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メディアグランプリ

3日後に降臨した店員さん


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:よしだけんすけ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
急いで会場へ向かったが、日にちを1日間違えて、「明日です」と言われたこと、そんな経験をしたことはあるだろうか。
 
12月末、クリスマスも過ぎ、どこか落ち着いたような雰囲気が漂う日。そんな日に事件は起きた。
その日、奥さんは実家に帰省し、昼前には僕一人が家でひっそりと過ごしていた。
ライティング・ゼミの講義中、三浦さんが、海外ドラマ「ウォーキング・デッド」を面白い、面白いと連呼していた。
「止まらないんだよ」と言っていた。
アマゾンプライム会員である僕は、「そこまで言うのなら……」と何気なく再生ボタンを押してみた。
 
そう、今考えるとそれが事件の始まりだったのだ。
 
始まりのワンシーンから面白かった。開始5秒で引き込まれた。そして止められなかった。気が付くと昼を過ぎた頃になり、空腹に誘われて何気に時間を確認した。
 
普段から日々の生活は曜日で過ごす。日にちではなく、曜日だ。7:3くらいの比率で、曜日が主体の生活。冬休みに入っていた僕は、すでに曜日感覚がマヒしていた。そして日にちの感覚は崩壊していた。僕にとってその日は、何曜日でも何日でもなく、休みなのだ。楽しい冬休みなのだ。
 
だから、ウォーキング・デッドに入り込んでいた矢先、ふと時計を見た瞬間、なぜか勘違いをしたのだ。天狼院書店の「レタッチ講座」に遅れる、と。何の疑いもなく。
 
急いで準備をしないと、次の電車では遅刻してしまう、そういう時間だった。天狼院書店までは1時間程かかる。昼食をとっている余裕はない。しかしこれは勘違いである。「レタッチ講座」は次の日だ。だがこの時の僕は気付くはずもない。冬休み中の僕は、曜日も日にちも消えてしまっていたのだから。
 
「お昼はコンビニでおにぎりを買って食べよう」
「ぁ、でも会場で食べるのも気が引けるな。隣はカフェだし……」
「夕方からこれ一本、的なシリアルバーでも食べようか、歩きながら」
 
なんてことをズボンを履いたり歯を磨きながら同時に考えていた。急いでいるが、先を見通しながら準備する必要がある。仕事のバタバタに比べれば、それくらいちょろいものだ。ま、日にちは明日なんだが。
 
予定通り電車に乗り、予定通りの駅を出て、予定通りのコンビニで、予定していた昼食を購入。年末の落ち着いた雰囲気の中、歩きながらシリアルバーをかじっていた。
 
「10分前には着く。順調、順調」
 
と、ここまでの段取りに満足し、僕は信号待ちをしていた。数分後に「明日です」と宣告されることも知らず。
 
「こんなに急いで歩いているけど、本当は明日だったりして」
 
実はこの時、そんな「まさか」が僕の頭をよぎったのだ。スマホを出して確認をしようかとも思ったが、手はポケットに入れられたまま、冷たい空気がそれを邪魔していた。
 
書店の扉をくぐり、ホッと一安心しながら、間に合ったことによる軽い勝利感と共に受付のレジに向かった。
 
僕「今日の写真の講座に……」
店員さん「はい、お待ちしておりました」
 
だいたいこの流れだ。全てを告げずとも分かってくれる。そういうものだ。2Fにはすでに受付を済ませている人もいるだろうから。
 
僕「今日の写真の講座に……」
 
店員さんの「お待ちしておりました顔」がいまいち浮かび出してこないことに、一言目から気が付いた。そして頭の上に小さなはてなマークが見えた。見えてしまった。
 
店員さん「えーと……」
 
この時点で僕は全てを悟りつつあった。「今日じゃないかも」と。
iPadで情報を確認する店員さん。その姿を見ながら思う。
 
「店員さん、もう覚悟はできています。本当はあなたももうお気付きなんでしょう?」
 
店員さん「えーと……」
僕に見えるように丁寧にホームページを確認する。
 
「ぁー……明日ですね」
 
控えめに下された宣告を受けつつ、僕は次のことを考えていた。ここで大切なことは、冷静に対処すること。決して慌ててはいけない。誰にでも間違うことはあるのだ。肝心なことは、困惑している状態が店員さんにバレないよう、クールにやり過ごすことだ。
 
店員さん「ぁ……すいません」
 
謝らないで店員さん。あなたはどこも悪くないのだから。全ては僕の責任。冬休みで時が止まっていた僕が原因なのです。
 
僕「大丈夫です、大丈夫です。僕が勘違いしてましたね」
 
ここでもう1つ大事なことは、あくまで近場からふらっとやって来た感を出すこと。日にちを間違えたくらい何てことない、の風を吹かすこと。吹かしまくること。店員さんにこれ以上気を使わせてはいけない。申し訳ない。
 
「遠くから来られたんですか?」
 
やめて。やめておくれよ。そんなやさしい言葉をかけないで店員さん。当たっているよ店員さん。これ以上僕を追い込まないで。
 
「大丈夫です、大丈夫です。僕が勘違いしてただけなので」
 
話題を変えないければ。何とかこのパニックから抜け出す必要がある。僕は「レタッチ講座」の前に行われる「物撮り講座」のことを思い出した。そしてそのことについて質問した。もはやどんな質問をしたのか全く覚えていない。おそらく他愛もないことだ。きっと、ホームページの案内を読めば誰でも分かるようなことだ。だが質問した。そうするしか道は残されていなかった。このまま帰るわけにはいかない。まだ1分も経っていないのだから。何とかこの空気を薄めなければ。そして申し込んだ。「物撮り講座」の申し込みをした。してしまった。
 
店員さんは最後まで笑顔で、やさしく、温かかった。
 
「お待ちしております」
 
ありがとう。ありがとう店員さん。
 
翌日、追加で申し込んだ講座も含め、僕にとって非常に有意義な1日となった。受講して本当に良かったと思う。あの時の店員さんは休みだったようで、その日に顔を合わすことはなかった。
 
12月28日の金曜日。クリスマスから3日後。その日から天狼院書店のあの店員さんは「マリア」と名付けられた。次に会った時は一言お礼を言おう。
 
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2019-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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