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あなたの本業は何か、と言われて気付いた「本業の再定義」


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記事:楠瀬 航(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 「ところで、あなたの本業はいったい何なんですか?」
 
 こう質問された時に、どう答えるか──。
 フリーランス(事業の法人化こそしているが、いわゆる「一人親方」的零細企業の域を出ないものである)の立場で仕事を始めてから現在までの約15年間、ずっと考え続けてきたことである。実際、お客さんのみならず、周囲の人々からもこの質問を数え切れないほど受けてきた。
 もちろん、その問いに対する答えを用意していないわけではない。
 本気で説明しようとすると長くなるので、だいたいは「まあ、WEBの制作とかをいろいろと……」といった適当な言葉で答えることが多いのだが、それとて今の自分の仕事の実態を正確に表したものではない。
 独立当初は確かにWEBの制作請負からスタートしたものの、現在それが仕事全体に占める割合は4分の1程度で、お客さんからの依頼に応じていろいろな仕事を引き受けているうちにどんどん仕事は雑多になっていった。たとえば、とある街で地域活性化の仕事に携わったり、週1回ではあるが大学の非常勤講師を引き受けたり、学生時代何のスポーツも経験していないにもかかわらずなぜか社会人サッカーのリーグ運営を手伝ったり、自社でフリーペーパーを発行したり、そこから派生して時にはライターとしての仕事もしたり……守秘義務契約などの関係で書けないことも少なからずあるが、書ける仕事の内容だけを列挙しても、あまり相互の関連性がなさそうなものばかりである。
 
 そして、こういう仕事のやり方は何かにつけて「どれも中途半端なだけやろ」だとか「何でも屋」「節操がない」といった揶揄をされることも少なくない。
 他人からそう言われるともちろん凹むが、自分でも特に独立したばかりの頃は、「何か一つ絶対に負けない分野がないと、やっていけないのではないか」という思いが強く、「こういう仕事の取り方でいいのか?」「若いうちはいいだろうが、それ、年をとっても続けられるのか?」と悩むことが多かった。
  
 ところが、ここ数年で、自分の中での考えはかなり変わってきた。
 最大の理由は、自らが40代に突入し「もうこの年になったら、今から方向転換しようとジタバタしてもどうにもならん」という、良くも悪くも諦めの気持ちが生まれてきたことにあるのだろうが、それだけではなく、これまでのさまざまな仕事とその結果を振り返ってみて、十数年の長いスパンで見ると、「当初考えてもいなかった仕事、自分から積極的にやりたいわけでもなかった仕事の方が、結果的に長く続いている」ということに気づいたからである。
  
 考えてみれば、いくら自分が「こういう仕事がしたい」とか「これが得意」と思っていても、それはあくまでも自己評価に過ぎないし、実際には「その程度の仕事をできる人はいくらでもいるよ」ということは世の中で往々にしてあるものである。これに対し、自分には未経験の分野であっても仕事を依頼されるということは、外部から「その仕事ができる、あるいはできそうな人(会社)」と評価されているということである。
 ならば、自己評価よりその外部評価の方を重視すれば良いのではないか。
 別に命まで取られるわけじゃなし、まずは一度、前向きに(ここが重要)お客さんの話を聞いてみて、仕事を受けるか受けないかはそれで決めりゃいい。食わず嫌いが一番いけない。
 そう思って打ち合わせに臨むと、不思議に「我々にはない考え方を持っている」と評価されて、仕事のきっかけに結びつくことが案外あったりするのである。
 
 ……と、ここまで書いて思い出したことがある。
 そもそも自分が独立するきっかけも、当時勤務していた会社(今で言うところの「ITベンチャー」的な新興企業であった)の経営が行き詰まり、やむを得ず進行中の仕事を他社へ移管させる残務整理をしていたところ、最後に某社のWEB制作の案件だけが残ってしまったのだが、その会社から「今後はあなたに直接仕事を発注するので、うちの仕事を引き続きやってもらえないか」と言われたことがきっかけだった。
 そして、数年後に事業を法人化したのも、別の会社から「経理部門からの指示で、当社は今後、個人との取引はできないことになった。うちとしては今後もあなたと取引を続ける意向はあるのだが……」と言われたことがきっかけで、「わかりました。じゃあ形だけの有限会社とか、そういうのを作りさえすりゃええんですね(笑)」と応じて会社を作ったことだった。
 いずれも、言ってしまえば自分の意思で始めたことではないが、それでもそうやって立ち上げた会社は、なんとか15年続いている。結果論ではあるが、たぶん、それが自分に合っていたからなのだろう。
  
 「ところで、あなたの本業はいったい何なんですか?」
 
 最初に書いたこの質問に対して、今でもまだ明確な答えを出すことはできていない。
 ただ、間違いなく言えることは、「それが何であれ、仕事を依頼するお客さんがいて、かつ仕事の内容に満足して真っ当な報酬を払ってくれるものは、すべて『本業』になり得る」ということである。
 そして、そういう一見雑多なものの集合体のように見えるさまざまな仕事の中から、より継続性のあるものや、自分に合いそうなもの、興味が持てるものを見極めて、そこでベストを尽くすこと。さらに可能であれば、それらの仕事を組み合わせることで、お客さんに新しい提案ができないかを考えていくこと。
 それは、もしかしたら自らの「本業」とは何かを、再定義し続けていくことなのかもしれない。
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2018-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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