メディアグランプリ

〝フルスロットル〟って何ですか? ~ナマケモノに火をつけろ!~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【9月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:イリーナ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
天狼院書店は……というか、天狼院書店店主の三浦さんは、〝フルスロットル〟という言葉がとても好きなようだ。
イベントや講座名にも、「フルスロットル編集会議」とか「フルスロットル仕事術」とか。
プロジェクト名にも「東京フルスロットル」とか。
試しにフェイスブックの検索窓に〝フルスロットル〟と入力してみたら、三浦さんの〝フルスロットル〟な投稿がずらずらと現れる。
 
フルスロットルで打ち合わせして~
連続6講義のフルスロットル~
フルスロットルな週末でございます~
フルスロットルな仕事が~
フルスロットルで参りますので~
 
600字程度の文章中に、〝フルスロットル〟が5回、まさにフルスロットルで登場するのだ。
ジョークのつもりなんだろうか。
 
実のところ、〝フルスロットル〟という単語を知らなかった。
これは、三浦さんが使い始めたもので、天狼院書店の業界用語みたいなものなのか?
それとも、ずっと前から使われている言葉で、私が無知なだけなのか?
あるいは、英語圏での使われ方を、日本語でも借用しているだけなのか?
 
調べてみたら、
 
フル-スロットル【full throttle】
オートバイや車などで、絞り弁を全開にして加速すること。 出典:デジタル大辞泉(小学館)
 
などと書かれている。
私はオートバイや車には全く興味がないから、余計になんのことだかわからない。
でも、三浦さんの発する文脈から、なんとなく「エネルギー全開で事にあたる」みたいな意味なんだろうな、と理解している。きっと、エネルギー全開の、さらに全開の、もっともっとその上の……みたいなニュアンスが込められているような気がする。
 
私は、三浦さんのライティング・ゼミの講義が大好きだし、次々とユニークなコンテンツを生み出して、拡大を続ける特異な書店の創造主として、すごく尊敬しているけれど、どうにも、この〝フルスロットル〟という言葉になじめない。なじめな過ぎて、さっきから何度も〝フロスロットル〟と打ち間違えているくらいだ。「風呂スロットル」なら、心地よく浸かりたい気分なのに。
 
別に、常にフルスロットルな三浦さんを否定しているわけではない。
おそらく、私も、どちらかというとフルスロットルな人間に思われていただろう。
 
理系の大学で、川で昆虫採集をする日々を送っていたのに、世界に飛び出したくなって、突然日本語教師を目指した。
回転ずし店でアルバイトしながら、新宿・池袋・渋谷をはしごして日本語教師の養成講座を修了し、検定試験にも合格した。
新米教師時代は、ほぼ毎日徹夜で教案を考え、教材はすべて手作りした。
給料なんてほとんど手元に残らなかったけど、とにかく教えることが楽しかった。
せめて生活費くらいちゃんと稼ぎたくて、応募したのがロシアへの教師派遣プログラム。
ロシア語のアルファベットすらうろ覚えなのに、そのまま放り出されて、赴任してから懸命にロシア語を覚えた。
ロシアでの停電生活が平気になったころ東京に戻り、なんとなく欲が出てしまって、よせばいいのに大学院に入学。今思えば、人生で一番勉強したのが大学院受験だ。
院での、鬱々とした過酷な〝入院〟生活を終えたのち、再びロシアに渡り、マイナス35度の中を歩いて通勤する日々を送った。
ようやくロシアを離れたと思ったら、今度はイギリスにプチ留学。
留学しながら就職活動をし、その後、さらに転職を経て、現在に至る。
 
忙しい、というか、随分落ち着きのない半生である。
そして、その行動以上に、頭の中は常にフルスロットルだった。
 
でも、40歳を過ぎたころ、ふと気づいたのだ。
気づくと、いつもぐったりだ。
体以上に、脳みそが疲れている。
そして、気持ちまで壊れてくる。
私は、こんな生き方をしたかったんだろうか。
 
駅そばの側溝で、一列になって甲羅干ししているカメの親子。
ベランダで、朝から晩までイチャイチャしている鳩のカップル。
白壁に張り付いて、じっと虫が寄ってくるのを待っているヤモリたち。
 
私は、そんな光景を眺めて、いつも本気でうらやましく思っていた。
そうだ、私は、本当は怠け者なのだ。
あちこち動き回らずに、のんびり日の出や日没を眺める生活をしたいのだ。
動物のナマケモノのように、できる限り省エネで生きたいのだ。
それなのに、せわしない東京生活で、周囲の流れに巻き込まれて、チーターやライオンのように生きようとしていた。それが唯一の正しい生き方のように思い込んでいた。もちろん、それが合っている人もいるだろうけど、私は本来そんなタイプじゃないのだ。
 
だから、一年くらい前から〝フルスロットル〟はやめた。
残業なんて、お断り。
遅刻しそうになっても、走らない。
疲れているときは休むし、眠くなったら仕事は残して帰る。
明日でも問題ないなら、明日すればいいことだ。
だいたい、毎朝起きて、シャワーを浴びて、食べて、着替えることだって、実に面倒だ。
来世はナマケモノに生まれ変わりたいと本気で思う。
 
ところが、最近になって、またおかしなことになっている。
毎日、会社で8時間も働いて、随分なエネルギーを使っているのに。
それに、めちゃくちゃ眠いのに。
私は今、パソコンに向かっている。
しかも、わざわざお金を払って、エナジードリンクを片手に、フルスロットルで記事を書いているのだ。
 
ちょっとした趣味の延長で始めたライティング・ゼミだった。
ところが、WEB天狼院書店に掲載されると、「編集部セレクト」に選ばれたくなり、
選ばれると、メディアグランプリにランクインしたくなった。
ランキングに入ると、今度はトップをとりたくなった。
そして、さらにその上の「プロフェッショナル・ゼミ」を受講したくなり、今は、本気でプロのライターになろうか、そのために「ライターズ倶楽部」なるものの入試に挑戦してみようか、などと考え出す始末である。
 
もう、これからは無駄に動きたくない。
ましてや、中身のない頭をわざわざ酷使したくない。
そう考えていたのに。
毎日を平穏に、受験とか競争とかチャレンジとか、そういうのとは無縁に生きたい。
そう、考えていたのに。
 
また、欲が出てしまったのだ。
 
ナマケモノと人間の大きな違いは、きっと欲深さだ。
人間の欲望は際限がない。
いったん火が付くと、どんなに疲れていても、どんなに困難が待ち受けていても、燃え尽きるまでは、止められなくなる。
ライティング・ゼミは私の欲望に火をつけてしまったのだ。
そして、それこそが、天狼院書店の、三浦店主の、罠に違いない。
私は、彼の策略に、見事なまでにハマってしまったのだ。
ハマってしまったら最後、行き着くところまで、フルスロットルで走るしかない。
 
人生の後半は、むしろ〝フルスロットル〟で休みたかった。
受講したことをちょっぴり後悔しながら、今夜も、課題の締め切り時間ギリギリまで、頭をフル回転させているナマケモノなのだった。

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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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