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渡る世間の鬼とどう対峙するか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:羽衣姫 香耶(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「ちゃんと設計通りにやって下さいよ!」
「うるさい! お前らみたいにちまちま仕事をしているわけじゃないんだ! 5ミリだの10ミリだの、そんな細かい仕事ができるか!」
 
ベテラン職人と言う名の渡る世間の鬼と対峙していたのは、私が高校を卒業し半年が経った頃だった。
高校卒業後、社員数人しかいない小さな建築デザイン事務所に入った私は入社して1か月もしないうちに「じゃあ、君、現場監督ね」と任命され、ヘルメットをかぶらされ、職人たちがどんな作業をしているのかも分からない現場にポツンと残された。
 
私の姿を見て
「お前が現場監督か! えらい可愛らしいのぉ!」
とよく笑われたものだった。当然、この場合の「可愛らしい」は褒め言葉ではない。「何もできないひよっ子が偉そうに」とバカにしているのである。
そんな職人になめられてたまるかと、訳の分からない現場ながらも勉強し、くらいつく。
そんなことを半年もしていると、見えてくるものがあった。
職人の手抜きである。
 
小さい会社だったので、社長が現場に来て職人に直接指示を出すのだが、そんな時は、職人はそれに素直に従う。けれど、社長がいなくなった後の仕事は意外と雑なのである。
そこに私がメジャーを持って図面と違う寸法であることを指摘すると「うるさい。あっちへ行け」と追いやられるのである。
「ここの壁の厚さは25ミリって書いてあるでしょ? ちゃんとやって下さいよ」
「ちゃんとやっとるだろうが!」
「なってません! 30ミリになってるじゃないですか! 25ミリにして下さい!」
設計図面に合わせて家具や建具を作るので、5ミリ違うと入らない物も出て来てしまう。そのために、設計図面があるのだし、現場監督の私がいるのだが、私が何を言おうにも全く聞き入れてくれない職人。
 
「ちゃんとやって下さい!」
「うるさい!」
そんな私とベテラン職人のやりとりを見かねた大工の頭領が
「まぁまぁ、そう言わず、やってやってくれんか? あんたやったらそれぐらいできるやろ?」
と仲介に入ってくれると
「まぁ……あんたがそう言うなら、やってやってもいいけどな」
としぶしぶ言うことをきく。
社長や頭領のような強い者には従って、私のような弱い者には強く出るってどうなの?! と憤慨する私を大工の頭領がなだめてくれる。
「まぁ、そう怒りなさんな。あいつらにとったらあんたは孫みたいな年だし、まして女だ。小娘の言うことを、そうそう『はい、そうでございます』とは聞けんだろ」
だが、その言葉にも私は食って掛かる。
「小娘の言うことだろうが、何だろうが、仕事でしょ? やることをきっちりやってくれればこっちだってわざわざ注意しに行きませんよっ! きちんと仕事していないのはあっちでしょうがっ!」
仲介してくれた頭領に八つ当たり半分で訴えると
「まぁ、そう四角四面にはいかんよ」
と苦笑する。そして
「お前はもう少し、人を上手く使う方法を覚えんとな」
と諭してくれるのだが、上手く使うも何もちゃんと仕事をしないあっちが悪いんじゃないか! と私は納得がいかなかった。
 
現場にいつでも大工の頭領がいるとは限らない。私の見方をする偉い人がいない時は職人は私がどれだけ訴えても自分たちの都合で仕事を終えて帰って行く。
当然、設計図と違う寸法のものが出来上がっているので、後日、うちの社長に職人と私が呼び出され「何でこんな仕上がりになっているんだ!」と怒られるが、職人たちは「はいはい。直しますよ」といった軽いノリで手直しを終え帰っていく。
彼らが帰った後に怒られるのは私だ。
「何のために、君は一日中現場にいるんだ! ちゃんと設計図を見て、寸法を図れ!」
「やってます! やってるけど、職人が言うことを聞いてくれないんです!」
そう訴えても
「それは現場監督である君が何とかすることだ」
とさらに怒られる始末。
 
「上手く使え」だの「自分で何とかしろ」だの、渡る世間は鬼ばかりだ! と痛感した。
そして、一番の鬼は私の言うことをきかず、手抜きばかりしてきちんと仕事をこなさないあの職人共だ!
私はそう思った。
そして、あいつらをどう退治すべきかいろいろ試行錯誤した。
 
「社長に言いますよ!」と脅し文句を言ってみたり、「職人ならできるでしょ?」と頭領の真似をしてプライドをくすぐってもみた。
それでも、私の祖父ほどの年齢の男どもは聞く耳を持ちはしない。
 
万策尽きて、困り果て、最後に出たのはもう泣き言でしかなかった。
「何度言ったら分かるんですか! 設計図通りにして下さい! じゃないと私が社長に怒られるんです!」
つい口をついて弱音を吐いてしまったのだが
「そんなこと俺らが知るか!」
と怒鳴りつけられ
「こんのくそじじぃどもが~っ!!」
と、はらわたが煮えくり返る思いだった。
 
ところが、である。
その日、職人たちはきっちりと設計図通りの仕事をして帰って行った。
なぜ今日に限って手抜きをせずに帰って行ったのかと不思議に思っている後ろで、腹をかかえて笑っていたのは大工の頭領だった。
「え? なんであの人たちはちゃんと仕事して行ったの?」
何事が起きたのか分からず、ポカンとしてしまっている私の質問に頭領は笑いながら答えた。
「そりゃあお前が『私が社長に怒られる』って言ったからだろう?」
「は?」
「言ったろ? お前はあいつらからみたら孫みたいな年だって。そんな孫が自分たちのせいで社長に怒られるのを想像したら忍びなかったんだろうよ」
「は? え? そんなことで?」
「そんなことで人は動くもんだ。良かったな。上手く人を使う方法をこれでひとつ覚えたろう?」
そう言って頭領は私の頭をポンポンとたたいてみせた。
 
「あいつらは渡る世間の鬼だ! だから退治してやるんだ!」と私が躍起になっていた時は職人たちは「小娘の言うことを素直に聞いてなるものか!」と対立してきた。
けれどこちらが「私が社長に怒られてしまいます。助けて下さい」とお願いした途端、職人たちは「まだこんなひよっ子を泣かせたら可哀想だ」と、こちらの頼みを聞いてくれた。
 
そうなのである。渡る世間の鬼は私が作っていただけで、職人たちは鬼ではなく、情けのある人だったのだ。
「それがお前らの仕事だから、やるのが当たり前だろう!」
と上から物を言うと人は反発するが
「私はこれを完成させたいんです。助けて下さい。お願いします」
と頼めば、人はきちんとこちらの気持ちを受け止めてくれるのである。
 
仕事だからと、こちらが雇っているのだからとおごらずに「人に頼む姿勢は大事である」という貴重な体験をしたな。と、50歳近くなった今でも思うのである。

 
 
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2018-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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