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メディアグランプリ

50歳のオヤジがミュージカルに初出演してみたら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田中 伸一(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
2月20日の朝。ケイタイを開いたら、こんなメッセージが届いていた。
「ご無沙汰しています! 読み聞かせではありませんが(^^) ご参加いかがでしょう!」
何だろう。添付ファイルを開いてみる。
ミュージカルの案内が出てきた。「大人コーラス隊メンバー募集」と書かれている。子ども達が主役のミュージカルのバックコーラスに誘われたのだ。
その瞬間、「ウエストサイド物語」の画像が私の頭の中に浮かんだ。ちょっとワルいお兄さん達が肩までシュッと足を上げている、あれだ。
……いやいやいや、あり得ないって。今年50歳になるけど、運動神経ゼロだし、チビで短足だし、自慢じゃないが、肩どころか腰の高さまで足を上げるのさえ、ムリだ。
 
メッセージを送ってくださった黒田先生には、朗読を3か月間習った。去年の春のことだ。黒田先生は、かつてアナウンサーとしてテレビに出ていた方で、声を自由自在にあやつる。そのうえ竹下景子風の美人だ。小学校で絵本の読み聞かせをしたくて頑張ったけれど、3か月ではあまり上達しなかった。最終回に
「これで終わりにしたらもったいないので、続きの講座があったら教えてください」
と頼んであった。黒田先生は、それを覚えていてくださったから、誘ってくださったのだ。
とは言うものの、朗読とも読み聞かせとも関係のない、ミュージカルのバックコーラスへのお誘いだ。そこには5月13日の本番まで、6回の練習日程が書いてある。
さて、どうしよう。
仕事だって忙しいし、ライティング・ゼミにも通うと決めているのに、やっぱり無理だよね……。
頭では無理と思いながら、すでに心の羅針盤は動き始めていた。
「黒田先生、ご案内ありがとうございます! 日程見たら、参加できそうです。他の日の予定も含めて、家族の了解を得るように動きます」
気がついた時にはこんな返信をしていた。
 
おそるおそる妻に言ってみた。詳しい話をする前にいきなり
「本番いつ? 観に行くから」
という反応が返ってきた。
調子に乗って友人や職場にも
「こんど、ミュージカルに出ます」
と吹聴した。
「え? 観るんじゃなくて、出るの?」
というところは共通だが、面白がる人と、あきれる人に分かれた。
「またはじまった……。よくやるよ。それより、もっと頑張るべきことがあるんじゃないの? 何がしたくて、ミュージカルに出るの?」
……はい。ご指摘の通りです。黒田先生との縁を切らないため、という理由はあるけれど、本当は自分がやってみたいだけ。目的なんかない。それは、自分が一番わかっていた。
 
4月1日。初めての練習だ。大人コーラス隊は、23名集まった。30代後半から80代のメンバーだ。どう見ても、「ウエストサイド物語」みたいな踊りができるメンバーではなさそうだ。パート分けをしてみたら、テノールパートは2人だけだった。意外と責任重大だ。
本番で歌うのは2曲。
「昨日できた曲だから、YouTubeに音源は無いからね」
そう言いながら、作曲家の先生が自ら指導してくださる。
譜面自体は、そんなに難しくない。でも、周りの様子を見ると、音楽未経験の方も割といるようだ。本番までに間に合うのだろうか。
そんな中で、テノールパートの相方は、いい声で楽々と歌っている。聞いてみたら、音大で声楽をやって、今は高校の音楽教師なのだと言う。
ラッキー。この人に合わせていれば大丈夫。
終わりに黒田先生が、
「演出の先生が、『この曲は動いてもらうから本番は楽譜なしです。覚えてください』って言っていました」
と気になることを言った。動いてもらう? 歌うだけでも微妙なのに?
大変なことに首を突っ込んでしまった。でも、もう何とかするしかない。
 
毎週末、練習を重ねた。練習では、作曲家の先生のほかに、歌の先生、演出の先生、舞台監督、脚本家と、やたらと専門家が登場する。たった一回の舞台を作るために、こんなにプロが集結するとは、知らなかった。
子どもたちとも合同で練習する。子どもたちはセリフも踊りも歌もあるから、私たちよりずっと練習はハードだ。一番小さい子で小学3年生だという。オーディションで役を決めているというだけあって、みんな真剣だ。その真剣さに応えなければ、という気持ちになる。
 
本番2日前からは、連日稽古が入った。
私たちの歌の方も、何とか形になってきた。動きのほうも、まあ大丈夫だろう。
ところが、本番前日になって、大人コーラス隊の女性メンバーから提案が出た。
「楽譜見ると顔が下向くから、2曲とも楽譜なしで歌いましょう!」
……え、今からですか。
「どうせ、照明の具合によっては楽譜なんて見えないんだから」
という意見に押されて、全部覚えることになった。帰りの電車の中から、試験前の一夜漬けのように必死で覚えた。
 
そして迎えた本番当日。
昨日の稽古に来ていなかったメンバーは、もうパニックだ。どうやら、欠席者に連絡が行っていなかったようだ。
本番の劇場での稽古は、当日の2回だけ。「場あたり」という立ち位置や移動経路を確認するだけのものと、「ゲネプロ」と呼ばれる総練習。
そこで初めて、自分たちの出番以外は楽屋に籠りっきりになると知った。
「そういえば、舞台の役者さんって、出番が少ないとヒマだから、編み物したりするって聞いたことがあるわ」
メンバーの1人が教えてくれた。楽屋のモニターで舞台の様子は見えるけれど、何だか遠くの出来事のようだ。こんな状態で自分の出番になったらサッと出て行って、ちゃんと芝居をするなんて。プロってすごいな、と感心する。
でも、感心している場合ではない。「楽譜なしで歌う問題」克服のために、楽屋で猛練習がはじまった。
「本職、先生なんでしょ」
と言われて、テノールの相方が音頭を取る。車座で何度も歌い、教えあう。
「最悪、わからなくなったら口は開けても声は出さない。これだけいるんだから、何人か欠けたって、バレないから」
人生経験豊富なメンバーから、過激なお達しが出て、本番を迎えた。
 
前奏が始まる。舞台に向かって歩き出す。
なぜか、歌詞を忘れることもなく、脚もガクガクしない。最後まで歌いきることができた。
あとは、フィナーレに歌う2曲目だ。もう、泣いても笑ってもお終いだから、思いっきりやろう。と思っていたら、歌い始めのタイミングを間違えてしまった。
「ヤバイ!」
でも、自分でも不思議なほど気持ちを切り替えて、むしろ気持ちよく残りを歌えた。
終わってから、失敗を告白してメンバーに謝ったら、
「え? 全然気づかなかった」
と言われた。みんな自分のことに精いっぱいで、それどころではなかったのだろう。
 
かくして、私の初ミュージカル体験は幕を閉じた。
観客に伝わる表現ができたか? という物差しで見れば、全く不十分だろう。でも、たった1か月半だけれど、日常生活にはない濃密な時間を経験し、表現する体験ができたから、満足だ。
 
表現することは、楽しい。歌うことでも、文章を書くことでも、それは同じ。もちろん、それを受け取ってくれる人がいてこそ、表現は成立するのだから、ただ楽しいだけではすまない。受け取ってもらえるレベルに仕上げるためには苦労も葛藤もある。でも、そのプロセスすべてが、振り返ると楽しいのだ。
 
心の羅針盤が動いたとき、それに従ってチャレンジしてよかった。
チャンスをくださった黒田先生に、感謝している。

***

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2018-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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