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晩御飯食べましたか


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記事:芦野 すみれ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「晩御飯食べましたか」
毎日届くLINEのメッセージは、離れて暮らす父からだ。父と母が別居してもうすぐ2年が経つ。その間、1番目の姉の子どもであり、わたしの甥っ子と姪っ子は成長し、2番目の姉は結婚した。3人姉妹の末っ子であるわたしは、いま母と2人で暮らしている。
わたしたち5人家族は、いま住む場所がばらばらであり、唯一のつながりがLINEのグループだ。
 
父は仕事が終わると毎晩「晩御飯食べましたか」というメッセージをグループラインに送りつける。今日は父も仕事があったので、18時18分にこのメッセージが来たが、昨日は日曜日だったのでメッセージが来たのは17時14分だった。さすがにこの時点で晩御飯食べているのは、早すぎるだろう。
父はそういうことを考えないひとだ。そして、わたしたちは毎日届く同じメッセージに、4日に1回ほど誰かが反応する。結婚して料理を頑張る姉は写真付きで、時おり今日の晩御飯をおくってくる。たまに、甥っ子や姪っ子の動画がグループラインに投稿される。
わたしたちは、LINEをとおして細くゆるくつながっている。
 
母が父と別居することを決め、今まで住んだことのない東京に出てくるときいてすぐ、わたしは「帰る家がなくなった」と直感した。
それは間違っていなくて、わたしには15年前に建てたマイホームの一軒家があるけれど、もう10年も空き家で、わたしにとってはもうわが家ではなく、ただの空っぽの家だった。そこにはわずか5年しか住んでいないのだ。そして今後も住む予定はないようだ。
空気の読めない父と、自由勝手な母はいったい同じ屋根の下で暮らすことができるのだろうか。
 
わたしたち家族は、みんなバラバラでまとまりがなく、家族としての結びつきを深めることが難しかった。それでも、ある時期には5人で一緒に暮らしていた。毎日母の料理を食べ、時には同じ漫画をみて盛り上がり、クリスマスや誕生日には家族で盛大に祝った。その瞬間ごとの楽しい記憶は今も残っている。
 
いま、わたしたちは母の料理という家族のアイデンティティをなくし、次のステップにいこうとしている。
母に頼りきって生きていた父は、自分で米を炊くようになった。毎日何を食べるのかが彼の生きるうえでの関心ごとだとおもう。
一番上の姉は、3歳と1歳の子どもたちにご飯を食べさせなければいけない。背が高くからだが大きい2人の子どもたちをみると、子育てに悩みながらも頑張って生活しているのだとおもう。
二番目の姉は、共働きの夫婦だが、仕事をして夜遅くなっても姉が台所にたつ。てきぱきと料理する姉は、どことなく母に似ている。
母は、いまはわたしと晩御飯をたべているが、わたしがいないときは手抜きになる。作る相手がいないとやる気がおきないらしく、晩御飯がカップラーメンとかっぱえびせんになる時もある。
そして、わたしはいま、結婚したい人がいて、「胃袋をつかめ」とさんざん母に言われる。でも実際のところ、わたしはインスタントラーメンをつくるときの湯を沸かすときさえ、彼がとなりにいないと気に食わない。
その根底には自分一人で料理するのはつまらないという感情と、女だから料理しなければいけないのかという強い反発心がある。
だからケースバイケースで、彼にも料理を作ってもらうときはある。
 
わたしの子どもの時、父は家でまったく料理をしなかった。
母が仕事で夜勤のとき、高校生のわたしが父の晩御飯の面倒をみなければいけなかった。
なぜ父はやらないのか理解できなかった。女だからわたしがするのかといら立った。
 
家族というのも、父親と母親という役割も、正解はないとおもう。
それでも、わたしが生まれてから口にしてきた母の料理には、家族というつながりをつなぎとめる役割があった。
いま、それぞれがばらばらになり自分たちの人生を歩くなかで、何を口にするかは各自の自由になった。
 
父の「晩御飯食べましたか」というメッセージは、純粋に家族を気にかけているというより、母の料理への未練がましさの父なりの表現ではないかとおもう。
もし、父が母とやりなおしたいなら、今度は父が母のために不味くてもいいから料理をつくればいい。
誰かのために作る料理は、その想いも口にする。
言葉にできないことは、料理であらわす。
わたしも、女だから料理しなければいけないという意見に過剰に反応するのではなく、
シンプルに自分の想いを料理にのせて相手に届けたいと考えよう。
 
グループラインでの1年以上毎日繰り返される「晩御飯食べましたか」、このやり取りは永遠には続かないだろう。
家族生活をおえ、ばらばらに暮らしているからこそ、気づくこともあるし、言えることもある。
いまLINEでつながるわたしたち家族が今後どうなっていくのかは、わたしにはわからない。でも、わたしは家族にふりまわされるのではなく、わたしの人生をいけばいい。それは、作りたい人に料理を届けて、自分の家族がそうであったように誕生日やクリスマスは盛大に祝い、お互いが気にかけあう。そういう家族を作る未来をわくわくしながら待っている。
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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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