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この夏、新しい親戚ができました


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:井上かほる(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「全然違うじゃん」
8月20日、おばあちゃんの実家にたどり着いたときの印象だった。
おばあちゃんというのは母のお母さん。
亡くなって7年。
母マリコ、母の姉トクちゃんと妹マサちゃん、ついでに「古民家カフェみたいだから行かない?」と誘われた私が入り、4人で行くことになったのだった。
 
母の実家は苫小牧市植苗。そこそこの田舎であるその場所から、おばあちゃんの実家までは車で約40分。
苫小牧の観光スポットになっている「道の駅ウトナイ」で集合し、車1台で向かう。
 
 
私は、子どもの頃から親戚づきあいが苦手だった。
お正月には父の妹家族が私の家に来る。子どもたちの中で1番年上だったわたしは、「お姉ちゃんなんだから、遊んであげてね」と言われて来た。最初のうちは、まずはこれで遊んで、その次はこれで……と準備万端に計画し、当日もそう努めていた。しかし、中学に入り、「なんで自分がもてなさないといけないんだ。せっかく部活が休みなのに」という思いと、決まって泥酔する父が恥ずかしくて、お正月も親戚もめんどくさくて大嫌いなものになっていた。
母の姉妹であるトクちゃんやマサちゃんに対しては嫌な思いはしていないが、「親戚の家=めんどくさい」という思いが拭えず、いつも母や妹ばかりと話し、どう振る舞っていいかわからなかった。
 
 
「あの柱、まだあるかなぁ?」
「仏壇部屋の欄間、怖かったよね! ヘビみたいでさ」
「そうそう、あの部屋で寝るの、ほんとに怖かった!」
いつのまにか、車内は女子会のように盛り上がっていた。
 
まっすぐな道をぐんぐん進む。
緑が広がり、景色が変わる。
目的地に近づけば近づくほど、母たちは子どもの頃にタイムスリップしていくようだった。
 
途中迷ったものの、なんとかそれらしき家にたどり着いた。
家の前、タイヤが砂利道に入る。
老夫婦が出てきた。
 
「あ! ジンちゃんだ!」
「え! ほんと?」
「じゃあ、合ってるのね、ここで!」
 
……全然、古民家カフェなんかじゃなかった。
「古い家」という点では古民家なのだが、イメージしていたのとは全然違う。
ふつうの、古い家だった。
「思ってたのと、違ったね」
母が申し訳なさそうに言う。
 
「よーく来たねぇ!」
おばあちゃんのお兄さんの息子、母たちからすると従兄弟のジンちゃんが笑顔で迎えてくれた。
おばあちゃんは末っ子でジンちゃんは長男の子どもだったから、母たちより20も年上だ。
「お久しぶりです。トクコです」
トクちゃんがわたしたちを紹介する。
「まぁ、上がって休んでって」
母たちも懐かしい家を楽しみにしていたので少しがっかりしていたが、言われるがまま家に入る。
 
「あれ? この柱って……」
マサちゃんが言う。
「そう。昔からある柱だよ。間取りは変えてないんだわ」
 
外見は変わっていたが、中身は変わっていない。母たちが子どもだった、当時のままだという。
「じゃあこっちが……あった! 欄間! これが怖かったの、お母さんたち。ふふふ」
母が興奮して言う。
「こっちの部屋も……わ! 変わってない!」
3人とも、わたしやジンちゃん夫婦を置いてけぼりにして部屋をのぞく。
 
「懐かしい? まぁ、お茶でも飲んで」
ジンちゃんの奥さん、ヨウコさんが落ち着かせてくれた。
 
「ずっと来たいと思ってたんですよ」
トクちゃんがわたしたちが今日来た理由を説明する。
3人とも、おばあちゃんが亡くなる前から「ここに来たい」と思っていた。
「なあに、そんなの。いつだって来たらいいのに。ねぇ?」
ヨウコさんが急に私に振る。
「ですよねぇ!」
母たちの子どものように興奮する姿が嬉しくなった私が、笑顔で応える。
 
「あんたたちのお母さん、カネちゃんはね」
話好きのヨウコさんが、母たちに見せなかったおばあちゃんの姿を教えてくれる。
姑さんが厳しかった、旦那も厳しかった。私が知っているおばあちゃんからは想像できない、苦労していたおばあちゃんの姿がうっすらと見える。
 
私はもちろん、母たちも知らない祖母の話。それを聞く母たちの、見たことのない表情。おばあちゃんが若い頃というと、もう70年くらい前のことになるが、昔の話を聞いているようには思えず、もっと知りたい気持ちになっていた。
 
「ほら、これ」
大きなアルバムが出てきた。
たくさんの写真やジンちゃんの経営する会社の軌跡、土地の権利書、そして家系図があった。
この家に関わってきた人たちの記録がきれいに残されていた。
母たちの子どもの頃の写真、おばあちゃんの若い頃の写真もある。
家系図には、母たちの名前とそれぞれの旦那の名前。
でも、そこでストップしていた。
私を含め母たちの子ども、私の従兄弟たちの名前はなかった。
 
「書いていっていいですか?」
この家系図に載りたい。そう思って口に出た。
 
私の名前、妹の名前、従兄弟たちの名前を書いていく。
「どうもありがとう。あとでパソコンで作っておくわ!」
ヨウコさんが「わたしが作ったのよー。ふふふ」と自慢げに言う。
「せっかくだから」と今度はジンちゃんが、私が書き込まんだばかりの家系図をコピーしてくれた。
 
西日が強くなってきた夕方。
「じゃあ、そろそろ」と言って腰を上げ、車に乗り込む。
サイドミラー越しに見える2人は、古い家を背にし、いつまでも手を振っている。
 
「また、おいでね」
わたしとマサちゃんだけ、ヨウコさんが泣いていることに気づいていた。
 
遠のく2人。
どこまでも続く広い畑と、山々の緑に囲まれた、厚真町。
 
この2週間後、震度7の地震が起きた。
 
 
やさしい顔をした2人と、畑一面の濃い緑、空のオレンジ色が忘れられない。
 
「写真、撮ればよかったね」
帰り道、母に言った。
 
2人は無事だったが、避難所生活をしているという。
あの古い家はどうなっているだろうか。
見に行くことは、まだできない。
 
 
今年の夏、わたしには新しい親戚ができた。
 
必ずまた会いに行って、あの家の前で写真を撮ろう。
2人は喜んでくれるに違いない。
母たちも、また子どもの頃に戻れるだろう。
いつまでも同じ景色はない。忘れてしまいたくないから、記録に残す。
たくさんの記録が詰まったジンちゃん夫婦のあのアルバムに、わたしが撮った写真が収まる。
その日はきっと、遠くないはずだ。
<<終わり>>
***

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2018-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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