「カメラを止めるな」は、アレだ(ネタバレ無し)
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記事:岸本高由(ライティング・ゼミ平日コース)
ひと月くらい前から、FacebookやTwitterのタイムラインに、映画「カメラを止めるな」を観た、というポストが大量に流れてくるようになった。
敬愛する俳優のTさんが、その映画のロゴの入ったTシャツを着て、パンフレットを手に握りしめて、「嫉妬と感動で泣いている」写真をアップしていたのもその頃だった。2回観に行って満員で入れず、3度めの正直でやっと観れた、と言ってた。そんなに!? 自主映画が、映画館を満員にして入れないだって?? そんなバカな!
Tさんとは、かつて、ある映画のスタッフ同士として出会った。彼は録音部の助手で、ぼくは助監督の一番下っ端だった。自主映画スタイルで制作する現場で、3ヶ月くらいは一緒にいたように思う。ぼくは自主映画を撮っていた学生で、彼は役者志望で地方から上京してきたばかりの頃だった。その頃からずっと変わらず現場を愛し、スタッフに対するリスペクトを強く持っていたひとだったのをよく知っている。だから、そんな彼がベタ褒めするという映画はよっぽどのことだ。言葉に重みがある。
だから、これは絶対に観ないといけない映画に違いない、と思って、以来ずっと機会が作れなかったのだが、先週やっと観れた。
渋谷駅から10分以上歩いて、汗だくになりながら上映時間ギリギリにたどり着いたミニシアターは、狭いロビーに観客が溢れていた。列に並ぶ客を撮っている取材のビデオカメラまでいる。予想はしていたが、ここまでとはと、素直に驚く。
一人だったから、うまく隙間の席が空いていたのだが、オンラインで席を確保したときは最後の数席のうちのひとつだった。席について振り返ると、文字通り満席。ひとつも空きがない。満席の映画館で映画を見ることなんて、いつ以来だろう? 思い出せない。
映画が始まった。内容は敢えて一切書かないが、とにかく場内が一体となって、驚き、笑い、笑い泣き、そして全員が笑顔になって、終わった。拍手こそ、その時は出なかったが、みんな心の中で拍手していたと思う。そんな心の拍手の音が聞こえてきそうな感じだった。
場内が明るくなってロビーに出る時、次の回を待つ客が平静な顔で並んでいる前を、ニヤニヤした人々が満足そうに通り過ぎていく。その交差する2つの表情のテンションのギャップが、この映画のパワーを象徴している。いま一緒に観た客同士が、「面白かったねー」と語り合っている。あちらでも、こちらでも。冷めやらぬ興奮が、街の体温を少し上げるような感じがするぐらい。集団の、熱がすごい。
これは、パブリックビューイングだ。
サッカーのワールドカップの試合を生中継しているのを、スタジアムに集まって一緒に見たり、アーティストのライブを地方会場で遠隔中継映像で一緒に見たりするアレだ。ただし、今回は生中継ではなく、映画。全然ライブじゃないんだけど。
でも、リアルタイムの生ライブではないのに、なぜこの映画はパブリックビューイングのような気持ちにさせるのだろう?
そもそも、パブリックビューイングが楽しいのは、画面の向こう側の、今まさにやってる「生」のリアルを、その瞬間を現地にいる人たち(選手とかアーティストとか、現地の観客とか)と、共有する一体感を得られるからだ。家でテレビで一人で見ているのと違って、周りに同じように観ている客がいるので、画面はテレビと同じでも、そこにいる客との間に生まれる一体感はリアルと感じられるから、そのリアル感が画面の向こう側とのつながりを強くするわけだ。どうやらこの映画は、この一体感を作り出しているのだ。
画面の向うはリアルタイムの今ではない、けれども、たぶんぼくらはそこに、時空を超えたリアルを感じてしまっているのだ。だから、そのリアルを画面越しの観客がパブリックビューイングすることができている。
SNSやYouTubeが日常のものになってから、僕らは「リアルタイム」を時間を超えて共有することができるようになったのだと思う。SNSでタイムラインに流れている「今」は、実はみている人々のスマホ画面ごとに、微妙に異なっている。「渋谷なう」は、全然NOWではなく、さっきかもしれないし、昨日かもしれない。でもこの、タイムラインという実時間とは微妙にずれた時空の流れが、今を生きるぼくたちの新しいリアルタイムになってしまったんだと思う。時空はすでに歪んでいるのだ。
細かくは触れないが、映画に描かれている内容が限りなく生に近い「リアル」であることと、このSNS時代の新しいリアルタイム感が、「カメラを止めるな」をパブリックビューイング体験にしているんだと思う。
ぼくは、ひと月ずれているのに、Tさんと一緒にライブでこの映画を共有したのだ。
だから、今からでも遅くはない、まだ観ていないという方は、配信を待たずに映画館でぜひ。すでに観た誰かと、そのとき一緒に映画館にいる誰かと、全部いっしょにパブリックビューイングしてほしいのだ。
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