メディアグランプリ

「大の英語嫌い」が大変化を遂げたのはなぜか


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記事:西峯 美咲(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
なんとなく、声をかけられる気がした。
休日の夕飯時、忙しそうな人達が行き交う駅前。
新刊の漫画を数冊買い込んで、ほくほく顔の私は、圧倒的に暇そうに見えたに違いない。
 
日本に海外旅行に来ているらしい、アジア圏の人っぽい男女2人組が、声をかけてきた。
正確に言うと、スマホを見せてきた。
 
うぅ、ごめん。自慢じゃないけど、私の英語力は間違いなく底辺だぜ……。
早速に心の中では、自主的に戦力外通告しつつ、彼らのスマホを覗いてまずは状況理解に努めた。
 
どうやら2人は行きたい場所があって、スマホのマップによると、ここから近いのだけどよく分からない、ということらしかった。
もう1人が目的の場所にある建物の写真をスマホで見せてくれた。
えらくトリッキーな形の建物で、この近くにはこんな建物はないぞ、という確信だけはあった。
スマホのマップには、目的地が明らかに間違って入力されていた。
 
「この建物の名前は分かりますか?」と、私はなんとか英語をひねり出した。
「分からない」と2人。
うーん、困ったな。情けないぐらいに英語が出てこない。
ひとまず私は、自分のスマホで2人が目指している建物らしき場所を検索してみた。
そして、なんとか自分のスマホで検索した、該当の建物の住所を、彼らのスマホのマップに入力し直してあげることに成功した。
 
「ありがとう!」と喜ぶ2人を見て私はホッとし、
「じゃあ、がんばって!」と2人を見送った。
 
いいことしたな~と気分よく帰宅し、食事をしながら、一連の出来事を夫に話した。
夫の口から意外な言葉たちが飛び出した。
 
「で、その人達は結局どこの国の人? どれぐらい日本におるん?」
「マップで検索したら電車に乗らなあかん距離なんやろ? それって伝えた?」
「そもそも、その人達ってなんでその建物に行きたいの?」
 
私は予想外の質問攻めに、慌てて返答した。
「いやいや、急な出来事やったし、そんなこと聞ける余裕はなかったよ。正しい道を教えてあげることで精一杯やったから! 英語って意外と出てこないもんやで……」
すると、夫がスラスラと私に先ほど投げかけた質問を、英語で話し出した。
私の予想のさらに斜め上をいく展開だった。
 
というのも、私の夫は「大の英語嫌い」を公言していたからである。
英語が嫌いという理由で、海外も新婚旅行で行くまでは頑なに拒否していた。
そんな夫が、決して流暢ではないけれど、私よりも確実に「使える英語フレーズ」を体得していることに驚いた。
 
「い、いつの間に、そんな英語使えるようになったの!?」と私は驚きとともに夫に聞いた。
 
私の夫は喫茶店を営んでいる。夫の父親の代から続いている、いわゆる純喫茶と呼ばれるような喫茶店だ。
実は、ここ最近、海外の旅行客の来店が増えているというのだ。日本への海外旅行ブームの波が、こんな地元に密着した喫茶店にも来ているとは、私は思いもよらなかった。
さらに驚いたことに、夫は来店された海外の方と積極的にコミュニケーションを取り、しかも、多くの海外旅行者が閲覧する口コミサイトに、自分の喫茶店の口コミを書いてもらっていたのだった。
 
「え!? 英語嫌いやんな……? なんで? 外国の人がさらに来たら困らへん?」
私がさらに聞くと、夫は答えた。
「新婚旅行の初日に入ったレストランのこと、覚えてる? 店員さんが、一生懸命コミュニケーション取って、俺らのことを知ろうとしてくれたやん? あれ、すごい嬉しかったし、楽しかったんよね。ああいう思い出を日本に来た海外の人達にも味わってもらいたいって思うねん。海外で親切にされるって、すごい楽しい思い出になるやん。まあ、英語は嫌いなままやけど」
そう言うと、夫は自分が準備している英語のフレーズを楽しそうに披露してくれた。もしお客さんが、香港の人だったら、フィリピンの人だったら、イギリスの人だったら……と国別のフレーズまで準備していることに、私はさらに驚いたとともに、「英語が嫌い」だからこその準備であることにもハッとさせられた。
 
日本の英語教育改革、グローバル人材の育成が叫ばれて久しいが、「英語を使うことへの苦手意識」を払拭できない世代は、まだまだ多いのではないだろうか。私ももちろんその1人だ。そしてなんとかその苦手意識を取り除こうと、英会話教室へ通うなど、英語を学び直そうとする。英語を学び直すこと自体は、文句なしに素晴らしいことだ。
 
一方で、今回の夫の行動の源泉は、「日本に来た海外の人に、楽しい旅の思い出を作ってもらいたい。その為にもコミュニケーションが取りたい。だから、英語を使う」なのだ。
英語を使う目的がそこにある。それこそ、英語上達の第一歩であることを、私は今さらながら体感させられた。そして英語が苦手だからこそ、準備をしておくことで、その第一歩を踏み出せるのだということも。
 
私は駅前で出会った2人組を思い出していた。
2人にとって、この日本の旅が楽しい思い出になりますように、という願いと、もっともっと楽しい思い出に出来るコミュニケーションを取りたかった、という悔しさとともに。
 
食後の珈琲を飲みながら、夫と「喫茶店で使う英語のフレーズ談義」を楽しんだ。
読みたくて仕方なかったはずの新刊の漫画は、しばらく手つかずのままだった。

 
 
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2018-10-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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