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メディアグランプリ

人でなしが、陸に上がれば


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:コバヤシミズキ(チーム天狼院)
 
 
「最近の若者たちは」
久しく聞かないフレーズが、耳に飛び込んできたのは必然だった。
台拭き片手にこっそり後ろを伺うと、焼酎片手に語らうおじさんが二人居た。
「ああ、またか」とは思いつつ耳を傾けてしまうあたり、仕事をしているフリも随分板についてきたなと苦笑い。
「最近の若いのは、分からないことがあるとすぐケータイに頼る」
「ああ、確かに。電車に乗っていても皆ケータイを見てますね」
「分からないなら、目の前の人にすぐ聞けば良いのに」
どうやらおじ様方は、若者のスマホ事情について話しているらしい。
それ自体はよく聞く話題だ。特に気に留めるような話でも無い。
しかし、机を綺麗にする作業を再開したとき、私はすぐに手を止めることになる。
「“ろくでなし”どころか“人でなし”まで増えるのか」
ヒヤリとする。
ここで振り返って「言い過ぎだ!」と言い返せたら、どれだけ良かっただろう。
逃げるように部屋を出た私をどうか責めないで欲しい。
「だって、そんなもん言い返せるかよ」
所詮“人でなし”の声は、おじさんたちの笑い声に掻き消えた。
 
そんなことがあってから、人前でスマホを取り出すことに一瞬ためらってしまう。
だって、“人でなし”とまで言われたのだ。
人間らしい心が無い上に、恩義や人情をわきまえない。
「それ言い過ぎでしょ」
「だからよ」
スマホケースを開閉させながらグチグチ言う私に、彼女は「“人でなし”ってなんだっけ」と調べ始めた。
手持ち無沙汰になった私は、それでもやっぱりスマホケースを開閉させることしかしなかった。
……まあ、確かに、あのおじさんの言うことも間違いじゃないと思う。
今、彼女がスマホに取られている間、私は彼女とのコミュニケーションからハブられているのだろう。
“分からないことを分かる人に聞く”のが、社会人の一番手っ取り早いコミュニケーションなのも分かっている。
だから、おじさんたちから見れば、自分で自分のコミュニケーションツールを潰しにかかっているように見えるのだろう。
「まあ、そうなんだけどさ」
隣の人に道を聞くなら調べた方が早い。別室にいる先生にデザインソフトの使い方を聞くぐらいなら、自分で調べるなり試すなりした方が効率的。
「“人でなし”でも、誰かに迷惑かけてるわけじゃ無いんだよな」
彼女が検索結果から引っ張り出してきた、ドラマのセリフを流し見ながらそう思う。
決して冷酷なんかじゃ無い。他人に迷惑をかけない。むしろ他人への迷惑を考えて、こんな行動をとっているのだ。
ああ、なんて思いやりにあふれているのだろう!
「この人でなし!」
……しかし、スマホケースはいよいよ静かに閉じてしまった。
果たして、恋人の女にそう吐き捨てられた男と、たかが19歳の私。
一体何が同じだというのか。
 
「ご用件は何でしょう」
思ったよりも響いたその声に、焦る心とは裏腹に、冷静な判断でホームボタンを押せたのは運が良かった。
なんとなく目の前の彼女を見やるけど、彼女はスマホの画面に目を落としたまま。
それにちょっとだけほっとする。
どうやら、意味も無くスマホを触っているうちに、Siriが起動してしまったらしい。
……それにしても、哀れなやつだ。
「悪いね、なんでもないよ」
なんて、そんな言葉すらもかけられないまま、このAIは沈黙させられたのだ。
私という人間の都合で、ホームボタン一つで無理矢理黙らされた。
「もし私だったら、腹立つな」
しかし、相手はAI。私と違って、人間じゃ無い。
別に哀れむ必要など無いのに、私は何を哀れんだ?
それこそ、人間の勝手な都合だろう。
Siriの仕事は、調べること。主人の役に立つこと。それ以外は沈黙を決め込んでいたって良いのだ。別に黙らせたっていい。
だって、私が主人だ。上司だ。
……だけど、なんだろう。何故かこの行動ロールに見覚えがある。
「ああ、嘘だろ」
ふと彼女を見たとき、思わずそう呟きそうになった私を許して欲しい。
気がついてしまったのだ。
目の前に、さっき私が哀れんだばかりの“人でなし”がいたことに。
 
さっき私が黙らせたSiriと、目の前の彼女の、一体何が違うというのだろうか。
「なるほど。言い得て妙だったわけだ」
私が、彼女が繰り返してきた“分からないから調べる”行為は、“人でない”AIとやってることが大して変わらないのだ。
間に人を介在させない、インターネットの海に身を投げる行為。
私たちはその海から帰ってくることは出来るけれど、潜っている間、誰かとほほえみ合うことは出来ない。
誰の熱も感じることの無い検索は、海と同じで私の体温を奪い続けていたのだろう。
……それに全く気づかなかった私は、もはや“人でない”のかもしれない。
「こりゃ“人でなし”だわ」
そんなつぶやきすらも聞こえていない彼女に、なんて声をかけて海から引きずりあげようか。
いっそあの恋人の女のように、こう声をかけようか。
「この人でなし!」
 
“人でなし”の私たちは、随分深いところまで沈んでしまったらしい。
陸は遠い。コミュニケーションなんてとれば、やけどしてしまいそうだ。
「それでも」
“人でなし”が陸に上がれば、人魚姫のように素敵な出会いがあるのだろうか。
だから、手始めにあのおじさんたちに声をかけてみよう。
セリフはきっと、こうがいい。
「“人でなし”だなんて、言い過ぎですよ!」
……だって、やっぱりちょっと根に持ってるから!

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2018-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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