの! が、彼から告げられる心に刺さる真実。
 
「迷われる気持ちはわかります。でも、旦那さんといてあなたは本当に幸せなのですか?」
 
このひと言で私は簡単に陥落してしまったのである。
もしかしたら、水滴がいつの間にか大きな水たまりになるように、私は不満を抱えていたのかもしれない。
きっと、夫以外の誰かを知りたかったのだ。そこに、たまたま通りかかった彼が私の欲しい言葉をくれただけなのだ。って、なんだこれは。スマホを乗り換えただけなのに、まるで本当に不貞をはたらいた妻のようではないか。人は、長年連れ添ったものを捨てた時、不貞をしたような気分になる生き物なのかもしれない。

 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《7/11までの早期特典あり!》

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事