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メディアグランプリ

与え続けた彼女が最期に貰った、たったひとつの物


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:雪(ライティング・ゼミ1DAY講座)

「ああ、気持ち良い」
薄暗い病室に入って掌を彼女の額にのせた時、祖母はそう言って瞼を閉じた。
外は真冬日で、冷え性の私は祖母の熱が高いのか平熱なのか分からなかった。
ただ、伝わってくるのは「生きている」ということだけだった。

ゼイゼイと苦しそうに息をしていても、「もう暗いから、帰る時間だよ」と気遣う姿は祖母らしかった。
いつも誰かのことを気遣っていて、自分のことは二の次だった祖母。
6年前に亡くなった祖父は認知症だったが、最期まで自宅で同居していた。
姪っ子たちは時々訪れては長話をしていき、ほとんど祖母は聞き役だったようだ。電話のやりとりを聞いたことがあったけど、祖母は「うん、そうかい」しか言っていなかった。
孫の私や弟たちが逢いにいくと、いつもお菓子や果物を持たせて帰らせた。それは小さな頃から、二世帯住宅で同じ家に住むようになっても変わらなかった。
お祭りですくった金魚を鯉みたいに大きく育てていたし、彼女が世話をした観葉植物はムクムクと育ち、鉢植えの花も毎年咲いた。

自分以外の、誰かのために。
ずっとそうして生きてきた人なのに、どうしてこんな目にあわせるのか。
食事もできず水もろくに飲めず苦しいだけなんて、神様は残酷なことをしてくれる。
そう思いながら「またくるね」と言って病室を出た。

家に帰ると、父がテレビの前でカサカサカサカサ、手を動かしていた。
見ると何かを折っている。
千羽鶴。
還暦を過ぎた父が黙々と一人で鶴を折っている姿を見て、なんとも言えない感情がこみあげてきた。
初めて父を、祖母の息子だと実感した。
そして、彼女の命が消えようとしていることも。

悪性リンパ腫で入院している祖母の体調が急変したのは、その翌日だった。
「肺炎になって、熱が出ている」と見舞いに来ていた姪から電話が来て、あれよあれよと「心不全を起こしているのですぐ来て欲しい」と父の携帯へ病院から連絡が入った。
「心の準備」とやらをしなければならないらしい。
今まで「死」は突然降りかかってくることだったから、どうしたらよいのか分からない。
なんなのだ、「心の準備」とは。
「今夜で最期かもしれないから」と病院に再び会いに行っても、圧倒的な「死」の気配にただ立ちすくむしか出来なかった。
無力だった。
完全に、無力だった。
私は祖母に、何かを返せたのか?
今までもらった分の優しさや愛情のひとかけら分でも、彼女に返せたのか?
そんなことが頭の中をグルグル回って、呻いたりもがいたりする姿をベッドの脇から見ていることしか出来なかった。
意識が混濁している中、時々ハッと目を合わせてくれた時の顔が「心配しないで」と言っているようで、最後の最後までおばあちゃんらしい、と思って涙が出た。

「少し落ち着いたから」と一旦家に帰った後、作りかけの千羽鶴が目に入った。
鶴を折っている間、父は何を思っていただろう。
私も何羽か折ってみた。
黙々と手を動かしている間は、不思議と気持ちが落ち着いた。以前、好きな作家さんが「不安になるのは大抵夜で、朝になればどうにかなる。寝れないのなら単純作業に没頭するのが良い」みたいなことを書いていたのを思い出した。
「考えすぎない」って、こういう時、必要なんだな。
そして折っている間に浮かぶのは、祖母との思い出だ。

小さい頃、一人で泊まりに行った時の古い家の匂い。
一緒に隣で寝た時の安心感。
毎年お正月に作ってくれた沢山のおせち料理。
お父さんとお母さんには内緒で、とくれたお小遣い。
ソファーで隣に座ってテレビを観た時間。
歌を聴くのが好きで、お気に入りの演歌歌手が出るとうれしそうにしていたこと。
いつも「何か飲むかい」「何か持っていきなさい」と言ってくれたこと。
くりくりの眼が、くしゃっとなってかわいい笑顔。
……ああ。
「心の準備」って、一緒に過ごした時間を思い返すことだったんだ。
思い出をひとつひとつ手繰り寄せて、つなぎあわせて。
そうして出来るのが、千羽鶴なのかもしれない。

神様は残酷だけど、ひとつだけ祖母にプレゼントをしてくれた。
それは、ずっと彼女が大切にしてきた「誰か」たちのための時間だ。
彼女の身体のぬくもりを確かめるための。
彼女に「さよなら」と「ありがとう」を伝えるための。
そして次は私たちの番だ、と決意させるための。
与えてくれた人には返しきれなかった愛情を、受け取った一人一人が大切な「誰か」に。
そしてその「誰か」が、違う「誰か」に。
命と共に、沢山の愛は受け継がれていくんじゃないだろうか。
そう気づいた時、おばあちゃんが笑ってくれた気がした。
もうすぐ朝がくる。

おばあちゃん、大丈夫だよ。
身体はなくなっても、思い出は残り続ける。
そしておばあちゃんのくれた愛情も、ずっとずっと、「誰か」の心に残り続ける。
だから安心して。
もう私たちのことは心配しないで、ゆっくり休んで。
ありがとう。おやすみなさい。
またね。
 
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2019-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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