メディアグランプリ

コスモスの花は家族の絆


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

http://tenro-in.com/zemi/62637
 
記事:望月祥子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「あなたにとって、家族の絆って何?」
もしそんな質問をされたら私はコスモスと答える。
 
私が小学生になると家の白い壁には時間割表が貼られた。寝る前に父がその時間割表をみながら次の日の教科を読み上げる。そして私がランドセルに教科書とノートをいれていく。それが日常になった。
 
私が小学4年生の時。
いつものように「2時間目は理科だってー」父が壁に貼ってある時間割表を読み上げる。理科の授業はずっと苦手だったけれど、教科書の表紙の花と蝶々の写真が好きだった。
「3時間目はー」そうして読み上げられた科目の教科書やノートは、赤いランドセルにいれられていった。
 
 
その日の2時間目は理科の授業で、内容はうろ覚えだけど確か光合成とか植物に関してのことだったと思う。私は授業中に不思議に思ったことがあった。帰ったらお母さんに聞いてみようと思い、忘れないようにノートの端っこに鉛筆でお花と書いた。
家に帰ってから
「ねえ、お母さん。お花ってどうやって咲くの? 咲く瞬間ってみたことある?」そう母に聞いた。母がそのあと何と言ったかは覚えていない。
 
次の日仕事から帰ってきた母は私に花の種をくれた。
「この種を一緒に植えて育てよう。せっかくだからお父さんが帰ってきてから3人で植えよう」
そう言って母は夕食の準備をはじめ、私は手伝いながら父が帰ってくるのを今か今かと待ちかまえた。私は1人っ子だけど両親が共働きだったので、父も母も自分のために独占できる時間があることが嬉しかった。夕食を食べ終えたあとに、家族3人で母が買ってきた種を鉢植えに植えた。ここかな、あそこかなと狭いベランダをうろうろしながら一番日当たりが良さそうなところを探した。私は何の花が咲くかが楽しみで、花の名前は私には咲くまで内緒にして欲しいとたのんだ。
それから毎日水をやったけど、なかなか芽がでてこなかった。 3人で夕飯を食べている時に、
「なかなか芽がでないからもしかしたら私は種に嫌われているのかもれない」
そう言ったら父も母も笑い出した。
「種をまいて水をあげたら最初は土の下に根がはるんだよ。それはお父さんたちからは見えないけどな。祥子だってクロールができるようになったのはまず水に顔をつける練習をしたからだろ? でもそれを知っている人はお母さんとお父さんだけだよね?」
私は小学1年生の時、プールの時間に水に顔をつけるのが怖かった。でもクラスメイトのみんなには知られたくなくて、できないことが恥ずかしくて泣きながら両親に話した。その日からお風呂のなかで顔を水につける特訓をしたのは懐かしい思い出のひとつだ。
 
そうして毎日観察しているうちに芽がでてきた。すぐに咲くわけではないことはもう分かっていたので私は種に嫌われているという気持ちはなくなった。芽がでてこないうちは、きっと種は土の中で頑張っているんだろうな。そんなことを思った。
そうして約2ヶ月と少しが過ぎ、季節は10月になった。もう少しで花が咲きそうという段階になった。3人で夕食を食べている時に母が
「明日からお父さんもお母さんも祥子も全員早起きをしまーす!」
そう言い出した。
 
次の日。
眠い目をこすりながらみんなでベランダに座った。でもベランダは狭すぎて3人並んで座れなかったので私は父の膝の上にいた。さすがに外では恥ずかしくてできないけれど、父の膝の上に座れたことが私は嬉しかった。
そんな日々が続いて早起きに慣れてきた頃。花が咲く瞬間だった。
「きれーい! さいたー!」
私はそんなことを言ったと思う。花びらはひとつひとつゆっくり開くように咲いていった。その日の朝、父も母も私も花が開く瞬間をはじめて見た。
そういえばこの花はなんていう名前なのだろうと思って母に聞いた。
「コスモス。漢字では秋の桜って書くの。お母さんも理由は知らないんだけどね。秋にも新しいことがやってきたみたいで嬉しくなるよね。祥子もうすぐ誕生日だね。祥子が産まれた時、お父さんもお母さんもこんな気持ちだったよ」
母の声はとても優しかった。
 
それから私はコスモスの花をみるといつも小学4年生の時のことを思い出す。私はあれから看護師になって今は一人暮らしをしている。そして今年の2月大好きな父は亡くなった。
10月18日は私の誕生日だ。お花屋さんでコスモスの花を買った。薄ピンク色の花瓶に3本のコスモスを飾った。父と母と私みたいだと言ったら父はきっと笑うかもしれない。
私にとってコスモスの花は家族の絆だ。
 
***

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2018-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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