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メディアグランプリ

非日常空間で観るこだわりアート〜驚きと深い示唆の創造〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松原 さくら(ライティング・ゼミ木曜コース)
 

「この作家さん、さっきの美術館にもあった。ほら、あの意地悪な展示室の」
私が囁くと、母は小さく頷いた。
安藤忠雄が設計した建築物に、様々なアートが展示されている。その説明をしてくれるツアーに参加していた。
コンクリート打ちっ放しの部屋に説明の声が反響して、場所全体が空気も一緒にゆっくりと揺れているような、軽い目まいがするような独特の雰囲気を醸し出していた。
 
 

私も母も美術的なものが大好きだ。絵やオペラを観るのも、クラッシックコンサートを聴くのも、自分で表現するのも、自然と生活の中に組み込まれている。
ただ、瀬戸内海にある小さな島、「直島」は、多くの友人の評判がとても良かったにも関わらず、これまで一度も訪れたことがなかった。
「いつか必ず行ってみなければいけない」そう思っていた場所にいざ立ってみると、想像とは全く違う驚きがあった。
 

「美術館の入り口はどこ? こっち? あ、行き止まり。こっち?」
大阪で「天然ボケ」という役割を甘んじて受け入れ、いつも愛のある突っ込みをもらっている私と母は、その性質を存分に発揮して、安藤忠雄の世界にまんまとはまっていた。この美術館には、徹底して非日常が演出されている。
私は地図を見るのが好きで、ほとんど道に迷ったことがない。
しかし、安藤忠雄は頭に地図を作ることを許さない。迷わせる。まず廊下の角が直角ではない。そして突然行き止まりになっている。階段の昇り降りが不規則でどのくらいの高さに居るのか掴めない。さっきも通ったことがあると感じるような光景に出会い、混乱する。すっかり私たちは珍道中の様相だ。
 

「さっきこっちから来たし、次はこっちやろ」「ホンマ? ここ来たことあるやん」「じゃあこっちか」「あ、行き止まりや」
母とボケたり突っ込んだりしながら移動していく。その空間の一つ一つに出会う度に、感情が揺らぐのを感じずにはいられなかった。
廊下を歩くとき、階段を昇るとき、絵のある部屋に入るとき、休憩場所に座るとき、その場所ごとに明らかに別の意味が用意されていた。
圧迫されながらも引き延ばされるような感覚。混乱した後に開放される感覚。対比を促され、神聖な気持ちにさせられ、不安定な場所にドキドキさせられながら、静けさと美しさに身を包まれた。
 

古典的な作品の魅せ方が斬新だった。
しかし、大好きな古典作品をも凌駕し、特に印象に残ったのは、作家のこだわりを強く感じる現代アートの作品群だ。
中でも驚いたのは、屋外の写真展示室だった。
一つ一つの作品を観る度に階段を昇らなければならない。次の作品は何だろうと思いながら階段を上がって観る10点以上の作品は、全て水平線だった。しかも最後の作品を観た後、ガラス貼りの向こうに次の作品が見えているにもかかわらず、行き止まりになっていた。相当な意地悪だ。
なぜ階段が必要なのか、行き止まりにしているのか、にわかに理解できなかった。もしかすると長時間その場に居続けて感じていれば少しは解るのかも知れない。しかし、その時、私たちにはその意図や感性を理解することは難しかった。美術館の珍道中は、不思議な美の感覚と共に混乱と未消化からくるモヤモヤ感を残した。
 
 

その後、私たちは、安藤忠雄の設計したホテルを訪れた。そのホテルの薄暗い地下に美術作品があり、夜に説明ツアーがあるとのことだった。現代アートの未消化を残したままでいた私たちは、喜んでその場所へ向かった。
 

「この空間は鎮魂の場所となっています。安藤やホテルのオーナーが戦争やテロ事件に大変心を痛めており、それに相応しい写真家に既存の作品を展示して欲しいと依頼しました」
私は、驚いて声を出しそうになった。ホテルの地下が鎮魂の場であり、エレベーターの場所も解らない程薄暗い。これほど斬新な発想があるだろうか。おそらく多くの宿泊客はリゾート感、リラックス感、娯楽を期待してホテルに泊まる。そのホテルの地下に薄暗い鎮魂の場を作ったのだ。私はその発想に激しく共感しながらも驚きを隠せなかった。
 

「この写真家は水平線の写真を撮り続けていて、その作品が美術館にもあります。それは、『人類が誕生した時からずっと見続けてきた同じ景色を撮りたい。それは水平線しかないのではないか』という理由です。人類の原点に帰るという意味を込めて水平線を撮り続けているのです」
 

「あの、意地悪な階段展示だ!」
私は、母の肩を叩いて目を見合わせた。ああ、少し考える材料ができた。
 

あの階段は時間の経過を表しているのかも知れない。
時によって天候が違う、明るさが違う。波の大きさが違う。場所が違うと海の色も違う。その微妙な違いを複数の写真で表現していたのかも知れない。
行き止まりだったのは、人類に対する警告かも知れない。このまま進んで良いのか、一度、顧みる機会を作っていたのかも知れない。
 

作家の本意は謎だ。受け止めは一人一人に委ねられている。
 

ただ、私が強く確信していることがある。この作家は、観る者に迎合することなく、貫きたい思いを形にした。その勇気と潔さと、どうしようもなく融通が効かない頑なさで、現代アート作家のこだわりを表現している。
何人に良いと言ってもらえるのか、どれ程多くの人にネガティブな評価をされるのか、そこに気をとられず、自分のあるがままを主張することこそが唯一重要で、なおかつ、そうするしかないと覚悟したような強い意志に支えられている作品だ。
 

おそらく誰もが様々な方法で表現をしている。文章でも、会話でも、写真でも、絵でも、音楽でも。その表現の根源はそのままのその人自身だ。
「私も母も、その時々に自分を表現するしかないのだな」
 

気づけば非日常空間の美術展示は、私に多くの示唆を与えてくれた。
「自分の感受性を広げること、ポジティブな目的を見失わないこと、自分の決意を大切にすること、こだわりながらも協働できる柔軟さを忘れないこと、そして何より楽しむように熱中すること」
宝物が閉じ込められた小さな箱のような空間から直島の海と自然へ意識を飛ばして、私は生かされていることを感じようとした。
 

直島がくれた驚きは、きっとこれからも度々繰り返し思い出されるに違いない。

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2018-12-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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