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メディアグランプリ

流行り病のように美しく


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【9月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:芝桜文鳥(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「……まじで?! ホントに?! 正気なの?!」
びっくりして取り乱してしまった。わたくしとしたことが。
 
ある宿直明けの朝だった。
私が勤めている業界は年中無休の為、宿直ありの不定休が大前提だ。
世の中はお盆休みの真っ最中。私たちの仕事は繁忙期真っただ中。職場は程よく汗がひく程度に空調が効いている。が、一歩外に出れば、35度超えの狂ったような暑さが待っている。
職場の最寄り駅まで5分もかからないといっても、ちょっとひと休み入れてから帰宅したい。職場の共同冷蔵庫に冷えた麦茶があったはず……休憩室に立ち寄った時だった。
同じ職場のAくんが大きな背中を小さく子猫のように丸めて、ハンカチのようなもので汗をぬぐいながら積み上げた書類の山から何か一枚取り出した。何か始めようとしているようだ。Aくんは職場で一・二を争う暑がりさんだ。
「何かあったっけ? 明けでしょ? 早く帰った方がいいんじゃないの?」
「いやぁ、ためこんじゃってさ……」
Aくんの前には、なにか書き込みのシートのようなものが積んであった。そのうちの一枚を一心不乱に書き埋めていく。
「これ、ためちゃったからさ。
うち、去年クーラー撤去しちゃったからさ、うち帰ってもつらいんだわ……」
うっかり水をやり忘れた朝顔のような、しんどそうな気配。
このくそ暑いのに、クーラー撤去しちゃったって?
この暑がりさん、バターみたいに溶けちゃうんじゃないかしら……
「赤ペン先生も待ってるしさ」
赤ペン先生は誰なのかと訊いた。達筆な若い男性社員だった。『美文字トレーニング』をマンツーマンでしているらしい。
「俺は強制参加だけどさ。職場の有志でやってるから、興味あればきいてみれば」
そういってAくんは美文字トレーニンググループについてざっと教えてくれた。
仕事で提出を義務付けされている手書きの報告文書があるのだが、Aくんの字が極めて読みにくいからということで、直しましょうということになったらしい。
ふーん……
そういえば最近の職場の休憩時間に、業界用語が並んだ書き方シートみたいなやつを書き埋めてる子よく見るようになったな。ペン習字が流行ってるなと思ってたけど、そういうことだったのか。
発案した若い女性社員さんBさんに聞いてみた。
Aくんは業務改善グループで速報のフォーマットを改善することにしたらしいのだが、発案した当の本人の字が読みにくいということで、まずは本人から改善を! ということになったらしい。
読みにくい字に限らず、Aくん結構突っ込まれどころ満載だしな。発案して返り討ちにあって、それを受け入れるところがいいやつ。
グループ皆に愛されてんじゃん。
Aくんのために始まった美文字トレーニングだが、自由参加だそうだ。何気に職場の参加あ率は5割を超えつつあるらしい。面白そうなので、私も一枚のってみることにした。
 
思えば、書き文字に厳しいひとが私の周囲にもいる。
私の父だ。
父は「文字というものは、他人に読んでいただく伝えるためのものなのだから、読みやすく書くのが当たり前」という方針だった。父の字は、ペン習字のお手本のように整った字だ。その娘の私の字……美しく書こうと努力はするのだが、かなり精神状態に振り回されたような乱れ具合が表れているような字である。同じ人間が書いたとは思えない天と地ほどの差があるらしい。急ぎの書類を提出した際、「どうしちゃったの?!」という言葉を食らったことがあるので、きっとたいがいひどいのだろう。
 
逆に、目を疑うほどの悪筆を誇りにしていたひともいた。
学生時代の私の先輩だ。黒糸が絡まったような塊が並んでいるノートだった。
「俺の研究ノートはな、パソコンのロックより優秀なんだ。なんてったって、この俺しか読めないんだからな!」
そういってガハハハッと笑いながら飲み干されていくビールはとても美味しそうだった。この先輩の専攻は、確か植物の遺伝子系だったはずなので、研究職に進んだ彼の悪筆はきっと今も役に立っているのだろう。
 
Aくんの為からはじまった職場の美文字トレーニングだが、流行りもの廃りものとして終わるかと思いきや、意外なところで実を結びつつある。
今まで走り書きの暗号のようだった職場のホワイトボードの書き文字が、読みやすくなりつつあるのだ。読んでもらうことをきちんと考えて書くというのはこういうことなのか……と成長を感じてちょっと胸が熱くなった。
ちなみにAくんの字は相変わらずの読みづらさである。周囲は流れに乗るかのように変わっていくのに、彼は不動の存在だ。
Aくんを通して変わっていく職場の雰囲気。
きっとこれもAくんのひとつの才能なのだろう。

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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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