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「ハゲ」は最高のアイコンである


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田中 伸一 (ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
7月8日のライティング・ゼミでのことだ。
小グループに分かれる場面があった。天狼院の木村さんが、テキパキとグループ分けを進めていく。
「そちらのお二人、後ろの方と一緒にお願いします」
「次は、田中さんとその後ろの3人の方でL字型ですね。グループになってください」
あれ? 今、名前で呼ばれたよね。
結局、グループ分けで名前で呼ばれたのは、私一人だった。もともと木村さんと親しいんだったら、わかる。でも、直接お話ししたのは、1回だけだ。
なぜ覚えてもらえたのか。それはたぶん、私が「ハゲ」だからだ。
どのくらいかというと、波平さんまであと一歩ぐらいである。残っている髪も、横3ミリ・上6ミリで刈り込んでいるから、散髪直後はスキンヘッドに近い。天狼院店主の三浦さん流に言えば、「ハゲ族の一員」というところだろう。
 
髪の毛が減り始めたのは、22歳のころからだ。最初に気付いたのは、電車で寝ていて窓ガラスに後頭部をこすりつけた時だ。つむじのあたりにガラスが直接触れる感触があった。
それまでは直毛の始末がつかずに、セットが難しくてパーマをかけたりしていた。だから、最初は髪の分け目がたまたま後ろにできてしまっただけだ、と思っていた。
ところが、日に日に後頭部の髪が減っていく。
 
すぐに思い出したのは、母方の祖父のことだ。私が小さい時から、祖父はほとんど髪がなかった。夏休みに上野動物園に連れて行ってもらったことがある。切符売り場で祖父は帽子を脱いで、頭を職員に見せた。それだけで「老人」扱いで入場した。それくらい、堂々たるハゲっぷりだったのだ。
……きっと、隔世遺伝に違いない。
母に聞くと、母が子どものころからどんどんハゲていったらしい。この呪いから逃れることは、難しいだろう。
 
でも、それにしてもちょっと、早すぎるんじゃない? せめて、20代はフサフサのままで過ごしたい。
そう思って、ワカメや黒ゴマをたくさん食べたり、育毛シャンプーやローションを試してみたりした。
でも、無駄だった。
27歳で結婚したときは、かろうじて前髪があったけれど、だんだんスダレみたになってきた。
 
「飯田課長、周りから持って来てるけど、かなり後頭部が行っちゃってますよね」
「あのくらいが微妙だよね。瀬戸さんみたいに完全にハゲたら、あきらめもつくんだろうけど」
「まあ、本人も気にしてるんだから、あんまり言っちゃいけませんよね」
そんな職場の話題には、会話から外れて仕事に集中するふりをした。でも耳はそっちを向いている。飯田さんや瀬戸さんの話がしたいんじゃなくて、オレのことを言いたいんじゃないの? という気がしてくる。そうすると、後頭部が突っ張ってくる感触が強まる。
「もう。このストレスでまた抜けてる……」
後頭部がパンパンに張り詰めて、その力に耐えられなくなった髪の毛がはらはらと落ちていく映像が、脳内に流れる。
 
もう、限界だ。
結婚して子どももできたし、もう「ハゲオヤジ」の自分を受け入れる時じゃないか?
残り少ない髪を伸ばしたり、こねくり回したりしても、周囲から見れば「無駄な抵抗」にしか見えないだろう。こっけいなだけだ。特に、部分的に細い髪ばかりになっているところを伸ばしていると、清潔感が失われる。
だから、私は、潔くスポーツ刈りにすることにした。
なにしろ、丸刈りがイヤで中学受験したほどだ。ここまで短髪にするのは、30歳にして初めてである。
床屋で刈ってもらって、合わせ鏡で仕上がりを確認して愕然とした。生え際のラインが頭頂部まで食い込み、後頭部のハゲとつながりそうになっている。
「終わった……」
何が終わったのか、意味不明だが、何か大きな区切りを越えてしまった気がした。
でも、見た目は思ったほど悪くない。前よりずっとスッキリして、男らしく精悍な感じすらする。私は、新しい自分を受け入れることにした。
ハゲネタを聞いて嫌な思いをするのは変わりないが、同年代の髪に悩む同僚から、意外な言葉をもらった。
「俺も、うまいこと隠してるつもりやけど、実は田中ぐらい後退してるんや。いつかは隠せんようになるやろと思うけど、潔くハゲをさらすことがでけへん。お前は偉いで。開き直れる強さがあるんや」
そんな哲学的なこと、考えたことがなかった。それに、これって本当に褒め言葉なんだろうか。何だか頑張るべきところから降りてしまったような、ちょっと残念な気持ちがあった。
 
ところが、そのころから驚くような変化があった。ご近所の女性からの認知度が急上昇したのだ。
妻が保育園の保護者会に出ると、「田中君のお父さん、知ってます」という人が、やたらと登場するというのだ。私にとっては、顔と名前が一致しないどころか、たぶん顔を見てもわからない人たちだ。でも、向こうは知っている。イクメンのはしりみたいに、保育園の送り迎えをしていたことも目立つ原因だ。それ以上にハゲオヤジが小さい子どもを連れ歩いているというのは、相当なインパクトがあるらしい。
 
ハゲだから、恥ずかしい。本人にしてみれば、マイナスポイントだ。
でも、他人からすれば、ハゲなんて、どうでもいいことだ。プラスでもマイナスでもない。
大切なことは、ハゲだから、目立てる。そして、覚えてもらえるということ。
ものすごい強みなのだ。
だって、同じ体の悩みの部類でも、例えば「乳首が黒い」なんてのは、会う人全部に知られることはあり得ない。ハゲは、必ず目につくがゆえに、アイコンたり得るのだ。ちょうどイモトアヤコさんの眉毛のように。これを生かさない手はない。
「田中=ハゲ」の図式を相手の心に刻みつけることに成功すれば、多くの人に覚えてもらえる。そこに、自分の仕事をからませれば、完璧である。私は、紙に関する仕事をしているので、
「頭の髪はありませんが、ペーパーの紙の商売をしています」
と、初対面の自己紹介でいきなりハゲネタをかますことにしている。
こんなベタなフレーズでも、結構ウケる。特に女性は遠慮なく大爆笑になる。絶対に忘れられることはない。
 
「ハゲ」という最高の特徴を自分のアイコンとして手に入れた。
何という幸い。もう、手放したくない。

 
 
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2018-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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