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神様に好かれる方法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小池恵美(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「神様に好かれる方法、教えてやろうか?」
先生はいつものニコニコした顔で言った。
 
「ゴミ見つけたら、拾うねん」
「はい」
「……」
「……え? それだけ?」
「それだけやで」
 
夢中で夢のような人生を生きる塾「夢々塾」というところに通っていたとき、何回目かに先生に教わったこと。
 
神様は、どうやら地球をよくしたがっているらしい。
それで、「これをやってくれたら、たくさんの人がしあわせになるんだよなぁ」っていうアイデアをいくつも持っていて、空の上から地上を見ているんだそうだ。
 
そのどれもがとっても素敵なアイデアだから、あの人間の子ならやってくれそうだと思うと、上からそのアイデアをぽーんと届けてくれるんだとか。
それもそこは神様だから、ひとつやふたつではないんだそうで。
100個どころですらなく、もっともっとたくさん、世界中の人を笑顔にできるアイデア、地球を綺麗に元気にするアイデア、動物を守るアイデア、病気の人が元気になるアイデア、国民をしあわせにする政策、たくさんの人を元気にする音楽、お隣さんとうまくやっていけるアイデア、目の前の人を笑顔にできる、ほんのちょっとしたこと……。
 
ただ、残念ながら、いくら投げてもすぐにやってくれる人は多くない。
神様のアイデアを受けとって、「いいこと考えた!」って思っても「う~ん、でもなぁ……」とできない理由を考え出し、大変だから、面倒だから、恥ずかしいからと、やらない人がほとんど。
 
どんなにいいアイデアも、人間がやってくれないことには役に立たない。そして、あまりにも人間がやってくれないものだから、神様はひとつのアイデアを一度にたくさんの人に投げてみることにした。
 
100人に投げたら、ひとりくらいはやってくれるんじゃないかな、と期待して。
 
電話を発明して特許を取ったのはグラハム・ベルという人なのだけれど、彼の2時間後に特許を出願した人がいたそうだ。
 
その上、ベルの一か月前に電話の特許を出願したにも関わらず、書類不備で受け付けられなかった人もいた。それがトーマス・エジソン。
 
遠くの人とも、まるでそばにいるかのように話ができる、みんなが喜ぶ「電話」という神様のアイデアは、受け取って実際にやってみた人が、どうやら少なくとも3人はいたらしい。
 
でも、アイデアは受け取ったのにやらなかった人という人は、他にきっともっとたくさんいて、電話ができてから、「あ! 俺もそんなのがあればいいと思ってた!」って言うんだ。
 
ゴミなんか、と先生は続けて言った。
 
ゴミなんか、見つける人はいっぱいいるんだよ。でも、拾わない、面倒だから。
見てすぐゴミを拾う習慣がつくってことは、思いついたことをすぐできる人になるっていうこと。
 
思いついたらすぐやる姿を上から神様が見ていて、「あいつならやってくれるかもな」って、人をしあわせにする素敵なアイデアをもっとくれ始めんねん。そしてそのアイデアもどんどん大きくなっていく。隣りの人を笑顔にするアイデアをいつもすぐやってくれるあいつなら、会社のためにでも何とかやってくれるかもしれないな、次は会社を通して日本中の人のため、もしかしたら地球のためにも……って。
 
だから、ゴミ見つけたら、それはもう拾っとけ。見つけたら負けやと思っとけ。
観光地で、家族で写真撮りたがってそうな家族とかおるやろ。あれ、「撮ってあげようかな」とか「声かけようかな」とか迷ってたらあかんで。見つけたらもう声かけんねん。
 
そうやって笑ってくれた先生が亡くなって、もうすぐ3年。
 
ゴミを見て、「拾うのめんどくさ……」と思ったら、先生が耳元で「おい、ゴミ見つけたら負けやで」と言ってくる気がして、仕方ないから拾う……なるべく。見つけても拾えないときは、その度に先生の顔がどうしてもチラつく。
 
たくさんたくさん、人生が夢みたいになる方法を教えてくれた先生の言葉は、3年経っても何かしら思い出されて、「生きる」っていうのは、生きる証を残すというのはこういうことなんだなって思う。いろいろ教えてもらったけれど、こうやって、言葉が残っていくものなんだな。
 
「お前が生きてる今日は、誰かがあんなにも生きたかった『明日』なんやで」
病院のベッドの上で目が覚めて、あぁ、今日も生きてるって思う、そんな気持ちは私にはまだ想像もできなくて、でも精一杯、今日もがんばれたと思う。ときどき、どうしようもないくだらないことに使ってしまう日もあるけれど。
 
先生ならどうしたかなぁって思って、考え方を切り替えられるときもあるし、先生に悪いなぁって、よくないことしようとしたのをやめたこともある。先生、どっかで見てるんだろうなぁ、とも思う。これじゃあもう、先生、私にとっては「神様」みたいだ。
 
ゴミを見つけたらすぐ拾うようにしたら、素敵なアイデア、先生が私にくれるかな。いや、もう、くれているかもしれない。そして、めんどくさいと思ってやっていないだけかもしれない。
 
よし、今日からまたゴミを見つけたらすぐに拾おう。
そして、先生があんなにも生きたいと願った今日を、楽しみながら泣きながら悔しがりながら笑いながら生きよう。

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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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