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メディアグランプリ

あの日の取調室の出来事


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:眞水純子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「じゃ、こちらにお座りください」
担当者に促されて狭い部屋に通された。そこは、広さ一畳分くらいだろうか?
パタンと閉められたドアには鏡がついていた。
「あ、これはマジックミラーなのかしら」
そんなことを思いながら部屋をぐるりと見渡した。
スチール机一つとパイプ椅子二つ、それだけしかない殺風景な部屋だった。
 
私はとある警察署の取調室にいる。
刑事ドラマで見るような犯人を取り囲み問いただす様なスペースはない。
「では、話を聞かせてもらいますかね」
向かいに座った警察官は、なまり混じりの優しい口調でゆっくりと話しはじめた。
 
父は3ケ月前に交通事故を起こしてしまった。そして同乗していた母は、胸を強く打ち還らぬ人となってしまったのだ。
最愛の妻を亡くして一番悲しいはずの父は、遺族でありながら一方では、妻を死なせた加害者でもあるのだ。そして私は加害者の父、被害者の母の娘という立場なのだ。今回私は、亡くなった母の代弁者として調書を取るために警察に呼ばれたのだ。
 
「事故後、最初にお父さんとお会いになったのはどこですか?」
「その時にお父さんは泣いていましたか?」
「お父さんはあなたに何と言いましたか?」
それらの質問に
 
「救急搬送された病院です」
「泣いていません」
「大変なことをしてしまったと言ってました」
そう短く答えた。
 
すると、パソコンに向かってキーボードを打ち込み始めた。カタカタカタカタ……。その音はシーンとした狭い部屋に響いている。
長い沈黙がしばらく続いた。キーボードを打ち終わるとまた質問。それに対して私は短く答える。カタカタカタカタ……。この音と長い沈黙がしばらく続く。
一体何をしているのだろう?
私の言葉量に比べて、入力の時間が長すぎる。10秒答えて、10分沈黙しているような感覚。長い、長すぎる。本当に一体何を書いているのだろう?
しばらくしてパソコンから顔を上げた警察官は、今まで入力した文章をゆっくりと読み上げ始めた。
父の名前、年齢、住所から始まり、交通事故の場所、状況、経緯が続いた。そして父と会った時の様子が書かれていた。私が答えた短い言葉が供述調書にはこの様になっていた。
 
『父とは救急搬送された病院で会いました。うなだれた父は、私の顔を見ると「大変なことをしてしまった」と何度も何度私に謝りました。とても後悔している様子でした』
一語一句は覚えていないが、ニュアンスはこんな感じだったと思う。言った言葉をそのまま書くのではないのだ。描写の細かさに驚いた。私の言ったキーワードを元にその場面をイメージし、文章を作っているのだろう。何だかドラマのワンシーンの様に感じた。供述調書と言うのはもっと無機質なものだと思っていたので、正直驚いた。
初めての経験なのでよくわからないが、自分の事というよりも、何だかドラマの台本を聞いている様な気になった。その内容は、原稿用紙3枚にもなっていた。
「この内容で間違いありませんか?」
渡された調書を間違いがないかじっくりと読んだ。そして気になった誤字脱字、言葉のいい回しの違いを指摘した。これじゃまるで部下の作った資料をチェックしてダメ出しをする上司ではないか。文章の間違いを探すのではなく、内容に間違いがないかの確認だったのに。
気まずい表情の警察官。
「内容に間違いがなければサインと捺印をお願いします」
私が指摘したところを書き直した供述調書にサインを求められた。
だが、少しためらう私。
間違いはない。大筋はあっている。だけど何だか違和感が残るのだ。
確かに私が言った言葉ではあるが、何だかしっくり来ない。言葉以外のものが加えられているからだろうか? 別物の様に感じる。
それは、シンプルな冷奴を注文したのに、こってりとした麻婆豆腐が出てきた時の様な感じと似ている。ギャップがあるのだ。私の言葉を材料に警察の人が独自に味付けをしたからなのだろう。
だからといって嘘ではない。ここが違うと指摘するところがある訳でもない。でも何となくしっくり来ない。これは、私が感じている感覚と出来上がった文書から感じる「重さ」の違いなのだと思う。
そもそも何が正解なのかわからない。私は正直に自分の思う事を話をしたからこれで良しとしよう。
 
作成された供述調書はこの後検察へと送られる。そして裁判所へ。
裁判所から判決が確定されるのは、一体いつになるのだろう。そしてどんな判決が父に下りるのだろう。まだまだかかりそうだ。
 
まさかの出来事は誰にでも起こりうる。
当たり前だと思っていた日々は、決して当たり前ではない。あまりにも突然終わってしまう事もあるのだ。もしかしたらそれは明日なのかも知れない。
だからこそ、今を精一杯生きようと思う。命の時間は無限ではないのだ。
「いつか」はいつまで経っても「いつか」でしかないのだ。
 
やりたい事は「いつか」ではなく「今」なのだ。
後悔なく不満なく我慢なく、自分の人生を正直に生きていく。
 
そのためにはまずは自分で「決める」ことからはじめてみてもいいのではないだろうか。
 
 
***

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2018-09-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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