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きちんと取った、昆布と鰹の出汁は、実は美味しくなかった


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記事:NAZO(10/31大阪ライティング)
 
 タイトルを読んで「そんなハズがあるか。きちんと取った出汁は美味しいに決まっている。料亭はみんなそうしている。違うというのなら、その言い分を聞こうじゃないか。」と思った人がいるだろう。私も昔はそうだった。
 最近はヘルシー志向の世の中である。日本料理の出汁も、市販品を使わずに、きちんと昆布と鰹を使って出してみよう! そう思う人は一定以上は居ると思われる。また、面倒でも自分で取った出汁は、さぞ美味しいに違いないというイメージがある。私もそういう出汁に夢見る一人だった。一念発起して、昆布と鰹の出汁を自分で取ってみることにした。出来上がった出汁に、淡口醤油を入れて味見をしてみる。それが、どういう訳か、美味しくないのである。
 
「美味しくない、味が薄い……。こんなに手間暇をかけてこれか?」
 
 これが正直な感想だった。実はこれが、出汁を出すときに最初にぶつかる所で、そのまま途方に暮れる人が多いようだ。しかし、出汁の正体が分かると、自分は何も間違っておらず、それどころか、もう化学調味料には戻れないという体になってしまい、I love鰹出汁となる。ここでは、それを紹介してみよう。
 まず考えたのが「素材が悪いのでは?」ということである。適当に買って来た昆布ではダメなのだろうか。昆布について調べてみた。昆布には大きく分けて、真昆布、利尻昆布、羅臼昆布、日高昆布の4種類があり、すべて北海道産だ。真昆布は大阪の料亭で使われ、利尻昆布は京都の料亭で使われる。
 
「京都の料亭を真似て、利尻昆布を使ってみよう。」
 
 ここまで来たら、最高級の利尻昆布「礼文島の香深浜産」一級品を取り寄せた。かなり高かったが、これで昆布に文句はないはずである。ところがこれでも上手く行かないのだ。
 今度は、鰹節に問題があるのではと思い始めた。鰹節には、「枯節」と「本枯節(ほんかれぶし)」という種類がある。枯節は乾燥させただけで、本枯節はさらにカビを生やしたものである。当然、本枯節の方が高価で味も上である。よく売っている「花がつお」というのは枯節である。しかし、本枯節となると、業務用になるのか、削り節ではなかなか売っておらず、節一本買ってきて、自分で削ることになる。削りたてのほうが香りがいいのだが、そこまではさすがに出来ない。大阪中探し回って、やっと本枯節の削り節を売っている店を探し出した。これで鰹節にも文句はないはずである。
 礼文島の利尻昆布に本枯節。さすがに、前よりも味は変わったのは感じられるが、期待していた通りにはなってくれない……。これはもう出汁の取り方に問題があるのかと思い始めた。
 出汁を取るやり方は3つある。オーソドックスなのは、昆布をしばらく水につけた後に、沸かして、泡が出てきたらすぐに昆布を出して鰹節を入れる方法。最近流行なのは、昆布を60度の湯で4時間煮出す方法。そして、面倒だが最強と呼ばれるのが、昆布を水に入れたまま8時間放っておく方法である。とにかく、いろいろと試したが、どれもそんなに変わらなかった。
 もしや、淡口醤油に問題が……、などといつまでもループしている場合ではない。
 
「もしかしたら、こういうモノなのでは?」
 
 半分、諦めがてらに思ったことだが、実はこれによって、鰹出汁の真の価値が見えて来たのである。
 最近の化学調味料の出汁は、一口飲んで「旨い」と思わせるように出来ている。そういう製品が台頭するものだから、我々の舌は出汁とはそういうものだと思っているのだ。だから、自然調味料の鰹出汁は薄く感じてしまうのである。世の中の舌がそうなってしまっているために、自然調味料でも一口目に「旨い」という味を出すために、サバ節を使ったり、マグロ節を使ったりする料亭が増えているらしい。
 では、鰹出汁というのは、もう時代遅れなのか? 消えていくのか? そんなことはない。実は、鰹出汁というのは、素材の力を引き出すのに長けているのだ。「ほうれん草」に掛ければ、その効果はてき面である。美味しい出汁とは思わない、「美味しいほうれん草」だと思うのだ。鰹出汁とは、主菜の味を高める名脇役。これが真骨頂である。これに気付くと世界が変わる。今度は焼き茄子に掛けると、なんと美味しい茄子になることか。だし巻き卵でも、茶わん蒸しでも、すごく美味しくなる。自らは姿を隠すが、その分、料理の味を高めるのである。
 そうやって、ある日、化学調味料を使ってみると、嫌悪感を抱くようになってしまう。「なんだこの自分ばっかり主張している出汁の味は!?」そうなるともう戻れない。もちろん、最高級の昆布や鰹節を使わなくても、充分美味しい鰹出汁を味わえる。
 きちんと取った昆布と鰹の出汁は、美味しくない。だが、それを使った料理は美味しい。自ら姿を消しながら料理を高める。そう思ったとき、日本料理の味わいが広がるのである。
 ちなみに、私はなにも旨い出汁を全面否定しているわけではない。「うどん」となると、これは強烈に旨い出汁が求められる。要は使い分け、適材適所なのだ。
 
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2018-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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