メディアグランプリ

味噌汁が切り開いてくれた道


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記事:古川貴弘(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「料理のできる男性っていいよねー!」
 
世の中、料理男子をもてはやす風潮がある。料理が得意な男性芸能人にスポットが当たること多く、女性うけのいい料理男子のイメージができているように感じる。
 
男性の私でも、速水もこみちさんが華麗な包丁さばきや塩を振る姿を見ると「かっこいいなー!」と思ったりするし、先日、有名なレストランのオーナーシェフを招いてイベントを行ったのだが、楽しそうに手際よく料理を仕上げていく様子を間近で見て、すごいなぁ、と惚れ惚れしたのも事実だ。
 
「これからの時代、男性も料理をした方がいいよ」
「男らしく、男の料理を作ればいいんですよ」
 
言いたいことはわかる。
 
自分で料理をすれば、外食も減ってお財布にも優しいし、健康面を考えてもそちらの方がいいに決まってる。もちろん理解できる。
 
何も手の込んだコース料理を作る必要はない。豪快なメイン料理が一つ作れるだけで、周りからは「すごいね!」と言ってもらえる。それもわかる。
 
それがきっかけで、どんどん料理にはまる人はいるだろう。少しずつレパートリーも増え、休日はパパが料理をするだという家庭もあるだろう。幸せで素晴らしいなと心から思う。
 
でも、そうは言っても、どうしても料理に興味がわかない。試しにやってみたことはあるけど、やっぱり続かない。そういう人達は、男性、女性を問わず、割と多いんじゃないかと思う。
 
私もその一人だった。
 
初めて料理をしたのは大学4年生の頃。一人暮らしをすることになって、とりあえずの儀式として、炊飯器や鍋など一通りの調理器具は買い揃えた。あの頃は、健康面を考えてではなく、金銭面で少しでも節約をしたいという理由で自炊に手を出した。
 
自分好みの美味しいものを食べたくて始めたわけではなくて、本当に腹を満たすためだけに作っていた。できるだけ調味料や材料は少ないもの、何度も料理するのが面倒なので数日は保存がきくもの、という基準だけで作るものを選んでいた。
 
一人暮らしなので、作り過ぎて余った料理を1週間くらいかけて消費するというのもザラであった。そして、自分で作った料理にあたって病院に行ったこともあった。今なら、カレーや味噌汁を1週間以上保存したりしない。
 
結婚後しばらくは妻が料理をしてくれたので、自分で作ることはなくなった。共働きになり、子どもができ、再びキッチンに立つ機会が増えたが、それでもやっぱり、料理が好きにはならなかった。
 
ここでひとつ、考え方を変えてみることにした。
 
「料理を好きになる必要はない」
「料理は老後を生きていく武器になる」
「料理で段取り力を鍛える訓練である」
 
何も無理やり料理好きになる必要はないのではないか。目的達成のための手段のひとつと考えて、淡々と向き合うのもありではないか。
 
新聞などで定年退職後の男性の生活について読んだことがある。意欲のある男性は、料理教室に通いだしたりするようだ。自分で食べるものを作れる力というのは、老後の生きる力に直結するので、今のうちから備えておいた方がいいなと考えることにした。
 
そして、よく言われることだが、料理上手は段取り上手でもある。テーブルに出すタイミングを考えて、複数の料理を同時並行で作っていくのはなかなか難しい。仕事でも求められる段取り力を鍛えることができる。
 
こう考えるようになって、料理に対する見方がガラリと変わったが、まだ大きなハードルが残っていた。
 
「いろんな料理を何品も作らないといけない」
 
この思い込みを外すのには苦労した。これは自分にとって一番大きなハードルだった。料理本を見ると、色とりどりの鮮やかな料理が紙面を飾っている。眩しすぎてすぐに本を閉じてしまう。簡単レシピをうたった本でさえ、作ってみようと思えたものは、一冊に2、3品しかなかった。
 
そんなときに一冊の本に出会い、この呪縛を解くことができた。土井善晴さんの「一汁一菜でよいという提案」という本だ。
 
この本のお陰で「味噌汁さえ作れればいいじゃないか!」という境地にたどり着けた。ごはんと漬物、味噌汁があれば食卓は成立する。一気に視界が開けた。悟りを開いた感覚だった。
 
日本人にとって、味噌汁は偉大な存在だ。毎日飲んでも飽きないし、味噌は身体によい発酵食品で、具材に旬の野菜などを入れれば栄養もばっちりとれる。
 
そして、何より作るのが簡単。今は便利な世の中になって、無添加の粉末出汁なども手に入るので、あとは味噌を溶いて、冷蔵庫に残っているお好みの具材を入れるだけ。慣れれば、何も考えなくてもパパッと作れてしまう。
 
味噌汁さえ作ってしまえば、あとはおまけみたいなもので、余裕があれば作ればいい。今は、唐揚げや野菜炒めなど、簡単な料理のレパートリーを少しずつ増やしているところだ。
 
今はまだ自分のことを「料理男子」とは思えないけれど、いつの日か華麗に塩を振る「料理男子」になれる日を夢見ている。味噌汁が切り開いてくれたこの道を歩み続けよう。
 
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2018-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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