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メディアグランプリ

記録的猛暑の日々に、たいせつなもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:富田裕子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「え、あんた申し込んでないの?」
「うん、僕行かないよ」
 
今、甲子園出場を目指す、高校野球の地方大会が大詰めだ。
息子の通う高校の硬式野球部も勝ち進み、地方大会の準決勝に出場することになった。準決勝と、準決勝に勝って決勝に進んだときには、応援する生徒用のバスが学校から出ることになった。
1学期の終業式に、応援に行くかどうかの希望調査があったという。翌日から夏休みに入るため、確実に生徒が出席しているこの日に、応援参加者の調査があったのだろう。
 
「準決勝はともかく、決勝ぐらい応援に行ってもいいんやない? 今年はあんたは部活もないんだから」
「この暑さやもん、絶対に熱中症になる」
「案外、冷たいんやねぇ。同じクラスのH君はレギュラーなんやろ?」
「そうやけど、熱中症になってまで他の部活を応援する意味がわからん」
 
確かに昨年、吹奏楽部だった息子は容赦なく応援に動員され、暑さでヘロヘロになっていた。応援後に気分が悪くなる部員が続出し、自分たちのコンクールの練習がままならないこともあった。
 
そうは言っても、甲子園ですよ。やっぱ、格別やん。
来年も勝ち進むかどうかなんて、わかんないし。
もし決勝に勝って、甲子園行きが決まったら、球場は盛り上がるやろうね。
もう部活も辞めて、楽器も吹かんのやけん、水分しっかりとれば大丈夫やない?
 
「絶対に行かない」という息子と、「何で行かんの?」 という私。
 
そんなやりとりを繰り返しているときに、ふと私の高校時代のことが頭に浮かんだ。
 
 
私が通った高校は、学校行事が盛大に行われる学校だった。その中でも体育祭は、学校中で取り組む最大の行事だ。
当時、体育祭は9月20日前後に行われていた。その9月の体育祭の準備に、6月から取りかかる。
4つのブロックに分かれ、各ブロックの中でそれぞれが役割を担当する。
応援団、アトラクション、踊り娘、炊き出し、縫い娘、人文字、バックボード……。
部活を引退した3年生を中心に企画をし、夏休み返上で準備をする。
9月に入ると、連日ブロック練習をし、放課後も遅くまで準備を重ねる。
この時期は、学校中が体育祭一色になる。バリバリの進学校であるにもかかわらず、先生も体育祭が終わるまでは、3年生にも「勉強しろ」とは言わない。
みんながひとつになり、体育祭を作り上げる。それが、伝統。
 
何の疑いもなく、熱気あふれる日々を過ごす私たちに、ある日世界史のM先生は、静かにこう言った。
「体育祭の練習を最小限するだけで、放課後図書館に行くような子を非難するようになってはいけない。みんなと同じ行動をしない人を『非国民』と呼ぶのは、戦時中と同じだ。
多様な考え方、生き方を受け入れる世の中にならなくてはいけない」
 
いつも穏やかに話をするM先生。このM先生の言葉に、私は大きな衝撃を受けた。
戦時中と同じ……。
私は今の自分の状況に、まったく疑いを持っていなかった。
 
確かに、同じクラスにもブロック練習が終わるとサッサと帰る男子がいた。さすがに「非国民」と非難することはなかったが、「ああ、また今日もアイツ帰るんや」と白い眼でみることは、あった。
彼がどういう考えを持っているのか、どういう事情があるのかなど、これっぽっちも考えもしなかった。
一緒に盛り上がっていない、というだけだったのに。
 
みんなで作り上げ、熱くなった体育祭。それは貴重で大切な思い出だ。
しかしM先生の言葉は、忘れてはいけない言葉として、体育祭の思い出とあわせて私の中に残っている。
 
 
高校野球にしても、つい先日まで行われていたワールドカップにしても、オリンピックにしても、私たちは突然の熱狂を示す。たとえ、それまではほとんど興味がなかったとしても。
みんなで盛り上がり、ワイワイ応援することはとても楽しい。
しかし、熱を持てば持つほど、熱い人が増えれば増えるほど、それ自体が「正」となってくる。
そして、そうでないものが「悪」となり、排除の対象となる。
排除はまったく悪気もなく、無自覚に行われる。それはとても危険であるということを、私たちは自覚すべきだ。
熱狂の中の「冷静な目」が必要だ。
 
記録的な猛暑で、球場に応援に行った人も、野球部の選手も、熱中症で運ばれたというニュースが連日流れている。
学校の中の一部活にすぎない野球部だが、甲子園のかかった大会で勝ち進めば、学校も興奮状態になり、学校応援も行われる。
応援に行きたい人は、熱中症に気を付けて、行けばいい。
だが、「行かない」という人を「なんで行かないのか」と強制したり、白い眼でみたりするのは、とても危険だ。
私もまた、間違いを犯すところだった。
 
結局、昨日の準決勝は、家族でテレビの前から、熱烈に応援した。
 
まだまだ猛暑は続くという。
「危険な暑さから自分の身を守る方法をとるように」と、連日テレビなどで呼びかけられている。
学校応援になったらことわりにくいかもしれないが、応援に行きたくない人は、「僕は行きません」と言う勇気を持ってほしい。
そして、そういう人をきちんと認める教育現場であってほしい。
高校野球で、熱中症になる人が、これ以上でませんように……。

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2018-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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