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メディアグランプリ

どうして幸せになってくれないの?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Yamashita Naoko(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「やりたいことやりなよ!」
 

実家に帰るたびに私はこんな言葉を母に言っていた。
 

「うん」
 

そう言って母は、図書館から借りてきた大量の本をうつむき加減で眺める。
 

『老後をどう生きるか』
料理や園芸などの趣味の本の他に、そんなタイトルの本があったことを私は知っている。
 
 

母は2年前、体力的にきつくなった仕事をついに退職。何十年という仕事からついに解放され、そして年金生活へと突入していた。娘3人は家族を持ったり自立したりで、それぞれ違う土地で新しい人生を歩んでいた。ついに母は自分の時間を、自分のためだけに使える時がきたのである。
 

「今まで本当にありがとう。お母さん、好きなことやって第2の人生楽しんで!」
 

娘の私は、母のやりたいことを応援する気持ちでいっぱいだった。
 

「どうする? 何したいの?」
 

私は退職後の母にこの質問を投げかけた。
 

「うーん。何やりたいかなー。辞めたばっかりだから分からない」
 

母はちょっと困った質問だ、という顔でそう答えた。
 

「まぁ、仕事辞めたばっかりだもんね。少しゆっくりしたいよね」
 

私はそう察して、そのあと何も聞かなかった。
でもそれから半年経っても母の答えは変わらなかった。
 

「何かやりたいことないの?」
 

その質問に母は、ばつが悪いように濁った返事ばかりを私に返した。
図書館からの本は相変わらず置いてあるし、やりたいことを探すのに時間も必要だろうと、母の答えが出るのを私は待った。
 

しかし1年経っても母の答えは変わらなかった。周りの皆が行っているからとジムに顔を出してみたり、ビーズ教室に通い始めはしていたけど。
 

「ビーズは目が痛くなるね! お母さん、こういうの合わないかも(笑)」
 

久しぶりに帰ってきた私に、母はこう言った。
 

「好きじゃないなら辞めたら?」
 

私には、仕事でもないのに自分の好きではないことを、お金を払ってでもやる意味が分からなかった。
 

「何かやりたいことないの? もう1年経ったんだし、そろそろ何かあるでしょ?」
 

私はいつもの質問を母に投げかけた。母はもうその質問が嫌だったのか黙り込んで、そして目を合わさないまま私にこう言ったのだ。
 

「皆、ナオちゃんみたいな人じゃないんだからね!」
 

そう言った母はその場を誤魔化し、違う部屋へと逃げていった。私は何を言っているのか理解出来なかった。

 
 

私は母に第2の人生を楽しんで欲しいと思っていた。ずっと自分のことを我慢して、私たち家族に尽くしてくれたのだから。父は多趣味で自分の時間をもう楽しんでいる。あとは母だけ。娘として私は、母も父のように好きなことをやって、充実した毎日を送って欲しいと思っていた。
 

なんで母が怒ったのか分からないままの私は、“いつもの図書館の本”を手にとって見始めた。内容は変わらず趣味の本に自己啓発みたいな本。自分なりに何か見つけようと、努力はしているんだなと眺めていた。そして6冊目の本を手にとった時、私の手が止まった。そこにあったのは、私が来月から行く予定のタイのガイドブックだった。しかもそれは1冊ではなく4冊も。そこで私は、母が言った“ある言葉”を思い出したのだ。
 

「お母さん、頭の中でいろんなところ旅してるわー」
 

その時の母の顔は楽しそうだった。そういえば母は、私が行くと決めた旅行先の情報を私よりも知っていたことを思い出した。それは地方に引っ越して行った姉や妹に対しても同じだった。
 

母はいつも、私たちが夢中になることに、同じように夢中になっていた。そして気づけば母の方が本人たちよりも楽しんでいたりした。
 

今思うと、そうやって私たちの趣味を自分の趣味のようにしている母は幸せそうだった。私たち三姉妹はそれぞれ違う趣味で、全く違うことをしていたから尚更楽しかったのだろう。
 

「あんたたちのおかげでお母さん、いろんなところ行かせてもらったし知識も豊富!」
 

剣道部にバトミントン部、吹奏楽部。そういえば学生時代の夏は決まってどこかに遠征だった。もちろん母は追っかけのようについて来ては、私たちと同じように感動や悔し涙を流していた。
 

母はもうとっくに自分の好きなことをして、毎日を楽しんでいたのではないかとその時ハッとした。私は好奇心の塊でやりたいことが尽きない性格だから、母の“自分から発信”で何かやろうとしないことが理解出来なかった。でも母は、ずっと前から“娘の追っかけ”という自分のやりたいことを謳歌していたんだと、やっと気がついたのだった。
 
 

「お母さん、タイどこがオススメ?」
 

私は質問を変えて母に尋ねてみた。
 

「えっ? えっとね! あそこ!! 絶対あそこに行った方がいい!!!」
 

母の声のトーンは明らかに変わり、水を得た魚みたいだった(笑)
 

“私が願う母の幸せのカタチ”は、必ずしも“母が望む幸せのカタチ”とは限らない。そう気づいてからの私は、いつもの質問をするのをやめた。
 

最近の母は、海外好きの私の影響を受けて英語でラインを送ってくる。そんな母はとっても幸せそうだ。
 
***

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2018-09-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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