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メディアグランプリ

その呪いは、いかに解かれたのか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:砂島 迅(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「誰がお前なんかを、昇進させたのだ。お前を評価したやつの、気が知れない 」
言葉の意味が理解できなくて、私は、ぽかんと口をあけた。
怒りより先に、強い困惑に襲われた。発言者は、初めて顔を見る、事業部長だ。所属部門のトップだ。組織のトップが、初めて見る私に「お前の昇進なんて、知らなかった。納得いかない」と、評価者ではなく、評価された側の私に、ぶつけている。意味が、まったく解らない。解らないが、その発言は、「呪い」となって、瞬間、当時まだ若かった私の心臓を、きつく呪縛したことだけ、はっきりと認識した。
 
「ラッキーだった、のかもしれません。まだ、ボーダーラインに立たせて頂けただけなので、今後は、事業部長からそのように言われないよう、いっそう頑張ります。失礼します 」
引きつった笑顔で、泣きださないように、そう答えるのが精一杯だった。 事業部長室から、逃げるように走り出さないよう、歩を抑えるのが精一杯だった。
 
その年の7月、私は一つ上の職級に、昇進した。 5年半ほど、客先に製品カタログディレクターとして常駐し、とある製品の販促カタログの、企画制作ディレクターをしていた。
 
わかりにくい製品機能について、エンジニアの生の声を取材したり、利用者の生の声を取材したり、制作会社さんとのスケジュールを管理したり、どうしたら魅力的な製品画像になるか、カメラマンさんと議論したり。バタバタとした5年半だった。合間に、そうしたさまざまな会社の方と、まともな話ができるように、カラーコーディネーターの資格を取ったりもした。
 
そんな私を、客先は結構信頼してくれていたように思う。客先の製品開発会議や、デザイン企画会議にも顔を出させてもらい、カタログディレクションに必要な情報は、なんでもくれた。充実した5年半。 その矢先、「そろそろ、自社に戻ってくれないか」と上司が打診してきた。「次の7月で、昇進だから 」と。異論はなかった。後任の話が出ないのが少々気がかりだったが、おいおい相談しようと、二つ返事で快諾した。
 
後任者は、出なかった。縮小撤退戦だったのだ。私が昇進すると、人工価格が上がる。その費用の上がりを、客先は拒んだ。残念ながら、客先現場や私の後ろで、会社同士の交渉は決裂していたのだった。
私は、価値を作れていなかったのだろうか。失意を感じつつ、最後のカタログをディレクションし終わった時、現場のカメラマンさんや制作会社さんと、客先現場の有志の方が、送別会を開いてくださった。
 
「砂島さんは、うちの会社の良心、だったよ。その方針は、その記載は、うちの会社として、読み手に知らせるべき内容か。常にその視点で、カタログを作ってくれていた。その志を忘れずに、これからも頑張ってください」
客先の現場長から、最後にいただいた大きな花束とともに、その言葉を胸に刻み、私は自社に戻った。
そして自社に戻ったその日、私は事業部長室に呼び出され、がっちりと「呪い」に呪縛されてしまったのだった。
 
「呪い」はことあるごとに私を蝕んだ。昇進した職級に相応しくなるために、勉強をしなくては。私の昇進を告げた上司は、事業部長と合わず、心を病んで休職していた。そこへ、常駐していた客先が、大きな仕事をくれた。事業部長はいい顔をしなかったが、自分の売上になるということで、担当営業が味方をしてくれた。自社でも、私はカタログディレクターを続けられることになった。
「今までと同じ仕事を取るのか。やはりお前はバカだな。リーダーには相応しくない」
事業部長の呪いの言葉は、ざくざくと心を刺した。
 
時が経って、事業部長が定年退職した。私は新設部門のオープニングメンバーとして異動することになった。マーケティング部だった。カタログディレクター時に製品の作り手や、利用者の声を取材していた事を聞いた部長が、私を抜擢してくれたのだ。
 
マーケティングには全くの初心者だった私は、勉強を始めた。事業部長が定年退職しても、「呪い」はがっちりと私の心臓をつかんで一時も離さなかった。ちょっと様子が違ったのは、マーケティング部には「リーダー」がいた。私は、彼が指し示す方向を聴き、勉強し、材料をあつめ、他のメンバーが歩き易いように、関係するあらゆる事を学んだ。マーケティングの企画、メールの書き方、ツールの使い方、セミナーで集客する方法、自社サイトに掲載するコンテンツの制作。そうして年ごとに、受注につなげる金額を、倍々で更新していった。
そうかもしれない。私は、きっとリーダーじゃない。あの事業部長のいう事は、正しかったのだ。
 
翌年、マーケティングチームが、解体された。「リーダー」が、異動になった。その後を、私が引き継ぐ形でリーダーになった。あの「呪い」が、夜毎に頭のなかで、再び強く木霊するようになった。そんなとき、Facebookで、偶然、カリスマともいえるマーケターの「マーケティングの実験勉強会を開催する」という投稿を目にした。
 
外資系巨大企業の、グローバルマーケティングを統括されていたひとだ。私からしたら、雲の上のひと。異動した「リーダー」が「顧客の成果を考えられないマーケターは、存在価値がないって言っている、面白い人だよ」と教えてくれたのだった。
 
入会を断られるかもしれない。その時はその時だ。私は、Facebookのそのひとの勉強会に、参加の手を挙げた。入会は認可された。そして、その勉強会は、ただのマーケティング勉強会では、なかった。おのれの存在価値を問い、何のために生き、何のために働き、そしてお客様のためになるにはどうしたらいいのか、徹底的に参加者が議論していく、生々しい勉強会だった。 集まったひとびとは、マーケターだけではなく多職種多様。
 
「雲の上のひと」は、自らを「ファシリテーター」と呼び、熱い熱量を持つ意見を掘り出しては、深めていき、私たちに問いかけ、私たち自身の答えが出るようにしていく。いろいろな価値観が交差するなかで、勝手に意見が深まっていく。そんなある日、「ファシリテーター」が言った。
「リーダーは、会社組織の階級に、縛られるものでは、ないのです」
 
え。今、なんて? 「リーダー」は「会社組織の階級に」「縛られない」……?
言葉の意味が理解できなくて、私は、ぽかんと口をあけた。
驚きより先に、強い困惑に襲われた。リーダーって、会社の階級に、縛られなくても、本当にいいの……?
その言葉は「祝福」となって、瞬間、くたばりかけた私の心臓に、きつく食い込んだ「呪い」を、ゆっくりと溶かしていった。時間をかけて、ゆっくりと。数年ぶりに、胸が、呼吸が、楽になった。
 
これから先のことは、誰にもわからない。大変な事のほうが多いだろう。けれど、いままでよりは楽な気持ちで、生きていけそうな気がしている。
 
 

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2019-01-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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