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病室から見た空の青は、謎のルールを崩した


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記事:Hanao(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「先生、もう私、家に帰る自信がありません。このまま入院させてください」
 
私は、自己申告で生涯初めての入院をすることになった。
 
頭痛は前日の朝からだった。いつもの片頭痛かと思って出社はしたものの、昼になって痛みがひどくなり、早退した。自宅で休んでみたものの、まったく痛みはおさまらない。それどころか夜には頭をハンマーで殴られているような強烈な頭痛におそわれた。
 
私は、深夜にお医者さんが自宅に来てくれるというサービスに電話をかけた。1時間ぐらいして、若いお医者さんが来た。これが1人目の先生。両腕を上げるとか、立って片足を上げるとか、平衡感覚の検査をされた。でも、結局検査をしないとわからないと言って紹介状を書かれ、救急病院に行くように指示された。今度は自宅近くの脳神経外科にタクシーで向かう。ここでCTを撮ったのが2人目の先生。脳梗塞でもなく脳出血でもなかった。結局ここでも原因は特定されず、自宅に帰された。
 
翌朝になっても頭痛はよくなるどころかますますひどくなるばかりで、朝イチで近所の内科へ行った。もう立っていることもままならず、横になって診察を待った。
3人目の先生はいろいろ話を聞いてくれたけど、結局何もわからず、昨日深夜に行った救急病院へもう一度行くことになった。私は、なんとか昨日からの経緯を話した。これが4人目の先生。もうなんとかしてくれ、なんて思うこともできないほど弱っていた。声を出すのもやっとだった。
 
診察の中で、先生が首の後ろを触った。
 
「(首の後ろが)硬くなっているね。髄膜炎かもしれない。すぐ検査だね」
 
病名を聞いたときにすこし救われたような気持ちになった。
同時に私は冒頭の言葉を言った。
 
検査結果は、先生の疑い通り髄膜炎だった。
 
髄膜炎は免疫力が落ちたとき、菌が頭の高い壁を乗り越えて侵入するという病気だ。免疫機能が正常で健康なときにはかからない。私の身体は菌に壁を乗り越えさせるほど弱っていた。
 
 
その年は、春ぐらいから大きなプロジェクトを2つほど担当していた。どちらのプロジェクトも初めて経験することばかりで、戸惑うことも多かった。ミスをしてはいけないというプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。それでもなんとかやり遂げて2つ目のプロジェクトの終わりが見えてきた時、病気になった。
 
 
11月の半ばに入院して2週間。
ひたすら安静と点滴の日々。
 
スマホもすぐに低速モードになり、テレビにも飽きる。
すると、病室の窓から空ばかり見るようになった。
 
冬の空は信じられないほど青い。
毎日すこしずつ違う雲の動きと空の色は何時間見ていても飽きなかった。
 
「青いなぁ……。明日はどんな色だろう」
 
私は、病気になるまで、空の青さなんて気にもしていなかった。
毎朝天気予報を見て「雨になると嫌だなぁ」程度。日々の生活の中で空を見上げることなんてしていなかった。そして、空の色を気にしないのと同じぐらい、自分の身体の声も気にせずにいた。
 
難易度の高い仕事を与えられたとき、私は苦しくても誰かに助けを求めることはしてこなかった。1人で頑張ることがカッコいいと思っていたし、助けを求めることは恥ずかしいことだとも思っていた。1人でやれてしまうことが自分の価値や強さだと思っていた。だから、「このプロジェクトも1人で完遂しないと!」そんなことばかり考えていた。
今思えば、そんな自分の性格と仕事のやり方が自分の身体に無理をさせていたのだと思う。身体は疲れきっていたのに仕事をして、疲れも取れないまま休みの日には遊びに出かけていた。
 
あの時私は、お天気雨に降られた時のようだったと思う。
 
晴れている天気にばかり目を向けて、雨が降って身体が濡れていることに気が付かないフリをしていた。何度もなんどもお天気雨が降っていたのに、明るい太陽の光と虹だけに目を向けていた。本当は傘をささないといけなかったのに。濡れてしまった身体を拭かないといけなかったのに。そうやって私の身体は取り返しがつかないほど冷えきってしまった。
病気になって仕事どころか自分の身のまわりのこともできなくなって、いよいよ人を頼るしかなくなってしまったとき、これまで私がかたくなに守ってきた「1人で頑張る」という謎のルールはあっさりと崩れた。
 
何もできなくなっても、私を責める人は誰もいなかったし、それまでと同じように接してくれた。電車にも乗れないぐらい弱ってしまっていた私を、お医者さんや看護師さん、会社の人たちは全力でサポートしてくれた。復職後は、それまであまり話をしたことのなかった人も含めて、信じられないぐらいたくさんの人に声をかけてもらった。
 
苦しいときには助けを求めてもいいんだ。
それはカッコ悪いことでも弱いことでもないし、その人の価値が下がることにもならない。心身ともに自分を苦しめないということは、自分を大切に扱うことだし、最終的には周りの人も大切にすることにつながっているのだ。
 
 
――そんな私が今、できることはなんだろう?
 
それは、病室の窓から見た空の青を忘れずにいることだ。
そして、1人ではなく、みんなと一緒に頑張っていくということだ。
助けてくれた人たちへ、心からの感謝をこめて。

 
 
***

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2018-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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