メディアグランプリ

スイカジュースと私のアイドル


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
 
 

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記事:中西由紀(ライティング・ゼミ特講)
 
 
とても暑い日々が続いていた2018年のその日も、わたしはとても地上は歩けそうにないと思い、地下街へと降りていった。思った以上に人があふれていて、「みんな暑いし、しんどいよね」とぼやきながら、 先を急ごうとしたその時だった。カフェの入り口にある、季節のおすすめ「ソルティ すいかジュース」の写真がぱっと、視界に入り込んできたのだ。氷入りの赤い果汁がそそがれたロンググラスは、汗をかいたさまで美味しそうな顔でこちらを見ている。一瞬、その得意そうな顔にとまどってしまったがすぐに「ソルティってなんや、しゃれやがって!」とケチつけて、なお人があふれている百貨店のデパ地下へと急いだ。
しかし、買い物していても、先ほどのソルティすいかジュースの残像があたまからいっこうに離れなかった。私は数年前の夏に、タイで飲んだとても思い入れのあるスイカジュースを思い出していたのだ。ひょっとしたらまた、あの味を味わうことができるのか? いや、そんな事はないだろう、しかし……。
それは初めてのタイ旅行。しかも海外添乗員としての初仕事。私の緊張がはりつめた中でも、ゆったりと流れるチャオプラヤー川。その船上ブッフェランチで出会った初めてのんだスイカジュースは、つめたくてとても優しい甘みは緊張をときほぐしてくれる美味しさで、とても興奮した。それから先はほぼ、昼はスイカジュースを注文していくことになったのだ。帰国時にはもう美味しいスイカジュースを楽しむことができないのかと残念に思っていたのに、忙しさの中でいつの間にか忘れてしまっていた……。そうか、日本でもスイカジュースを試してみる価値はある。すぐさまインスタグラムで#スイカジュースの動向を調べてみることにした。
一番多い投稿写真は、タイ産の果汁100%「ウォーターメロンジュース」だった。青い背景のパッケージに赤いスイカの写真がとても映えている、まさしくインスタ映えの商品。ずらずらとオシャレな写真が投稿されている。ぜひ飲んでみたい! すぐさま思い当たるところへ探しにいくが見当たらず、スイカジュースを求める気持ちを高ぶらせて、今度はジューススタンドへと向かった。
バスを待っている間、強い日差しを避けるように建物のかげに入って、私は笑みを浮かべていた。手に提げている袋の中には、スイカジュースが2杯。それぞれ違うお店のものである。遠くに黒い袈裟のお坊さんを眺めながら、ひとつを取り出し味わう。ジューススタンドのミキサーの中で出来上がったのは、ピンク色のやわらかい甘みで、すいかの優しさをあつめてできたような味だった。熱い体に入り込む冷たさを感じながら、こぼさないように袋に入れ、さらにもうひとつのスイカジュースに口をつける。こちらはジューススタンドの近くにあったカフェの「すいかスクイーズ100%」。冷たく赤い果汁は見た目からはわからなかったが、すいかの白くて青臭い味もした。スイカジュースと言ってもこんなにも違うものなのかとそれぞれの味を交互に楽しむ。なんと言う贅沢だろう。さすがにバスの中で飲み続けるのはと思いとどまり、スイカの効能なんかも調べてみた。
スイカの代表的な栄養や効能は、トマトよりも抗酸化作用の高いリコピンや、血圧を調整する働きのあるカリウムそして、聞きなれない「シトルリン」だった。シトルリンはスイカから発見されたアミノ酸の一種で、なんと筋肉疲労回復の効果が期待されるという。これはあの夏、タイ旅行の初仕事で緊張していた私がスイカジュースを飲んでときほぐされたのことと一致するのではないか! ますます興奮した。
それからもさまざまなスイカジュースを試してみたが、あの懐かしいさやあこがれを満たすスイカジュースが見当たらないことに苦戦していた。あの夏のあのスイカジュースにもう一度会いたい! まるでスイカジュースは私のアイドルとなり、スイカジュースの動画を再生していたときにはっと、気がついた。そうか、私が作り出せばいいのだと。すぐさま一時期よりすこし安くなったスイカを、ひと玉買いあげてきた。
テーブルの上に新聞紙を敷き、気をつけてすいかの頭部を上から3センチほどスパッと切った。とてもいい熟した赤い色をしてる。そこから少し果肉をだして、ハンドミキサーを入れて切り離した頭部に穴を開けてふたをした。スイッチオン! 動くすいかにあわてふためきながらなだめ、固体から液体に変化していくさまを感じる。そう、きっとあの夏のあの子たちはこんな感じでつくられた果汁100%生ジュースにちがいない。ちょっとドロッと果肉感のある、私のスイカジュースができあがった。お玉ですくいあげ、コップに注ぎ、口へ運んでいく。この感じ、出会えたのかもしれない。たっぷりできあがったスイカジュースにほんの少し手を加えてみては美味いと声にする。ひとりでこの思いにふけるのはもったいない気がするのでこの夏、買い求めてみるのもいいが、ぜひあなただけのスイカジュースを作ってみてほしい。
 
 
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2018-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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