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吹奏楽部がない中学校ってあるの?


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記事:でこりよ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「新しく出来た中学校って屋上にプールがあるらしいよ!」
1989年春、6年3組のクラスでは、小学校のすぐ近くに建った新しい中学校の話で持ちきりだった。学年全員の机を並べることの出来る広い廊下、30台以上のパソコンが設置された視聴覚室など、当時の市立中学校の中では最先端の設備と環境が整えられていた。そして、福岡市の中学校の女子の制服が、セーラー服に紺色のタイで統一されていたのに対して、エンジ色のタイになるということも女子の、おそらく男子のテンションも上げた。
 
私は来年の4月からこの新しい中学校に、最初の1年生として入学できることが待ち遠しかった。何もかもが新しいものであふれた環境で勉強も部活も謳歌するぞと意気込んでいた。そして、胸を高鳴らせて迎えた入学式。なんども練習したエンジ色のタイをギュッと結び、おさげ姿もバッチリきまった。友人とお互いの姿を褒めあって戯れ合う。今日から親がしつらえた微妙なコーディネートで身を包む必要もない。校舎も私たちもピカピカだった。最高の中学生活が始まる予感がした。だが早々に、そのピカピカだと思っていた私の理想に暗雲が立ち込めた。
 
「え? 吹奏楽部がない?」
 
新しい学校故に楽器がまったく揃っていないという。吹奏楽部がない中学校ってあるの? そんなの聞いたことがない! 文化部が演劇部と放送部しかないなんてどういうこと? と抗議したかは覚えていないが、ピカピカな中学ライフの出鼻を挫かれた私は、あえなく帰宅部となった。ピアノも好きだったが、吹奏楽部に入って、将来はオーケストラの奏者を目指すのもいいなぁ、夢見た少女は、小学校の卒業文集で将来の夢は「オーケストラの奏者」と書いた。その夢が、今ここで砕け散った。浮かれた春は終わり、夏が過ぎて2学期となり、風がヒューヒューと吹く季節になった頃、私の心にもよりいっそう寂しさが募った。
 
「やっぱり、何かしたい」と思うと同時に、残された選択肢についてもう一度じっくりと考えることにした。まずはじめに放送部。小学生の時から好きなラジオ番組にハガキを投稿するほど声の世界に慣れ親しんだ私は、もちろんDJにも憧れた。しかし、頭に浮かんできたのは、可愛く清楚なイメージがあった部員たち。残念ながら、そこに飛び込む資格を持ち合わせていないとバツ印を書き込んだ。残りは演劇部。聞くところによると、3年生が退部した今、2年生は不在で、3名の1年生のみで活動しているという。しかし、演劇には相当抵抗があった。部員の少なさが物語るように、ちょっと変わった人が集まる部活というイメージが強かった。変人扱いされるのは目に見えていたからだ。しかし、あることに気がついてしまった。
 
「そういえば、演劇って音楽使うよね? 音楽担当で入部するというのはどうだろう? 演技はしないけれど、音楽だったら格好がつく」
と考えた私は、早速部長のアキちゃんに声をかけた。
 
「演劇って音楽使うよね? 私、演技はできないけど音楽担当として入部しても良いかな?」
「うん、いいよ。でも、練習は一緒にやろうね。先輩いないから自分たちで好き勝手にできるから楽しいよ」
 
とあっさり入部が決まった。吹奏楽部で格好良く楽器を鳴らしている理想の姿からはかけ離れたものだったが、自分たちの力で何かを作っていく、ということにワクワクする自分がいた。音楽だけでなく、脚本、演出など、いわゆる裏方の仕事を見よう見まね、といっても参考にする人も、教えてくれる人もいなかったが、とにかく自分たちの力でやってみることにした。自分の好きなアニメや漫画、映画や音楽も語り合った。部活特有の上下関係もなく、好き勝手に自分たちのクリエイションを楽しんでいた。
 
入部から半年が経ち、2年生になったある日、アキちゃんはこう言った。
「そろそろ音楽だけじゃなくてさぁ、舞台に立とうよ」
 
正直、今までまったく知らなかった演劇の世界が、ちょっとだけ面白いと思うようになっていたところだった。アキちゃんはそんな私の様子を見透かしたように絶妙なタイミングで声をかけてきた。
 
「うん……いいよ」
新しい1年生が入部し、先輩らしいところも見せなければという見栄もあったかもしれないが、好奇心が勝り二つ返事で承諾した。案の定、私が変なグループに入った、と揶揄する友達もいたが、もはや気にならなかった。表現の方法を見つけることに夢中になっていたのである。
 
その後、脚本、演出、音楽、衣装をすべて自分たちの手で制作し、放課後のクラス、文化祭、そしてコンクールで発表した。3年生の秋の文化祭が終わった後、私はすべてやり尽くして退部した。皮肉なことに、その3年の春、吹奏楽を指導する先生が赴任することが決まり、吹奏楽部が誕生した。しかし、すでに3年生は入部できないことは決まっていた。
 
「もし吹奏楽部に入部していたら、私の人生は変わっていただろうか?」と大人になってからも真剣に考えることがしばしばあった。しかし3年前、偶然通い始めた英語学校で英語劇と出会ってからは、これは運命だったのかもしれないな、と観念した。
 
現在、この英語学校で、年齢、性別、職業、英語のレベルが異なるクラスメイトと一緒に、約11ヶ月かけて一つの英語劇を制作することに夢中な私は、あの中学生の私とまったく変わっていない。いや、あの頃よりもピカピカしているかもしれない。
 
「え? 吹奏楽部がない?」
 
私のためになかったかもしれないよ、とあの時の私にそっとつぶやいた。

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2018-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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