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メディアグランプリ

岩手の山奥で見つけた、驚きの光景


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鈴木ゆかこ(ライティング・ゼミ朝コース)

 
 
8月15日、夜8時。私は、悪あがきをしていた。
「もっと早く、決断してくれていたらな……」
子供が夏休みに入ったころから「夫のお盆休みは東北を旅行したい」といくつか予約可能な宿をあげていたのだが、仕事が多忙すぎた夫は旅行先を決断できず、結局お盆休みに入っても、どこも予約できていない状況だった。
 
「このまま残りの休みを自宅で過ごすことになるなんて、嫌だ!」
お盆時期に、翌日から二連泊できる宿を見つけるのは、簡単なことではなかった。しかし執念で探したところ、岩手県陸前高田市にある、とある温泉の簡易宿泊所に空きを見つけることができた。公営の施設らしく宿泊費もリーズナブル。即決で予約した。
 
宿は、東日本大震災の復興のシンボルとして有名な「奇跡の一本松」から車で20分ほどの玉山金山という人里離れた山の中にある。行きの車中で宿について調べていると“玉山金山探訪”という興味深いガイドツアーが実施されていることを知った。
 
玉山金山は、かつては大量の金が産出された金山で、今は金の産出はないものの、ガイドツアーでは金の副産物である水晶を見つけることができるという。
 
「水晶を自分で見つけることができるなんて超レア! めちゃんこ面白そう!」
 
チェックインと同時に、翌朝のガイドツアーに申し込んだ。
 
 
ツアーは、玉山金山の歴史や水晶についての知識を得るオリエンテーションから始まった。世界遺産に指定されている中尊寺の金色堂の金箔は、この玉山金山で産出した金を用いたと言われているのだそうだ。そんな解説を10分ほど聞いたのち、いよいよ宿の裏手から山に入ることになる。
 
「玉山金山は私有地なので、普段はここから先は立ち入ることができないんですよ」
 
ガイドのお姉さんの後に続いて、立ち入り禁止を示す鎖をまたぐと、なんだか特権を得たような気分になって、心が躍った。
 
「持ち帰りは一人三個までだって」
と夫に言うと
「え! 三個って制限されるほど、見つかるってこと?」
と驚いていたが、個数が制限される理由が、山に入るとすぐに分かった。
 
水晶の採取地は、草の生い茂る山道を15分ほど登った場所にある。蛇が寄ってこないようにと、ガイドさんが時おり立てるパンッパンッという足音と熊よけの鈴の音を聞きながら、周りの景色や木々に目を向けつつ足を進めていると、ガイドさんが声をかけてきた。
 
「これも水晶なんですよ」
 
彼女が手に持っていたのは、握りこぶし二つ分ほどの大きな乳白色の石だった。表面は真っ白だが、よく見ると所々に透明な部分がある。この透明な部分が水晶だと言う。
景色ばかりに気を取られて気が付かなかったが、足元を見ると水晶の欠片や塊が石ころのごとく落ちていた。
 
「えー! こんな風に転がってるの? 不思議だなー」
山道に当たり前に転がっている石ころのなかに、これまた特別感もなく当たり前に水晶が落ちているなんて、驚き以外の何物でもない。
 
そこからは、「不思議だ、不思議だ」と言いながら、お気に入りの水晶を見つけようと足元ばかりを見て歩いた。
 
水晶と言っても、乳白色に濁ったものから、透明度の高いものまで様々な種類がある。できるだけ透明の石を手に入れたいが、ガラスのように透明度の高いものはなかなか落ちていない。
 
「あ、これ透明だ!」
透明度の高い水晶の小さな欠片を拾い喜んでいる私に
「今から行く場所は、そんなのがいっぱい落ちていますからね」
とガイドさんが笑顔で言った。
「いっぱい?!」
こんな場所で拾っている場合ではないということか。ガイドさんの言葉に、他のツアー参加者の歩みが、心なしか早まったように感じた。
 
「ここで思う存分、水晶を探してください」
いよいよ到着した水晶採取場所は、なんとも驚きの光景が広がっていた。砂利や石がゴロゴロと落ちている、一見すると工事現場の空き地のような場所だが、工事現場の空き地と違うのは、ゴロゴロ落ちている石の多くが水晶ということだ。
 
この選び放題に落ちている水晶の中かから、たった三つしか持ち帰ることができない。ひとまず、見つけた水晶をどんどん拾い、最後に厳選することにした。
 
透明度が高く、なるべく大きいものを中心に探し始めるが、透明度の高いものはガラス屑のような数ミリ程度の欠片が多く、1センチあればまずまずの大きさだった。太陽があたったときの小さなきらめきを頼りに、ひたすら地面とにらめっこする。光った部分を指でほじくり、私の基準に合格したものだけ、手の平に残していく。この作業を繰り返すこと15分。私の左手には、十数個の様々な形の水晶がコレクションされていた。
 
一般的な水晶として知られるポイントと呼ばれる頂点を持つものはもちろん、両端にポイントがある両錘水晶、二つ以上の水晶がくっついている双晶など珍しい水晶も見つけることができた。
 
最終的に私が持ち帰った水晶は、削る楽しみを目的にした石の塊の中に水晶が埋まっているクラスターと呼ばれる群晶と、光にあてると水晶の中に虹が見えるレインボー水晶、そして金運の石と呼ばれる黄色い水晶のシトリンだ。
 
夫は「金魚の水槽に入れるんだ」と形と大きさにこだわり、10歳の長女はポイントが美しいものを厳選し、6歳の次女はなんとなく直感で決めて、それぞれが自分の水晶を手にし、嬉々として帰路についた。
 
玉山金山探訪は、宿泊客でなくても参加可能で、温泉の日帰り入浴付きで大人一人1680円。しかし宿泊客は、なんと無料で参加できる。温泉は、肌がつるっつるになるお湯で、そのうえ、たくさんの水晶が眠っている山の鉱泉だと考えると、浄化力がある気もしてくる。偶然見つけた宿であったけれど、温泉といい環境といい料金といい大満足の宿だった。
 
さて、お楽しみはまだ終わっていない。これからクラスターを削って、水晶を掘り出すという作業が残っているのだから。

 
 
***

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2018-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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