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日本で最後の楽園を見つけたので、行ってみた。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:末原静二郎(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「すごい盛り上がり」
「なんだこれ」
 

口から出る感想は、単純なものでした。
京都大学吉田寮。
それはまさに「子供の楽園」だったのです。
 

吉田寮をご存知でしょうか。
簡単にいえば大学のおんぼろな寮です。
 

日本最古の大学自治寮。大正時代からあるので、木造建築の建物はたっているのが
不思議なくらいボロボロ。
もし何も知らない人がこの建物をみたら、人を寄せつけない神の使いでもいるのか、
死ぬ前の幻覚なのでは、と驚きのあまり逃げ出してしまうでしょう。
 

寮の周りには鬱蒼と木々が生え、寮生たちによって放し飼いにされているヤギや鶏、
アヒルやクジャクたち。
 

寮内は湿った木と埃の臭いが、なんとも暗い気分にしてくれます。
 

まさに魔界。
ホラーゲームの舞台のよう。
 

貞子も3D貞子も、呪怨のとしお君も、スケキヨも勢ぞろいで一緒にこたつで暖を取りそうな勢いです。
 

こんな場所に200人も人が住んでいるから驚きです。
一般寮生たちはこの風変わりな建物に毎日寝泊まりしているわけです。
 

想像してみてください。一筋縄ではいかない人たちだってことはすぐわかりますよね。
 

まるで、世を捨て、厳しい環境に身を置く高僧のように、
彼らはこのカオス空間で寝食を共にし、日々を過ごすのです。
 

それはどんな大変なことなのかは想像つきませんが、この異様な、
日本で類を見ない場所に、興味は沸いてこないでしょうか。
 

先日、数カ月前に暖簾を下した『村屋』という居酒屋によるイベントがこの吉田寮で行われました。
 

題して『村おこし』
 

9月7日8日9日と3日間行われたイベントに参加しました。
 

小雨降る金曜の夜、仕事終わりに友人と京都大学にむかい、
いざ『村おこし』へ。
 

寮の周辺は暗いので、二人とも最初は不安でした。
『本当にお祭りやってんの』
 

しかし、酔っぱらった大学生の後輩をみつけ、どうやら祭りが
行われていることを実感しました。
 

「遅いぞ!なにしてんねん」
後輩たちはもう出来上がっている様子。
平日の社会人になんという口のききようでしょう。
 

後輩たちに案内されながら、
会場に進むと、驚きの世界が広がっているのでした。
 

 

大学を卒業して、まだ半年ほど。
京都から大阪までの通勤にもなれたし、日々の仕事もそこまで苦ではない。
週末は彼女や大学時代の友人と過ごすし、平日はライティングの練習。
 

充実しているって、大声で言える。
 

「学校へ行こう」のお立ち台に立って告白する中学生とおなじように、
 

今の自分の状態は充実していると宣言できる。
 

ただ。
はたしてこれが自分の求めてきた人生なのか、と聞かれると途端に
何とも言えない空虚な気持ちになります。
 

単純に、私が青いだけなのでしょうか。
 

それとも、誰しもがそういう思いを持っているのでしょうか。
 

いままで、学生の間は、何かしらコンプレックスというか、鬱憤が
たまった状態でした。童貞だったり、浪人生だったり、留年生だったり。
だからこそ、いつも
「これから楽しいことや、大笑いすることが待っている」
 

そんな期待感が、あったのです。
 

しかし最近では、童貞でも、浪人生でも、留年生でもないのです。
それは、自分でクリアしていったことです。
それはある意味「無色透明なサラリーマン」になってしまうことでした。
 

なんだか、お豆腐のように、ただ、プルプルしているだけの、味の薄いおじさん。
 

そんな風になってしまいそうなんです。
最近はそれでも仕方ない、ていうか、それが「幸せ」なんだと思うようになりました。
 

「ギラギラ」とか、ださいな、若気の至りだよ。
 

そんなことすらつぶやけるようになっていたのです。

 
 

そんな僕の目の前に飛び込んできたのは、インディアンが建ててそうな矢倉の上で、
好き勝手にラジオDJをやるもの。
オーバーサイズの服を着て、長い黒ひげに丸眼鏡の男たち。
薄い化粧でゆるく踊る女たち。
種類豊富なルーを売るカレー屋に、にぼしのきいたラーメン屋、
そしてシンプルで量の多い酒をうる屋台たち。
 

寮の食堂でロックをかき鳴らすバンドたち。
部屋にたちこめる時代に遅れた煙草の煙。
 
 

僕の目に映った光景は、まさに「青春の忘れものたち」だった。
 

そこにあるのは花火のように一瞬で輝くものばかり。
今日楽しければいい。明日なんて関係ない。
酒に酔い、音楽に酔い、煙草を吹かせ、抱き合う。
脳みそをとかすサイケデリック空間。
 

確定申告やら老老介護やら、そういった類の言葉は存在しなかった。
 

私は見つけたのだ。わたしの楽園を。
 

そこには子供の時から感じていた劣等感やルサンチマンを
思い出させては解放させてくれる場所だった。
 

人生、たまには刹那的に生きなきゃね。
この破滅的な祭りのあと、月曜日から会社に行かなくてはいけないのは
目から血が出るほどの苦痛だった。
 

でも、まともな自分と、破滅的な自分を両方肯定できました。
目から血を流しながら仕事に行く自分も、解放されたサイケデリックな自分も。
実は共存できるし、どっちか選ぶ必要はないことに気づきました。
来年も、しっかり子供に戻ろう、そう誓った週末だったのです。

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2018-09-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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