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スカーレット・オハラは失恋に効く


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:斎藤多紀(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「僕、最低三人は子供が欲しいんです」
と彼が言った時点で、私の失恋が確定した。彼とは、私がよく行くバーのバーテンダーで、密かに想いを寄せていた相手だ。なぜ失恋が確定したかというと、私はもう四十八歳で、子供を三人など産めるはずはないからだ。
 そのバーには、バーテンダーが四人いるが、私の相手をしてくれるのはいつも彼だった。私と彼は、いろいろな話をした。彼は、将来は独立して自分の店を持ちたいという夢を熱く語ってくれたりしたし、私も仕事の夢はもちろん、グチや不満までいろいろと聞いてもらった。結構プライベートに踏み込んだ話もし、敬語ではなくタメ口で話すようにもなった。彼の年齢は三十九歳で、私より九歳も年下だったが、あまり年の差は感じなかった。というのも、彼の仕事に対するストイックなところや、真面目な性格と落ち着きのある態度に、私は励まされもしたし、癒されてもいたからだ。
 連絡先の交換をして、これからもっと親しくなれるかなと思った矢先、冒頭の言葉を彼に言われた。何でも彼は、自分が一人っ子で結構さみしい想いをしたため、子だくさんの家庭にずっと憧れを持っていたのだそうだ。また、自分の子孫を残したいという本能的欲求もとても強いのだという。だから、何が何でも結婚したいのだそうだ。
 彼は私の年齢を知らない。聞かれたこともないし、敢えて言いたくなかったのだ。彼が私をいくつだと思っているのか不明だが、冒頭の言葉の後に彼は、
「結婚願望とかあるの? 子供は好き?」
と聞いてきた。私は
「結婚するより、仕事に熱中したいかな……」
と答えた。結婚はしたいけど、子供は無理と正直に伝えることはできなかった。
「そうなんだ……」
と言った彼が、ほんの少しだけさみしそうに見えたのは、私の奢った見方だろうか。
 恋など何も始まっていなかったのだ。単なる客とバーテンダーという関係を逸脱していたわけではない。ただ、私の中でちょっとずつふくらんでいた恋心に、ブレーキをかけなくてはいけなくなったというだけの話だ。
 しかし、それ以来何となく彼と会うのが気まずいというかつらくなり、私は彼が休みの日を選んでバーへ行くようになった。他のバーテンダーさんと話すのも楽しかったが、やっぱり彼と話すのがいちばん楽しかったなと、しばらくうじうじしていた。ある日、
「すっきりした味わいのショートカクテルを」
と注文したら、
「スカーレット・オハラでございます」
と、真っ赤なカクテルを出された。スカーレット・オハラと言えば、映画『風とともに去りぬ』の主人公で、南北戦争の最中、多くの恋と別離と出産を経験し、運命に翻弄されながらも力強く生きた女性だ。カクテルを一口飲んだら、ちょっと辛口ですっと背筋が伸びるような味わいだった。まるで、後ろを振り向くな、前を向いて歩めと言われているような気がした。絶望の中で何度も立ち上がってきたスカーレットのように、カクテルを飲み干したら力がわいてきた。これを作ってくれたバーテンダーは、私を励まそうなどという意図はなかったはずだ。けれど、こういうカクテルが似合う強い女性像をイメージしてくれたことが、ただただうれしかった。そして、もううじうじするのはやめて、失恋から立ち直ろうと思ったのだ。
 
 しばらくして、彼が結婚したと聞いた。しかも、デキ婚だという。それも双子なのだそうだ。彼は自分の夢を叶えたのだ。
 今度は私が夢を叶える番だ。私の夢は、いつか自分の名前で本を出版し、それが売れに売れること。今現在占いライターをやっているので、占い関連の本でもいいし、官能小説の講座に通っていたこともあるので小説でもいい。とにかく、自分の魂を削って自分の分身とも言えるような作品をこの世に残したい。彼が自分の子供を作り、生きた証を残したいと願ったように、私も本を作るのだ。その夢が叶ったら、彼の作ったカクテルで祝杯をあげたい。きっとその頃には、お互いにもっと歳をとっていて、何のわだかまりもなくお互いの幸せを祝福できるだろう。
 私と彼は、目標は違っていたけれど同志的な感情で結ばれていたのではないかと思う。自分が生きた証を残したいという切実な感情を、お互いに持っていたのは間違いがないのだから。あと五年早く出会っていたら、彼の子供を産むことができただろうかと、当時はつい想像してしまうこともあった。けれど今は、お互いに別々の夢を追いかける方向にいってよかったのだと思う。私は子供よりも本を作りたい。それは本当だ。その気持ちに、気づかせてくれたのは、他でもない彼なのだ。夢を叶えるのは彼のほうが早かった。それはちょっと悔しいけれど、夢への第一歩として、私はこのライティングコースを受講することにしたのだ。

 
 
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2018-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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