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乗り継ぎ空港のようなシェアハウスでの生活


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:江原あんず(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
私は今、100世帯くらいが入る大型シェアハウスに住んでいる。シェアハウスといっても、もともと社員寮だったところが改装された物件で、各部屋にトイレやお風呂、ミニキッチンなどが備え付けてあるので、ほぼ一人暮らしと変わらない。交流の場として、大きなシステムキッチンやリビング、屋上のスペースがあり、そこで住人たちと自由に交流できる。
 
シェアハウスは乗り継ぎ空港を彷彿させる。様々な人種が、それぞれのユニークな人生の物語をカバンに詰めて、廊下を歩いている。例えば、同棲を解消してとりあえず引っ越してきた人、離婚を経験した人、親からの結婚プレッシャーに耐えかねて実家を出てきた人、田舎を出て都会で暮らしてみたかった人、外国から日本の文化を学びに来た学生……。みんなクールな顔をしてすれ違うけれど、ひとたび立ち止まって話し込めば、誰もが壮大な人生のドラマを持ち合わせているのだった。
共通しているのは、みんな貪欲な旅人だということ。自分らしい幸せを見つけるため、もっとよい人生を探すために、旅路をゆく。
私も例外ではなく、長く付き合い結婚をしようと思っていた恋人にフラれ、人生を再構築するため、シェアハウスに引っ越してきた。
 
思いきって始めた新生活は、とても快適だ。まるで、旅行者が乗り継ぎの待ち時間に、街に少し繰り出したり、コーヒーを飲みながらゆっくりと過ごしたり、ラウンジでくつろぎながら他の旅人と適当な会話を交わすように……、私も近所の公園を散策したり、お気に入りのカフェで自分の時間を作ったり、住人たちと話し込んだりして、シェアハウスでの暮らしを楽しんでいる。直行便に乗ってしまったら、きっと見えなかったはずの景色を胸いっぱいに吸い込んで、注意深く、心のシャッターを切りながら。
実際、毎晩、住人たちと話していく中で、多様な考え方や人生の在り方に触れ、白紙の地図に、少しずつ色が入っていくように、私の価値観はどんどん彩られた。本来ならば、同じ世界を生きていないような人たちと交流できること、それがシェアハウスの最大の魅力かもしれない。
 
でも、シェアハウスの楽しさは、いつも将来への不安と表裏一体だ。なぜなら、ここは単なる乗り継ぎ空港。どんなに今が楽しくても、一生身を置くことはできず、いつかは次の行き先に向かって旅立つことを、みんな心に留めて暮らしている。
同級生が起業をしたり、家庭を持ったり、出産をしたりする姿を横目に見ながら、次に乗る便も未定のまま、乗り継ぎ空港で過ごす時間は、正直、とてもしんどい。
だから、みんなで鍋パーティーをして「やっぱり、冬は鍋だね」と言い合ったあと、ふと我に返ると、心にピュル―と吹いてくる北風のようなものを、私たちは洗い物をしたり、ジョークを言ったりして、紛らわす。その「暗黙の虚しさ」こそが、このシェアハウスの、一番の共有物なのかもしれない、そう思うほどに。
 
私が入居してまだ日が浅い頃、今はもう住んでいないアメリカ人の住人が言っていた。
「このシェアハウスでの暮らしで一番大切なことは、そのとき、偶然にして出会ったメンバーとの刹那的な今を、思いきり楽しむこと。でも同時に、楽しさにのまれないようにすること。一生、ここには住めない。いつか、夢は覚める」
 
シェアハウスの住人との家飲みが楽しすぎるとき、ふらっと住人たちと近所に外食へ出かけたあとの、みんなで同じ家に帰ってくる安堵感に幸せを感じてしまうとき、私はそのアメリカ人が言った言葉を思い出し、自分を戒める。その言葉を思い出すと、楽しさで緩んだ心が氷で冷やされ、キリッとするのだ。
楽しくても、忘れてはいけないのは、みんな旅の途中だということ。いつかそれぞれの目的地に飛んでいく。だから、その日のために、私自身も行きたい場所を自分に問い続け、もがき続けなければいけない。その作業は、時に泣きたくなるほど苦しい。誰かが決めてくれたら楽なのだろうけれど、誰も決めてくれない。私のパスポートは、私しか所有できないのと同じように。
 
また、時折、直行便で、幸せに向かって行った友人たちを、うらやましく思う。私も、あのまま彼と結婚していたら、スムーズなフライトで目的地へ着いていたら、どんなによかっただろう、と。
でも、人生は一筋縄にはいかなくて、意味があって、きっとこの乗り継ぎ時間を与えられたのだと、そう信じたい。そして、あと数十年が経って、人生が今より少し熟されて、そこから振り返りをするとき、きっとこのシェアハウスで生きた日々は、みずみずしく、まぶしく、愛おしく見えるだろう。そして私は、おばちゃんらしく、目を細めて懐かしみたい。「あのとき、乗り換えることになってよかった。あの乗り換え時間こそが、旅の醍醐味だったわ」と。
 
そんなことを妄想しながら、私は今日も乗り継ぎ空港で、朝を迎える。ここからなら、どこへだって飛べるんだ! という、強い希望をカバンに詰め直し、「いってきます!」と重いドアを開けて。
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/66768

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2019-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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