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追い込まれ症候群


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:さわみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
あ~っ! また、やってしまった……
課題提出の締切りは、明日。
残り24時間を切ってしまった。
子どもの頃からの悪い癖。
どうして私は、いつもギリギリにならないと課題に取りかかることができないのだろう。
 
「それは『追い込まれないとやる気が出ない症候群』ですね」
へっ?
頭の上から降ってきた言葉に顔を上げる。
目の前に「いかにもっぽい」ドクターが座っている。
えっ? ここ、どこ?
「追い込まれないとやる気が出ない症候群……ですか?」
ドクターが言った言葉を繰り返してみる。
「そう。略して『追い込まれ症候群』。最近では『OYD症候群』とも言われています」
はあ。なんだ、それ?
「あの~。『追い込まれ症候群』という名前を初めて聞いたのですが、それは何でしょうか? もしかして、病気か何かの名称ですか?」
何が何だかよくわからないまま、目の前のドクターに尋ねてみた。
 
「まあ、とりあえずこのチェックシートに記入してみて下さい。正直にチェックして下さいね」
そう言って、ドクターが質問項目の書かれた用紙を私に手渡した。
私は、訳のわからないまま、手渡された用紙に目を向ける。
 
『OYD症候群診断用紙』と書かれたそのチェックシートには、質問項目が9つ。
 
1.課題は、毎回締切りギリギリにならないと手をつけない
2.課題の締切り前や試験前に限って、関係ないことをやり始める
3.毎回「もっと早くやれば良かった」と反省するが、まったく次に活かせない
4.追い込まれた方が、本領を発揮できると思っている
5.追い込まれてやり切った開放感が、たまらなく好き
6.追い込まれると、課題をやり切ることよりも、やらずに済む方法ばかり考えてしまう
7.提出しなくても良いような事態が起こるのではないか? という奇跡を信じ始める
8.「やっぱり自分には無理」と、諦める理由を考え始める
9.現実から逃避し、よくわからない妄想の世界に逃げ込む
 
う~ん、これは……
まるで私のことを知っているかのような、質問項目。
まずい、全部当てはまってしまう。
よし。適当に何個かはずしておこう。
 
何となく全部チェックが付くのは良くない気がして、誤魔化して答えておく。
まあ、よくある世渡り方法の一つかな。
 
「先生、できました」
チェックを入れ終わった用紙を手渡した瞬間、目の前のドクターが意味ありげに微笑みながら言った。
「正直に答えて下さいと、お伝えしましたよね」
ドキリ。いや、大丈夫。ばれるはずがない。
 
「ちゃんと正直に書きましたけど、どこかおかしいところがありましたか?」
ドキドキする気持ちを見透かされないように、落ち着いて答える。
「嘘は、いけませんよ。誤魔化したところで、何も解決しませんからね」
カーッ。身体が熱くなり、顔も耳も赤くなっていくのが自分でもわかった。
 
「すみません。ちょっとわからないところがあったので、飛ばしてしまいました」
我ながら苦しい言い訳。
「まあ、いいでしょう。どんなことでも、まず自分と向き合うことが大切ですからね」
う~。耳が痛い……
「えっと、それで診断結果の方は……?」
気まずさを誤魔化しながら尋ねると、ドクターは私の目を見つめて言った。
「正直に申し上げます。予想していた以上の重症です。非常に申し上げにくいのですが、私一人ではどうしようもありません」
 
えっ? いきなりさじを投げられた?
そんなに重症なの? それとも適当に誤魔化したのがばれたから?
どうしよう……私は、どうすれば?
 
「治すには、ご自身の固い決意と意思が必要です。あなたには、それがありますか?」
言葉を続けるドクター。
「大丈夫です! 固い決意と意思で頑張ります!」
とりあえずそう宣言する私の目を、ドクターがじっと見つめている。
さっき誤魔化してしまった気まずさと、心の中を見透かされているような重圧に耐えきれなくなった私は、フッと自分の目を逸らして下を向いてしまった。
 
次の瞬間、フ~ッという大きな溜息が聞こえてきた。
恐る恐るそっと見上げると、ドクターはどこかへ消えていなくなってしまっていた。
 
どうしよう……
私はどうなってしまうのだろう。
あの時、嘘を付かずにちゃんと全部、チェックを付けておけば良かった。
 
ぼんやりと、ドクターから言われた『追い込まれないとやる気が出ない症候群』のことを考える。
「治すには、固い決意と意思……」
子どもの頃からずっとできなかったことが、今更ちゃんとできるのだろうか。
でも、なんとかしないといけないのかもしれない。
今からでも、間に合うかな。
私は、下を向いていた顔をそっと上げてみた。
 
目の前には、締切りが間近に迫った、ほとんど手つかずの課題が一つ。
あっ、そうだった。私は課題をやっていたのだった。
 
もうどうせ、今からやっても間に合わない。
もしかしたら、提出期限は来週だったかも?
まあ、1回ぐらい出さなくてもいいかな。
私には、最初から無理だったんだ。
 
現実に戻った私の頭の中には、逃げる口実が次から次へとわき出てくる。
 
あっ、そうか! これが『追い込まれ症候群』か。
私の頭の中に、チェックシートの項目が蘇る。
 
フフフフ。でも、きっと大丈夫。
なぜなら、私はこの恐るべし症候群を治す方法を知っているのだ。
よし! さっさとこの課題をやり遂げて、次回こそは「自らの固い決意と意思」で、早めに課題に取り組もう。
これからが本領発揮だ!
きっと、この追い詰められている課題をやり終えた後には、素晴らしい開放感が待っているはず!

 
 
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2018-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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