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メディアグランプリ

畳屋の女房と相談業とオンナ心


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:近本由美子(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
 
畳屋の夫に嫁いで20数年がたった。
わたしは畳をつくれない畳屋の女房だ。たまたま結婚した人が畳屋をなりわいにしていた。
実は、結婚する前に親から結婚をかなり反対された。
理由は不安定な自営業という仕事と仕事の内容によるところが大きい。
畳屋は地味な仕事だ。その上に将来発展する業界とはいえそうにないというのが理由だ。
 
冷静に考えたらそうなのだけど、それでも私は結婚をした。
冷静すぎると結婚はできないものだ。
結婚は、最後はかけとタイミングだ。
何にかけるのかは自分の個人的な好みと相性に。
才能という人もいるだろう。
優しさという人もいるだろう。
将来性という人も。経済力の人も。
 
あなたの結婚の決め手は? と聞かれたら、私は夫の正直さだった。覚悟するときは、バンジージャンプするみたいにして決めるしかないのだ。
一点に絞らないと結婚はとべない。あとは目をつぶるのだと私は思った。
私も目をつぶってもらわないと困るから、どっちもどっちお互い様だ。
 
そうして私はジャンプした。
結婚は価値観のすり合わせの繰り返し。それでも孤独から救われた感じもあってしばらくは嬉しかった。
でも暮らしは現実がともなう。親の心配した通り時代とともに家業は徐々に低迷をし始めた。
努力と根性に逆らえないのが時代の流れだ。
それまで専業主婦だったけれど、そういうわけにもいかず私は、数年後、相談業を始めた。
結婚前に、そういう会社に勤めていたので覚悟すれば個人でやれないことはない。
私は友人の自営業者の相談を受けることから始めた。
 
相談を受けるのは、女性で自分も仕事をしているか、自営の仕事を夫婦でやっている人が多かった。
経済的に自立している女性たちは、どうしたら売り上げが上がるだろうか?
どうしたら成果が上がるだろうか?という相談内容で、元気で前向き、男勝りなところがある人達だった。
 
悩みが成果なら、話を聞いて改善点をアドバイスして行動して結果から改善を繰り返す作業だ。
ところが、改善点をアドバイスしても行動する気配のない人も多かった。
「なぜに売り上げを上げたいといいながら、それを行動にしない?」
彼女らは、改善点を聞きたいのではなくって、自分がどれほど大変なのかを聞いてほしいようだった。
そしてそれは、仕事が大変というよりは苛立ちのある寂しさのような感情だった。
その感情のみなもとは、パートナーとの溝によるものだった。
それは、最後の最後でこんな言葉となって出てくる。
「夫が○○してくれない」
「夫はどうして○○なのかしら」
「夫は、私の気持ちなどちっともわかってはくれていないのよ」
 
男勝りな彼女たちの悲痛な叫びにも感じる。
今さら言えないホンネ。
今さら言えない女心。
今さらさらけ出させない弱さ。
そうして彼女たちはよく正しいことを言う。
正しいことを仕事では言わなければならない。間違いはしてはいけない。
仕事で頑張れば、頑張るほどそれは女としての切り替えがうまくできない。
そうして冷徹な感じで、夫に言うのだ。
「洗濯物くらいとりこんでくれてもいいよね!」とか
テレビを見て笑っている夫を見て、仕事と家事と子育てをしている女たちは怒りの感情が
ぎりぎり限界でコップからあふれそうになってくるのだ。
 
そうして彼女らのそれは、私自身の感情とも重なった。
感情のコップにふたをすると、その中の水は腐ってしまう。
感情は、出してはならない。本当のことを言ってはならない。
そう思い込んでいる。そうしないと仕事が出来ないからだ。
 
本当のことは、「洗濯物をとりこんで」でも「お風呂掃除手伝って」でもなく、
「私にもっと優しくして」
「私の話をちゃんと聞いて」
「それをされると私が嬉しいから、アナタにそうして欲しいの」
「アナタが助けてくれることが、私を安心感で包んでくれるの」
と言いたい気持ちがあるのだ。
けれどもそれに向き合いたくない。負けるから。
 
男勝りなオンナの人は、不器用なのだ。
男勝りの奥にいたいけな女性の感情を隠し持っている。
そんなことを言ったら、「そんなガラじゃないよ」と言われそうで怖いのだ。
 
いつから、そんなことが言えない関係になったのかはわからない。
溝は少しずつ少しずつ深くなっていくのだ。
 
私はある時、夫と大喧嘩した。人生初である。
言いたかったこと、悲しかったこと、分かってくれないことを言った。
泣きながら。そんな自分を初めて体験した。
 
言ったら、ぱらりと世界がある時変わった。
自分の中の禁止令が解けたのだ。
解けたら、ココロが軽くなって、「ありがとう」を今までより言えるようになった。
そのうち、ありがとうに笑顔がついてくるようになった。
 
私はその後、相談業を減らして夫の仕事のサポートを増やすようにした。
夫の手の回らない企画や広報を担当するようにしたのだ。少しずつ売り上げも上がっていった。
私は畳をつくらないけど畳屋の女房なのだ。
 
勝つとか負けるとか、競うために人は結婚するワケでもない。
忙しすぎる毎日は、そんな当たり前のことさえも忘れさせる力がある。
そんなことを相談に来た女性たちが教えてくれた。
彼女たちは、私でもあったのだ。
 
今、私は相談に来る私より若い女性たちに、自分の本当の気持ちに自分が気づいてあげることが始まりだと伝えている。

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2018-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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