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メディアグランプリ

トンボの涙と夏の空


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:さわみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
ある母親が殺害された。今から約30年以上も前の出来事だ。
 
ミーン、ミーン、ミーン、ミーン……
うるさいくらいの蝉の声と、照りつける太陽。
それは、真夏の昼間に起こった。
 
夏休み中だというのに人影も無く、静まりかえったマンションの公園。
目撃者のいない中、それは静かに行われた。
きっと、この出来事を知る人はいない。
この出来事を知るたった一人の人物は、私だけなのだ。
そう。私は、一部始終を見ていた、唯一の目撃者なのだ。
 
そして、私は母親を殺害した犯人を知っている。
 
今思い出しても、心が震える。
人生で初めて、恐怖を感じた瞬間。
 
本能のおもむくままにとでもいうのだろうか?
それとも、習性とでもいうのだろうか?
強いモノが弱いモノを食らう習性。
 
悲劇にあった母親は、身重だった。
お腹が大きかったのだ。
それでも相手は容赦なく喰いつく。
鎌で押さえつけながら。
逃げ場の無い中、母親は一体どんな思いだったのだろうか。
 
小学生の頃、私は好奇心旺盛な子どもだった。
兄がいたこともあり、男の子のすることを自分も真似てやってみたい。
むしろ、男の子よりも凄いことをやって、自慢してやりたい!
そんなことを思っている女の子だった。
 
小学生の夏休みは、1日がとても長い。
朝早くから遊び回っても、まだまだ1日は終わらない。
夏休みのある日、私は一人で時間を持て余していた。
ちょうどその頃、男の子の間で流行っていた遊びがあった。
私には、それが何だか少しカッコイイことのような気がしていた。
ちょっと悪いことをしているところにも、憧れを感じていた。
 
「そうだ。私もあの遊びをやってみよう!」
とても素敵な、ワクワクするアイデア。
思いついた瞬間、私はその素敵な考えの虜になってしまっていた。
 
場所は、人に見つからないところにしよう。
確か、太陽が照りつける昼間の公園は、誰もいないはず。
準備は何がいるかな?
とりあえず、ビニール袋を持って行こう。
 
そうして私は、誰にも言わず、たった一人で行動を起こした。
 
夏の公園は昆虫の宝庫だ。
まず私は、主役になる昆虫を探してみる。
こいつがいないと、遊びも何も始まらない。
なかなか凶暴なヤツなので、本音を言えば触るのは怖いし、捕まえるのは勇気がいる。
男の子の間でも、この昆虫を捕まえた子はヒーローになれる程なのだ。
でも、だからこそやることに意味がある。
 
探し回った挙げ句、ついに大物を見つけた!
これは、凄いぞ!
勇気を振り絞って細い胴体を掴みあげる。
そして、振り上げる鎌をかわしながらビニール袋の中へ。
ヤッター! 一人でカマキリを捕まえた!
沸き上がる興奮。
 
さあ、主役は捕まえた!
次は餌になる獲物の番だ。
何がいいかな~。蝶々は可哀想かな。バッタもいいな~。
夢中になりながら探している私の目の前に、一匹のトンボ。
「よし、これだ!」
私は枝にとまっているトンボを捕まえると、カマキリの入ったビニール袋の中へ放り込んだ。
 
ドキドキと、期待に高まる心臓の音。
逃げないように、手でしっかりと握りしめたビニール袋。
カマキリの動きを、じっと見つめる私。
狭い袋の中で、バタバタと羽をばたつかせて逃げ回るトンボ。
トンボをジリジリと追い詰めるカマキリ。
遂にカマキリがトンボを仕留めた。その瞬間、私の興奮も絶頂になる。
 
「ヤッター! 凄い!」
夢中でカマキリの動きを見つめる私の目に、ふと不思議な光景が飛び込んできた。
カマキリに捕まりながら、小刻みに震えるトンボ。
震えるトンボのお尻の部分から、ポロポロとこぼれ落ちる白い粒。
 
一瞬、ドキンと心臓が鳴った。
これは、卵だ。トンボがビニール袋の中で卵を産んでいる。
 
小学生の私でも、トンボは水辺に卵を産むことを知っている。
トンボの幼虫のヤゴが、水の中で育つからだ。
そのトンボが、私の持つビニール袋の中で、カマキリに食べられながら卵を産んでいる。
 
どんどんどんどん、ビニール袋の隅にたまっていく白い粒。
その瞬間、トンボと目が合った。
ドキン、ドキン、ドキン、ドキン。
心臓が鳴り止まない。
見られている。トンボに見られている。
大きな青い目が、じっと私を見つめている。
持っているビニール袋が小刻みに震える。私の手が震えている。
 
怖いっ!
持っていたビニール袋を投げ捨てて、私は走り出していた。
 
私は、なんてことをしてしまったのだ!
トンボの母親を殺してしまった!
あんなビニール袋の中に、卵を産ませてしまった!
 
恐怖で身体の震えが止まらない。
心臓が鳴り止まない。
これは、何の恐怖なのか?
自分が犯してしまった罪に対する恐怖なのか?
トンボが見せた、母親の執念に対する恐怖なのか?
 
母親が殺害された出来事。
トンボの母親を殺したのは私では無い。
カマキリがトンボを食べる一部始終を目撃していた、目撃者だ。
誰も知らないこの出来事を知る、唯一の目撃者だ。
 
でも、カマキリは犯人では無い。
トンボの母親を殺害した犯人、それは私だ。
 
次々に産み落とされる、白い卵。
私をじっと見つめる、青い大きな目。
トンボのお母さんは、泣いていたのかもしれない。
卵を産み落としながら、ポロポロ涙を流していたのかもしれない。
頭の中から離れない光景。
ドキン、ドキン。
思い出す度に、震える心。
 
翌日見に行った公園に、ビニール袋は見当たらなかった。
 
犯人は、私だ。でも、最後まで見届けた訳では無かった。
私の頭に浮かぶ、新しい光景。
開いた袋の口から飛び出して、夏の空に飛んで行くトンボ。
 
頭に浮かぶその光景が、私の心からの願いが、どうか叶っていますように。

 
 
***

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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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