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メディアグランプリ

トイレのおば様


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
おばさんが出てきた。
ズボン履いてないまま。
 
幸いなことにパンツは履いている。パンツは履いているが、おばさんの長ズボンはだらしなくシワを描いて足元にあるままだ。私の目の前で足元にあるズボンを腰まであげるおばさん。
なんとなく、すっきりした表情をしている。
その動きはゆったりとした優雅な動きだった。
おばさんは近くにいる私の存在を全く気に留めない。
ここは上海虹橋国際空港の女子トイレ。
なぜおろしたズボンをあげるという一瞬で終わる動作をわざわざ個室の外で行うのか?
私はポカーンとそんなことを考えていた。
すると、続々とパンツは履いているがズボンを腰まで上げてないおばさん軍団が個室から出てきた。
彼女達は何事もなかったかのように平然と人前で優雅にズボンをはく。
そして大声で話しながら嵐のようにトイレを去っていた。
衝撃であった。
 
帰国の日。
空港でトイレに行きたくなった。
食いしん坊な私は日本より安くてしかも並ばないで買えるタピオカを飲みすぎていたのだ。
友人に飲みかけのタピオカミルクティーを渡しトイレに入った。
満室であった。
私は日本人らしくお行儀よく待っていた。
すると嵐が来た。
おばさん軍団がガヤガヤと話しながらトイレに入ってきたのだ。
ちょうどその時であった。トイレの個室がちょうどおばさん軍団の人数分開いた。
私が「やっとあいた!」と思った瞬間に、すでに満室になっていた。
トイレの個室は後から来たおばさん軍団に占拠されてしまった。
トイレの取り合いに負けた私は呆気にとられた。
仕方なく待っているとズボンを履かないままのおばさんが続々と出て来たのだ。
 
上海の本屋のトイレでもこのようなおばさんをみた。
数日間しか滞在してないのでこれが上海で普通なのかはわからない。
ただ中国には壁がないトイレもあるというし、上海のおばさんにとっては恥ずかしいことではないのだろう。
もし自分が日本のトイレでおばさんと同じようなことをしたら恥ずかしくて死んでしまう。
 
私は今まで生きてきた中でトイレの個室の外でわざわざズボンを履く人を見たことがなかった。日本で大多数の人はそういうことをしない。言い換えると、日本人のたいていの人は「普通」はズボンを100%履いてからトイレの個室を出るのだ。
おばさんに違和感を感じたのは私が日本の「常識」を持っているからだろう。
 
私たちは日常的に気づかないうちに「普通」や「常識」が刷り込まれている。
大学卒業したら就職するのが普通。
最低三年は同じ会社に勤めるのが普通。
何歳までに結婚することが普通。
レストランで水が無料で飲めることは普通。
何かを待つときに順番に並ぶことが普通。
トイレットペーパーは便器に流すことが普通。
両親がいることが普通。
など。挙げたらキリがない。
会話でも「普通は◯◯だよね」、「普通の人はそんなことしないよね」などよく聞くフレーズだ。
私たちの周りにある「普通」は大きな力を持っている。
「なんでそれをやってるの?」と聞くと「みんながやってるから」「それが普通だから」って答える人がたまいる。自分がやりたいから、楽しいからじゃなくて。
これってすごいことだと思う。
興味のないことを盲目的にできてしまうのだから。
 
私もなんだかんだ「普通」に影響されている。
元々飲み会や大勢のコミュニケーションが苦手だ。
そういう場に行くと自分は「普通」を頑張って演じる。
みんなが面白いと思うとこで笑ってみたり相槌をうったり。
ちゃんと演じられているかは疑問だが。
普通に見えるように振舞おうとはしている。
 
でも、普通じゃないとだめなんて誰が決めたんだろう?
どうしてみんなそんなに必死になって普通を守ろうとするのだろう。
常識にしがみつこうとするのは何故だろう。
確かに後ろ指さされずに生きやすいのかもしれない。
でも就職にせよ、結婚にせよ、人が自分自身納得して決めた選択を誰が批判できるのだろうか?
他人にそんな権利あるのだろうか?
それが普通じゃないからといって。
人生はたったの一回きり。
普通を気にしながら生きるってすごく勿体無いんじゃないか。
 
上海では日本の「普通」や「常識」なんて通用しない。
昔「常識」と考えられていたものが時間を経て変わっていくこともたくさんある。
私たちが信じてる「普通」なんて時や場所を変えたら通用しないのだ。
ちょっとした幻想みたいなものなのではないか。
「普通」は他人を簡単に納得させる便利な道具だ。
「普通」だと他人に干渉されずに楽に生きていきやすいというだけで。
でも実は普通になるってすごく難しいことなのではないか。世の中いろんな人がいるのに普通という一つの枠に入りきれるわけない。
 
そう考えると少し心が軽くなった。
トイレのおばさんありがとう。私の中の「普通」を壊してくれて。
トイレから出た後、残ってたタピオカを飲み干した。
ゴミ箱にタピオカのボトルと頭に染み付いた「普通」を捨てて出国ゲートに向かった。
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/66768

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2019-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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