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女の子にかけた言葉と起きた奇跡


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:あかばね 笑助(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「今度、生まれ変わった時には……」
 
生まれ変われる保証なんて無いのに、車イスの女の子と別れ際、こんな言葉をかけてしまった。
自分で操作すら出来ない重度の肢体不自由と、知的障害を持った女の子だった。
ただ彼女を見てると、余りにもやるせなくて、言わざるを得なかった。
 
 
沢田美喜という女性がいた。
エリザベス・サンダースホームという、当時、孤児院と呼ばれた施設を作った人だ。
米兵との間に産まれた子供達二千人を育てた人。
 
「カッコイイ」
 
ボクは単純に彼女に憧れ、保育士の資格を取り、児童養護施設で働こうと思い立った。
通ったのは夜間の専門学校だった。
女性7割、男性3割くらいの生徒が教室に60人ほど集められ、授業を受けた。
教室では毎回、その日の勤め先であったことを報告し合う女の子のオシャベリが止まらない。
女の子の声が飛び交う合間を縫って教師の声が、まるでマンガの吹き出しのように教壇から聞こえてくる、実に賑やかな授業だった。
また、変わった授業もあった。
年に一回だけ、ライトに照らされた夜の校庭での体育の授業。
ライトで照らされているけど、当然、昼のような明るさは校庭に無い。
そんな状況での跳び箱や50メートル走は距離感がつかめなく、失敗する人が続出する楽しい授業だった。
 
そして三年制の学校での最後の年に、二回の実習が課せられていた。
保育園での実習と、児童養護施設や肢体不自由児のいる施設での実習だった。
最初は保育園での実習をボクは選択した。
保育園での実習は、まだまだ子供に慣れていないボクには精神的にキツイものだった。
子供の行動が予測できなくて振り回されてばかりいた。
そして「高い高い」のせいで、体力的にも大変な目にあった。
ボクは身長が高いので、ボクの「高い高い」は本当に高いから大人気だった。
振り向くと行列ができていた。
 
そして楽しみにしていた施設実習。
当然、児童養護施設を希望して探したのだが人気らしく、どこの枠も埋まっていた。
 
「まあ、仕方ないか」
 
ボクは少しガッカリしながら、自分の家から通える肢体不自由児施設を選択した。
その施設は病院の一角にあり、治療の合間に学ぶことができるような、そんな施設だった。
そしてボクはそこで、一人の車イスの女の子と出会った。
 
みんな一生ケガしたままのような、肢体の不自由を持った子供ばかりいた。
でも、ボクはそこにいる間は、その子供達のことを決して「かわいそう、気の毒」と思わないように、自分に言い聞かせた。
子供達は敏感だ。
「自分は、かわいそうで気の毒な存在なんだ」と思い込んでしまったら、きっと自分のことを「みじめ」だと思うようになってしまう。
だから健常者の子供と同じような気持ちで接することにした。
下半身がマヒしてるせいで、車イスの生活を一生続けなければならない、黒縁メガネの男の子は特にボクのことを気に入ったらしく、遊んでくれと、いつもせがまれた。
その子とキャッチボールした時、車イス生活のせいで運動不足らしく、ボールを上手くキャッチ出来なかった。
健常者だと思って接することに決めたボクは彼に言った。
 
「お前ヘタだねぇ、ボールのキャッチ。ちゃんと捕れよ」
 
ボクは、柔らかなミドリ色のカラーボールを彼の頭にぶつけたり、わざとスピードを増して捕りにくく投げたりして遊んでいた。
彼は「障害者だから」と配慮していないボクが嬉しかったらしく、メガネがナナメにずれるほどゲラゲラ笑いながら、必死にボールを捕ろうとしていた。とても嬉しそうに。
そんな笑っている彼を見て、ボクも笑った。
 
みんなと一緒に音楽に合わせて踊ったり、遊んだりしている時、いつも一人、車イスから、ボクらを見ている女の子がいた。
ボクが気にして彼女のことを見ていたら、
 
「あぁ、彼女の事? 彼女、歩けないだけでなく、知的障害も持ってるのよ」
施設長の女性がボクに言った。
 
「お猿さん並みの知能しかないの」
施設長は腕組みしながら、溜息をつくように言った。
 
車イスの女の子は自分でスプーンすら持てなかった。
食事には必ず誰かの介助を必要とした。
ボクも彼女に食事介助した。
スプーンを彼女の口に持っていくと、彼女は決してスプーンを見ることなく、自動で開閉する機械みたいに口を開け、食事をした。
前を見たまま固定されているような瞳。
問いかけにも反応が薄く、理解してくれているのか、わからなかった。
彼女とのやり取りは、いつもボクの一方通行だった。
 
実習の最終日、ボクは施設の子供達に、お別れの言葉がけをした。
みんな「また遊ぼうよ!」と言ってくれた。
そこそこボクは好評だったようで嬉しかった。
 
そして車イスの女の子にお別れの言葉を言おうとした。
じゃあ、またね! 元気でいてね、そんな言葉を言うつもりだった。
その時、施設の庭に、ふと目をやった。
彼女と同じ年位の女の子が、同じ年位の男の子と楽しそうに会話していた。
どこにでもある普通の光景だ。
でも、その時ボクは思ってしまった。
 
「何で、こんなにも彼女と、外にいるカップルの彼女と差があるんだ! 理不尽じゃないか! 世界は」
 
怒りなのか悲しみなのか、わからない感情に、ボクは支配されてしまった。
いつの間にか彼女のことを「かわいそう、気の毒」と思っていたのかもしれない。
そして、心の底から浮かんできた言葉を、彼女に向かって言ってしまった。
 
「今度、生まれ変わった時には、丈夫な体を貰って、もっともっと幸せになって下さい」
 
生まれ変わりがあるのか無いのか、そんな事どっちでも良かった。
今の彼女を不幸だと思う事は、失礼な事だと、理解もしていた。
でも、彼女にも「普通」の女の子が享受してる幸せを本当に感じてもらいたいと思った。
 
すると不思議な事が起きた。
 
何も反応しなかった彼女が突然、その言葉に反応したのだ。
見開いた瞳は真っすぐにボクの顔を見つめた。
そして大きくうなづいたのだ。
だいじょうぶ、わかっているからと言うように。
彼女はハッキリ、ボクに意思を示してくれた。
ボクの言葉を彼女は、理解したよ、と言うように。
 
ボクは驚いた。
知的障害で、理解などしてくれないと思っていたから。
ボクは間違っていたのだ。
例え、どんな障害を相手が持っていようと、どんなに意思が奥底に隠れていようと、
海底に潜ってる人にも届け! というぐらいの気持で、本気で言えば、その言葉の熱量は障壁を越えて、相手の意識に届かせることが出来ると。
 
本気で相手を思いやる言葉には奇跡的な力がある。
 
彼女の「うなづき」は今もボクを支えてくれている。

 
 
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2018-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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