メディアグランプリ

白い5行を埋めるのは


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:コバヤシミズキ(チーム天狼院)
 
 
「腱鞘炎になりそう」
隣からぼそっと聞こえた声に、静かな講義室で頷くだけの返事をする。
授業を聞いて感想を書くだけ。
たったそれだけの講義が、案外しんどい。
「久々に文字書くの、めっちゃしんどいな」
握り方も忘れかけていたペンを、紙の上でフラフラさせる。
……視線の先の感想用紙は、ほとんど埋まっている。
それでもなお、私は考えていた。
「思いつかねえな」
いつも2000字書いてるのに、とソッと心の中で付け加えながら。
私はいつも、最後の5行を埋められない。
 
正直なところ、単位欲しさに取っている講義ではある。
 
自分の所属する専攻が、単位取得において“コスパが悪い”と気がついたのが1年後期。
「いや、いやいや。これ単位足らんでしょ」
既に取得していた単位と、2年で取る予定の単位を合わせても、とてもじゃないが卒業できそうになかったのだ。
「まずいぞ、これは他の講義も取らないと」
自分の専門科目だけでは足りない。
ぎゅっと詰め込まれた短大の単位振り分けは、私たちに無慈悲だ。
「とりあえず、テストとレポート無い講義取ろう」
そう友人とうなずき合って完成した時間割は、講義が飛び飛びで美しくない。
それでも、そんなことに構ってる場合ではなく。
「全休は一日かあ」
ただ、埋まってしまった時間割を前に嘆いていた。
 
「じゃあ、書き終わった人から帰ってください」
先生がそういったことを皮切りに、静かだった講義室が一気に騒がしくなる。
昼前の講義だからか、みんなすぐに席を立って出て行った。
「あ、集めて持ってくよ」
他の生徒と同様に席を立とうとしていた友人から、感想用紙を回収する。
“優しいじゃん”なんて言葉にフフンと鼻を鳴らしながら、こっそりと手元の感想用紙に目を落とす。
「やっぱり、みんな似たようなもんだな」
下段が空いた感想用紙は、1枚だけじゃなかった。
……私だけじゃない。
そのことに何故かホッとする。
「けど、けどなあ」
そんな自分に気づいてしまった私は、急な罪悪感に襲われていた。
 
「何のために学校来てるんだか」
 
分かんねえな、とこぼしても誰も気づかないだろう。
「でも、みんな思ってる」
……私だけじゃない。
“何をしに学校へ来ているのか”
“何のためにこの講義を受けるのか”
よく分からないまま、漠然と一日を過ごしてしまう。
「だって、興味ないし」
講義の内容に興味が無いから、私が一日を曖昧に消費してしまうのも仕方が無い。
そう一言で済ましてしまえば、それまでだろう。
……でも、そうすることができないのは。
「たった5行も埋められない」
その程度でしかない自分が情けなく、ちっぽけに感じて。
思い返せば何も成し遂げていないこの2年に、蓋をしたくてたまらないから。
「ほんと、何したいんだか」
5行の埋め方さえ分からない私が、そんなこと分かるはずもなく。
結局、今日も感想用紙の下段は白いままだった。
 
「高校までは、ノート取ってれば良かったもんね」
テストはだるかったけど、なんて彼女に苦笑いしながら天井を仰ぐ。
高校を卒業してから、選択の余地が増えた。
授業も好きなのを選べるし、学校行事だって強制参加じゃない。
アルバイトで稼いだお金は、家に入れる3分の1以外は自由に使っていい。
「やりたいことができる、はずなんだけどな」
選択肢は増え続けるのに、私はなかなか自由になれない。
結局必要単位分講義は受けないといけないし、なんだかんだ行事には参加している。
お金も無限に沸くわけじゃないから、速攻貯金箱にぶち込んでいた。
「なんで?」
ふと彼女が私に問うてくる。
たった一言のソレが、腹に突き刺さって痛い。
……だって、そんなもの、こう返すしかないじゃないか。
 
「自分のため」
 
私が自由になれないのは、選択肢が増えるからじゃない。
それに比例して、私が負う“自分の将来”への責任が増えるからだ。
今まで誰かが負ってくれていた責任を、これからは私が背負っていかないといけないからだ。
「やだなあ」
ほんとは、まだ、甘えていたい。
……でも、それを既に覚悟している自分がいる。
だからこそ、たった5行を埋められない自分に腹が立っているのだ。
「社会福祉論なんて、興味なかったんだけどな」
これからも変化し続ける社会に向けた5行。
たかが感想用紙、されど感想用紙。
……社会福祉論の先生も、こんなこと考えてるって知ったら驚くだろうな。
先生のポカンとした顔を想像すれば、ほんの少し肩の力が抜けた気がした
 
「あ、集めて持ってくよ」
ざわつき始めた教室で、私より先に席を立った友人が手を差し出す。
「いや、まだ終わってないから。自分でもってくわ」
はいよ〜、と間延びした声で返す友人を見送って、私は再び感想用紙へ目を落とす。
「やっぱり、埋まんねえな」
いつも通り空いた下段に、苦笑いしかこぼれない。
正直、もう手が痛いし、書くこともない。
手の中のシャーペンがフラつきそうだ。
「でもまあ、うん、がんばろうか」
未来のために、だなんてクサいセリフは心だけで。
白い5行を埋めるのは、私のためだと言えるように。

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2018-11-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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