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メディアグランプリ

プロ詐欺師から学んだ運命の人に出会う方法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ネコテラス(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「湘南をテーマにドラマ撮影するんだ。俺そのドラマの脚本家やっていてさ、アイディア探しのために湘南に住んで見ようと思って。よろしく」軽いノリで話しかける佐藤(仮名)。
佐藤はオーナーは同じだが、僕が住んでいるシェアハウスとは、また別の場所にあるシェアハウスに引っ越してきた。
 
「1話しか完成していないけど、脚本見せてやるよ」無理やり押し付けられた脚本をパラパラめくってみる。脚本ってこんな感じなのか。本物の脚本を見たことない僕は、こんなものかぐらいにしか思わなかった。
 
「撮影日程決まっているけど、まだまだ先だからさ。のんびりしながら書くよ」佐藤の脚本を使ったドラマは、ゴールデンタイムで放送される予定だそうだ。佐藤は遠回しに自分を大物脚本家と言っているように聞こえた。
 
「来年撮影だけど、もう出演者決まっているんだ。誰が出ると思う?」佐藤の口から出たメンバーは、「サミットかよ」と思うぐらい、全員主役クラスの芸能人。もし本当に実現していたら、視聴率は30%ごえはできただろう。
 
佐藤と話してみて思ったのが、全体的に特徴がない。印象が残りにくい顔といえばいいのか、ぱっと見どこにでもいるようなおじさん。年齢は40代後半から50代前半ぐらい。今思い出して見ても、首から上が消えてしまっている心霊写真のように顔が出てこない。後々わかったことだが、彼の本業を考えると、人の記憶に残りにくいという能力は役に立つ。
彼の本業は詐欺師だ。
 
数日たち、二度目にあった時、今度は脚本ではなく1枚の紙を渡された。
「今度カラテビクスはじめるから、暇あったらきてよ」紙にはカラテビクスの詳細と、料金の一覧が書いてある。佐藤の話だと、有名な空手家のもとに弟子入りし、長く空手を続けているという話だった。大物脚本家が、なぜ小銭を稼ぐようなことをするのか疑問に思ったが、その時はたいして気にもとめなかった。
この時ぐらいからだったと思う。佐藤にたいするよくない噂がたつようになったのは。佐藤は、金のあるやつとしか付き合わない。女性以外とは関わらないなど。
 
三度目にあった時は、仕事の帰りが遅くなり24時近くに家についた。シェアハウスといえば、みんなで夜遅くまで飲み会をやってそうなイメージだが、夜も遅くなればみんな普通に寝る。その日は違った。深夜にも関わらず大盛り上がり。シェアハウスのメンバー総動員でパーティー。よくみると見知らぬ女性が佐藤の横に。
「佐藤さん結婚することになったよ」お誕生日席にいるオーナーは、上機嫌に教えてくれた。
 
佐藤の横に、30代前半ぐらいの真面目そうな女性がお酒を飲んでいる。名前は鈴木(仮名)さんといい、九州で教師をやっているそうだ。お酒を飲んでも騒がず品がある。遅れてきた僕に、結婚のなれそめを話してくれる。
 
佐藤は婚活パーティーに出席し、そこで鈴木さんに出会った。佐藤は鈴木さんにその場でこう言った。
「お前に一目惚れした。運命の人で間違いない。結婚してくれ」と婚活パーティーでプロポーズ。その日のうちに結婚指輪を用意し「今はこれしか買えないが、ちゃんと良いもの買う。結婚してくれ」とあらためてプロポーズ。鈴木さんも結婚に了承。さすが脚本家。ドラマチックなプロポーズ。当時の僕は思った。
 
鈴木さんは両親と一緒に九州に住んでいる。すぐに両親にあいさつしに行き結婚の了承をもらった。鈴木さんと佐藤は、今回のパーティーも含めて3回しかあっていない。こんな劇的に運命って変わるんだと当時思った。
 
僕と佐藤、鈴木さんと佐藤、4回目の出会いはなかった。パーティーの数日後、佐藤は鈴木さんに電話で「高級車とぶつかっちまった。今すぐ金が必要だ。すぐに返すから金を貸してくれ」と、数十万円を要求した。
鈴木さんはすぐに言われた口座にお金を振り込む。
 
その1週間後ぐらいに、「また事故ってしまった。また金かしてくれ」と、ほぼ同じようなことを言って、また数十万円を要求。鈴木さんまたも支払いをする。
信じられないことだが、またお金を支払ってしまう心理に驚かされた。
 
佐藤の根性はすごい。また1週間後ぐらいに同じような話をしお金を要求。さすがに、鈴木さんはおかしいと思い、周りに相談をして、佐藤の詐欺に気づいたようだ。
 
オーナーにも鈴木さんから苦情が入り、オーナーが佐藤に詐欺のことを問いただした。佐藤の話はもちろん全て嘘。実は、シェアハウスに住んでいる前は刑務所にいた。昔某テレビ局に、
「俺は超有名脚本家だ。本を書いてやるから三百万円、前払いで払え」と要求。テレビ局は実際にその金を払ったが、佐藤は持ち逃げして捕まった。佐藤に脚本を書くスキルも経歴もない。
刑務所出所後、ネットであらかじめ調べ、家賃が安いことを理由に、すぐにうちのシェアハウスに住み始めたそうだ。持っていた脚本も偽物。カラテもやっていない。
鈴木さんとの運命の出会いは、最初から金目当ての結婚詐欺。結婚する気などもちろんない。
佐藤は悪事がバレると、逃げるようにシェアハウスから出て行った。
 
佐藤にとって鈴木さんは、運命の人で間違いなかった。詐欺師にとってお金を取れる人が運命の人だ。
運命の人って、どうやって見つけるんだろう。運命にもいろいろな意味の運命がある。
 
自分の意思で選ぶことのできない運命。
 
自分の意思で選ぶことのできない運命に立たされた時、何をするか選択する運命。
 
何を選ぶかも含めて、全てはじめから決まっていた運命。
 
この中で人間が選択できるのは、自分の意思で選ぶことのできない運命に立たされた時、何をするか選択する運命だけだ。後は、人間にはどうしようもできない。自然の摂理や、神様の領域。
 
考え方を変えると、人間にとって選択だけが運命だということでもある。
 
運命は前屈のようなもので、自分は指先がひざ上までしかいかないから硬い。あの人は床にぺったりつくから柔らかい。全国平均の数字より低いから硬い。
誰かとの比較や、数字との対比で物事を決めるのではなくて、膝上でも自分が柔らかいと思ったら柔らかい。それが真実であるように。
 
運命の人も、運命の人だと自分で思い、行動することを選択し、口に出したら、その人が運命の人になるのではないか。
 
実は、運命の人はそこら中にいて、行動する選択をとらないだけで、出会えていないと思いこんでいるのではないか。
 
本当にこの人だと思う人に出会ったら、まず最初に言ってみよう。「君は運命の人だ」

 
 
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2018-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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