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「いい子に育ったね」の十字架を背負った日


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記事:かい(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「おばあちゃんが亡くなりました」
仕事中の昼間、実家の母から電話があった。
母方の祖母が88歳で人生を終えた。
 
最後に、おばあちゃんに会ったのは半年前である。
そのときから、体調は優れず、歩くのもままならず、椅子に座るのも、食べることもやっとの状態であった。
さらに、最近、体調が悪化して、病院に入院していたことは母から聞いていたこともあり、覚悟はしていた……つもりであった。
 
翌日、忌引き休暇を取って、葬式に出席した。
半年ぶりに会ったおばあちゃんは化粧のお陰か、元気なころの顔で安らかに眠っていた。
 
葬式が始まり、お坊さんがお経を唱え始めた。
お経を聞きながら目をつぶっていると、元気なころのおばあちゃんとの思い出が蘇ってきた。
 
小さい頃からおばあちゃんとは離れて住んでいたため、半年に1回くらいの頻度でしか会っていなかった。
おばあちゃんは会うたびに、どんな些細なことでも私のことを褒めてくれた。
人を褒めることのプロと言ってもいいくらい、会話の節々で褒めてくれた。
人は褒められると期待を裏切らないようにするのか、わたしは子どものころからおばあちゃんの前では「いい子」でいるように心がけた。
 
「おばあちゃん、小学校のドッチボールの県大会でベスト8に入ったよ!」
「おばあちゃん、中学校の部活で部長になったよ!」
「おばあちゃん、高校の期末試験で校内2位になったよ!」
「おばあちゃん、大学は国立大学に受かったよ!」
「おばあちゃん、イギリスの大学院に受かったよ!」
「おばあちゃん、就職活動で大手のメーカーから内定をもらったよ!」
 
私は会うたびにおばあちゃんには良い報告ばかりしていた。
おばあちゃんはそんな報告に対して、「いい子に育ったねぇ」とたくさん褒めてくれた。
大人になって、会う頻度は減っていったが、私のその姿勢は変わること無く、おばあちゃんの前では「いい子」を演じ続けてこられたと思う。
 
思い出しているうちに、お焼香が終わり、皆で、棺桶の中にお花を捧げた。
おばあちゃんのほっぺたを触るととても冷たかった。
「本当に死んだんだ……」
覚悟は出来ていたはずなのに、おばあちゃんに触ってみると悲しみがこみ上げてきて、自然と涙が出てきた。
「おばあちゃん、俺は来月で30歳だよ。いい子に育ってるかな?」
もう、おばあちゃんは「いい子に育ったね」とは褒めてはくれなかった。
 
実は、おばあちゃんには秘密にしている「いい子」が決してやらないことをいくつもある。
テストでカンニングしたこと
投機にのめり込み大金を溶かして消費者金融に手を出したこと
女性と一晩だけの体の関係を持ったこと
浮気をして彼女にフラれたこと
 
そんな複雑な思いの中、おばあちゃんは霊柩車に乗って、私たちは各自の車に乗って、火葬場に向かった。
火葬場に着いて、皆でおばあちゃんに最後の別れを告げた。
 
おばあちゃんは間違いなく天国へ行っただろう。
どんな時も休むことも無く、部屋の中を掃除したり、家の庭の草刈りをしたりと働き屋でじっとしていられないタイプであった。
病院での入院中も、部屋の掃除に来てくれた人に対して、「ありがとう、ありがとう」と体調が優れない中、感謝ばかりしていたそうである。
頑張り屋で働き屋のおばあちゃんは、リハビリも積極的に、課せられたノルマ以上の運動をしていたそうである。
どんなに記憶を辿ってみても、怒った顔を見たことが無く、いつも笑顔で優しいおばあちゃんであった
 
そんな「いい子」のお手本ともいうべきおばあちゃんに対して、私は会う時だけ「いい子」を取り繕うことが出来た。
しかし、天国に行ってしまっては、これからは良いことも悪いことも否応なしに見られてしまう。
 
「もう、おばあちゃんに秘密は通じない」
 
葬式を終えて、今まで温かく見守ってくれたおばあちゃんへの恩返しとして、私はおばあちゃんの「いい子に育ったね」の十字架を背負うことを心に決めた。
 
人はそんなに簡単には変わらない。
30年生きてきて「いい子」で生き続けることは本当に難しいことは分かっている。
しかし、いつか、私が死ぬときにはおばあちゃんがいる天国に行って、「いい子に育ったね」ともう一度だけ言ってもらいたい。
その一心で、とてもとても重い十字架を背負うことを覚悟した。
今回の葬式は、私にとって忘れられない大事な一日となった。

 
 
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2018-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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